30.俺を殺す気ですか?
本来なら死亡フラグなのに全然死亡フラグにみえないから不思議であるwww
魔王であるブラッドと二人っきり。
ケバブは二人っきりを希望していたとはいえ、改めて意識した魔王ブラッドは強大だった。
到底勝てる気がしない。勇者のチートをもってしても勝てないと言わざるを得ないほどの威圧感はあるも……
「ふぅ……相変わらずの嫌われようだ。あの年ごろの娘にとっての父親とはそういうものだと思って気にしないようしてるが、それにしたってあれはひどい。そうは思わないかい?」
その話ぶりは、思春期の娘に嫌われすぎてどう接すればいいのかっと悩むお父さんそのものであった。
「すいません。こればっかりは義妹の……エクレアちゃんの肩持ちますよ」
「君もそうか。全く、人間の感情は複雑でよくわからん。父上もよく人間でしかも聖女であった母上を口説き落せたものだ。今更ながらに父上の偉大さを実感してしまう……っという私情はこの辺りにして続きといこうか。実は言うといずれは二人っきりで話をしたいと思っていたのだ。勇者ケバブ君」
そう口にしたブラッドからの威圧を受け、ぞわりと背中に寒気が走った。
空気が変わった……
先ほどまでの娘の扱いに困ったお父さんとしてではなく、世界を蹂躙する魔王として改めて降臨した。
その威圧を受けてケバブは冷や汗を流すが……
「俺を殺す気ですか?」
自分でも驚くほどの冷静な声で問いかける事が出来た。
「管理者という立場であればそういう選択肢もありうるということだ。本来なら勇者はまだ現れないというのに現れたということはバグによるイレギュラーな存在だ。世界に悪影響を与えないうちに始末するのは何も間違ってないと思われるが、どうかな?」
これは普通だったら死の宣告と受け取れる。
選択肢を少しでも間違えたら、その瞬間殺される。
まさに命の危機だというのに、ケバブは落ち着いていた。
さきほどエクレアが顕界させた“深淵”を見た事で耐性がついたのか、冷静に状況を分析する。ブラッドの問いかけの意図を推測し……結論をだした。
「管理者としては間違ってなくともブラッドさん、貴方は俺を殺さない。殺す気はない……そうですよね」
「なぜそう思う?」
「殺す気ならとっくの昔に殺してるから。危険だというなら俺が勇者になって1年も放置しない。エクレアちゃんも魔王が現れたから勇者が現れたと言ってたぐらいだし、管理者としての権限もある貴方なら勇者が誕生してる可能性を考慮してるはずです。俺の存在は前々から把握済みだったのでしょう」
目の前の魔王は無能ではない。先ほどエクレアを正論で制したように、様々な事態を考慮して動ける優秀な人だ。
だからこそ『神』から仕事を押し付けられる羽目になってるが、それだけ優秀なら『勇者』の存在を把握しながらもあえて放置していたとも考えられる。
それは正解だったようだ。周囲に満ちていた殺意は消えた。
「その通り。ここで狼狽するようなら少々教育を施そうと思っていたが、その必要はなさそうだ」
どうやらブラッドのお眼鏡にかなったらしい。
命の危機がなくなった、その事実にほっとした。
「『魔王』と『勇者』の関係だが表裏一体なのは本当だ。そういったシステムで運用されてる世界は多い。この世界も魔王と勇者が争うことで人間同士による泥沼の戦争を行う事なく均衡を保ってたが……履歴をみるとバグだらけの不備だらけ。君はその煽りで発生したバグだ」
そう言い切ると同時に魔王はため息をつく。その姿は先ほどの威厳ある魔王ではなくトラブルにまみれて辟易してるシステム管理者だ。
「バグですか。ならステータス画面にところどころ文字化けしてるのはバグだからでしょうか?」
「そうなるな。本来ならこういったものはデバックを行って安全性を確保してから起動させるべきだというのにバグったまま使用に踏み切るとは、奴は世界を壊してもいいおもちゃと思ってるのだろうな。あえてバグった世界で何が起こるか楽しみにしてるのだろうな。それで被害被るのはこの世界に住む者達だというのに……………はぁぁ」
「あの……なんでそんなのが神というか管理者やってるんでしょうか?大問題ですよね」
「通常ならな。だが奴は上に対してコネでもあるのか、賄賂でも渡してるのか、処罰できないのだ。訴えてもどこかで握りつぶされて逆に訴えられてしまう。そういった事例が多数起きてて私のような雇われの身ではどうしようもできない」
「その割にはあんまり悲壮感みえないのですけど」
「まぁ奴もやりすぎたからな」
ブラッドはその言葉を待っていたのか、にやりと笑いながらその根拠を話し始めた。




