33.私も妹がこんな子だったらよかったのに(side:アシュレ)
久々に勇者君以外の視点入りま~す
“全くなんでラストダンジョンが可愛くみえるような所を散策する羽目になるんだか”
「ふふふ……そんなのお人よしだからの一言で済む」
アシュレはケバブの独り言じみた言葉に対して突っ込んだ。
どうせこの言葉は届かないとわかった上で突っ込んだ。
なにせ常人なら踏み込んだ瞬間発狂死してもおかしくないようなところまで来る理由が
“エクレアの力になってやりたい”
それだけなのだから、もう笑えるレベルだ。
「本当にとんでもないお人よし」
笑うのをやめ、再度ケバブの背中に向けて突っ込む。
その後はアシュレは部屋へ戻り、エクレアが寝てるベットに腰掛けた。
相変わらずエクレアは起きる気配がない。
まぁ夢の悪魔である“キャロット”の力で強制的に眠らされてるのだ。ちょっとやそっとでは起きないだろう。
つまり、“キャロット”としてはこれからケバブと話す内容は極力誰にも知られたくないという事ということでもある。アシュレが今回あっさり身を引いたのはこのためでもある。
「くくく……私も妹がこんな子だったらよかったのに」
アシュレはエクレアの手を握りながら自身の半生を思い起こす。
なんてことはない。ケバブが戻ってくるまでの間の暇つぶしだ。
……………………
アシュレは両親の顔を知らない。
物心ついた時には孤児として教会に預けられていたからだ。
アシュレが独自に集めた情報を統括すれば、自分は貴族の出……ビショーク子爵家の長女として生まれるも、見た目の不気味さから父に疎まれていた事がわかった。
幸い母はアシュレを愛していたようで、それが気に入らなかったのか父は婿養子であるにも関わらず愛人と入れ込んだ挙句子供まで作ったのだ。様々な意味で母とアシュレが邪魔な存在となった父は義両親を味方につけて二人を子爵家から追い出した。
こう書けば子爵家の乗っ取りという、どうあがいても父は断罪される立場であるが……母も母で罪を犯していた。
母は当時姉の婚約者だった父と結婚したいあまり、姉に冤罪を吹っ掛けて子爵家から追い出したのだ。
もっとも、姉は平民……自由気ままな冒険者暮らしに憧れていた事もあってか婚約を解消して家を出る機会を窺っていたらしい。追放は望むところだったようで、妹の横恋慕はまたとないチャンスだったようだ。しかし、母は姉の真意を知らなかったせいでアシュレの存在と追放は自身の欲深さが招いた罰と思ったようだ。
自分の行いが罪だと自覚して悔いていた辺り、母は根っからの悪人ではなかったのだろう。
子爵家から追い出された母は教会を頼った。その際にアシュレを身寄りのない子として、自分とは血縁のない子として預けたらしい。
その理由はアシュレを疎ましく思ってるからではなく、アシュレを守るためであった。
なにせ、教会には母の姉のような被害者が……婚約者を寝取られただけでなく冤罪を吹っ掛けられて勘当された者が多く所属していたのだ。
そんな被害者の立場からみれば母は加害者と同じ人種。
ざまぁという形で報復を受け、反省の意を示しても感情的に受け入れられる存在ではない。
だからこそ、母はアシュレを赤の他人の子供と偽った。
被害者からの憎悪がアシュレに向けられないよう、全ての憎悪を自身が請け負ったのだ。
アシュレはそれらを知ったのは、母が死んでしばらく経ってからだった。
だから、アシュレは母の顔を知らない。
もしかしたら幼少時に世話をしてくれたシスターの一人が母だったのかもしれないが、今となればもうわからない。
それでも……アシュレは母から確かに愛情を受けていた。
顔がわからずともその事実だけで十分だった。
そんなアシュレは、成長するに連れて異常性が目立ってきた。
アシュレは幼い頃から神との交信する才能があったようだ。
教会の祭壇で母と思わしきシスターと共に祈りを捧げてきたからか、その才能を伸ばす機会が多かった。加えて、身近に神と交信する力を持つ事が多くいた事もあって、アシュレの才覚に気付く者も多かった。
そんな者達の勧めもあってアシュレは聖職者としての修行を積む事になるも……
なぜか、神の力を起源とする神聖魔法は使えなかった。
他の才能を持つ者は神に祈りさえすれば力を貸し与えてくれるのに、アシュレの祈りに神は応えない。
どれだけ熱心に祈っても、神は力を貸さない。
その理由として様々な仮説が立てられるも、その中で最も有力とされていたのが……
悪魔に憑りつかれて魅入られてしまった者である“悪魔憑き”
これを疑われたからであろう。




