32.誰が夜這いだ!!
おまわりさんこっちです案件まったなしwww
「誰が夜這いだ!!」
ケバブは突っ込む。意義ありと言わんばかりに突っ込んだ。
エクレアの寝室に最初から居たアシュレに対して突っ込んだ。
「何か間違いでも?こんな真夜中に女の子の寝室へこっそりやってくるだなんて、どうあがいても……ねぇ」
そんなアシュレはネグリジェ姿でエクレアのベットに腰掛けたままくすくすと笑っていた。
笑っているだけで侵入してきたケバブに対しては怒ることも追い出すようなこともしない。
なぜなら……
「向こうから時間と場所を指定されたんだから、仕方ないだろ……はぁ」
ケバブは思わずため息を付く。
彼だってわかっていた。真夜中に寝ている女の子の寝室にこっそり侵入なんてどう考えてもHE☆N☆TA☆I☆の所業だ。
エクレアは男の浪漫に理解を示す性格なので夜這いも顔面への拳一発程度で許してくれそうだが、彼女の男友人達はそうでもない。彼等にこの件が知られたら翌日に訓練と称したリンチにされるのは確定的に明らか。
それでもゲバブはこの時間帯に訪れた。
訪れる理由があった。
「それで、大丈夫なんだろうな?」
「感度ばっちり。まさに絶好日和」
「その言い回しやめろ。お願いだからやめてくれ」
「くくく……意味は大体同じ、何も問題ない」
「あるんだよ。その言い方だと今からエロ同人みたいな乱暴するように思われかねないじゃないか」
「だったら勘違いはさせておいた方が需要ある。なんなら私相手でも」
そう言いながら足を組なおし、するっと肩をはだけさせるアシュレ
普段はやぼったい神官服で肌の露出を避けてる彼女だが、相変わらず脱げばすごい。
組みなおしたことでむっちりとしたふとももが、はだけさしたことでたわわに実った胸がこれでもかというばかりに主張しはじめたのだ。
しかし、ケバブは動じない。
額に手を置きながら再度ため息をつく。
「とりあえずわかった。お前が正気でないことがわかった」
「ふふふ……今夜は満月。人ならざる者との接点が増える時間だもの。影響受けても不思議じゃない」
「どこの誰に影響を受けたかは……言うまでもないか」
「愚門すぎる」
二人の視線の先は同じ……ベットの中で安らかな寝息を立てているエクレアに向けられた。
二人共小声どころか大声で口喧嘩していたというのに全く起きる気配がなかった。
これでは本当に夜這い仕掛けられたらまずい事になるのではっと少々不安ではあるも、まぁケバブが邪な感情を出してないからこその熟睡だろう。
いくら騒いでも目が覚めないからと調子乗って欲望を垂れ流しながらのルパンダイブを決行すれば彼女は起きる。
即座に飛び起き、昇竜拳辺りを見舞われてお星さまにされる。
そんな未来が見えてしまうので試す気はない。ないったらない。
「とにかく、準備できてるなら早速向かう。だからいい加減」
「イエッサー。お遊びはやめてリンクさせる……というかもう終わった」
アシュレはどや顔しながら扉を開け放つ。
開け放たれた扉は本来なら居間に通じているはずだが、今は真っ白な空間が広がるのみ。
「随分早いというかえらいあっさりだな」
「満月の夜だから異界との門は開きやすい。それに向こうから干渉してくれた」
「そうか、約束通り俺を招いてくれたのか」
向こうからしたら選択肢がほぼ限られていたわけだ。
強硬策を取られたら危なかったが、こうして招いてくれたところをみると話し合う価値ありとみてくれたらしい。
ただ、話し合い先をこんなとこ……“深淵”内を指定する辺りまともに話し合う気あるかどうか怪しいところあるが……
「くくく……“深淵”の奥に眠る“混沌”……いつも門前払いだったけどケバブが居る今日は奥地へ行けるはず。そこにきっと理想郷が」
思考へふけってるうちに、アシュレが怪しく笑いながら一歩踏み込む。
ここは常人だったらまず踏み込めないであろう空間であるも、彼女はこういった地に踏み込む才能はあったようだ。
だが、ケバブはアシュレを呼び止める。
「すまないが、今回は俺一人で行かせてもらえないか」
「えっ?」
同行を拒否。その事にアシュレはショックを受けていた。
普段はそういった感情を表に出さないアシュレが珍しく表に出したのだ。
それだけショッキングなのだろうが、ケバブとしては譲れなかった。
「ここは“深淵”なんだろ。道中どんな冒涜的なものが出てくるかわかったものじゃないし、もしかしたら迷って出口がわからなくなる事もある。だから万が一の時に現実へ引き戻してくれる人が居てくれた方が助かるんだ。それに……その……」
言いにくい事なので少々しどろもどろになるも、アシュレは察してくれたようだ。手で制した。
「いい。気を利かせて言葉濁らせる必要ない。逢引望むなら野暮な真似はしない」
「逢引……いや、それはそうなんだが、もう少し言い方ってものが」
「行くなら早く。この部屋の接続は時間制限ある。もしここ消えたら異空間との接触手段持たないケバブは……」
言葉途中でにやりと笑うアシュレ。
その意味を察したのかケバブはさーっと青ざめる。
「わかった。今から“キャロット”にあってくるからそれで……アシュレの希望も叶えてもらえるよう俺からも頼んでみる事にする。それじゃ」
時間制限付きとわかったのか、ケバブは躊躇なく外へ出る。
部屋から外へ出た瞬間ケバブの中の何か……おそらくSAN値と呼ばれるナニカが削られた気配がある。
時間制限だけでなくSAN値の管理も必要。
おまけに周囲は白い空間で目印なんてものはない。
「全くなんでラストダンジョンが可愛くみえるような所を散策する羽目になるんだか」
ただ、なんとなく感覚的にどこへ向かえばいいかわかる。
おそらくこの“深淵”の管理者が導いてくれてるのだろう。
それだけはありがたいと思いながらも、SAN値がごりごり削られながらケバブは奥地へ向かっていった。
そこで待ち構えているのは神か悪魔か、それとも………
そのご ゆうしゃのゆくすえをしるものは だれもいなかった?




