29.もう少し優しくしてあげてもいいのでは?
さりげなく第2章4話の伏線回収。
ちなみにこれは狙ってやったわけでなく……偶然発覚した事による後付け設定である_(:3 」∠)_ソウサクデハヨクアルコト
「さてっと話の続きだが……」
お茶の形をした蠢く緑の何かを平然と飲み干したブラッドは改めて話しかける。
「君の身の内に起きたことは娘のやらかした何かが原因となったバグなのだろうが、根本的なとこはシステム自体のほころびからくる不備だろう。いくら私が『魔王』と名乗り上げたとしてもまだ本格的に活動をしていない、いわば自称の状態なのに『勇者』が出現した。これはシステム面でのエラーだ。全く早期にダンジョンが起動しただけでも困った事態だというのに、さらに仕事を増やすとは私に恨みでもあるのかね?」
「あるよ。だってねぇ……お母さんの件抜きにしても、初対面で私に何やったか忘れたとは言わせないし」
後ろ姿なので表情はみえないも怒気を込めたエクレアの発言。
ブラッドは意に介さず涼しげに受け流して反論する。
「それはこっちの台詞なんだがな。後の調査で判明したがダンジョンの起動と活性化は君が4年ほど前にダンジョン入り口付近で味噌の成りそこないをばらまいたのが原因ではないか。あれでダンジョンが休止から目覚め、なおかつそのなりそこないを食して死んだ魔獣達をダンジョンが吸収したせいで活性化したわけで……」
「うぐぐ……知らなかったもん。私あんなとこにダンジョン眠ってるだなんて知らなかったもん」
「知らないで済む問題ではない。ましてや世界のシステムにまで干渉してしまう君の行動には重大な責任が伴うということを何度も伝えてるはずだが」
「ぐぎぎ……」
正論だった。エクレアにはそれだけの力がある。バランスブレイクになるからこそ、むやみやたらと力を振り回さないよう自分を律する必要性がある。
だからエクレアの思惑や内心がどう思ってようとも文句言える立場ではない。
自分の危険性を熟知してるからこそ、何も言えず歯ぎしりするのみ。
でも、いくら正論だからって言い方というのはあるしここはエクレアの肩を持とう。
巻き添えは怖いが義兄として言うべきことは言っておこう。
「あの、エクレアちゃんまだ子供だしもう少し優しくしてあげてもいいのでは?」
「残念ながらこれは私ではなく母親の意向だ。娘には厳しくしつけてほしいっとね。もちろんさきほどみたく力で訴えかけて来れば、容赦なく折檻してもよい許可はとってる」
「あれは貴方が挑発したからでしょうに」
この人だってエクレアから嫌われているのは知ってるはずだ。
あんなお茶を躊躇なく出すぐらいだし、よほどの鈍感でなければ自分がどう思われてるか知ってるはずなのに……
「私は本当に娘と思ってるのだがな」
ぞわり
またエクレアから憎悪が激しく漏れ出た。
これはやばいっと察したケバブはとっさに動く。
席から立ってエクレアを後ろから抱き止める。
「どーどー、落ち着いて落ち着いて。ここで殴りかかったら完全に負けだから落ち着こう」
「ふーふー!!」
同行者の3人だったら自己責任として放置するも、エクレアはまだ成人してない子供だ。
そんな子供が自分だけで怒りの感情を抑えろというのは無理という物。
だから必死にエクレアを諫めた。
仮とはいえ、出会ったばかりとはいえ、遊びでもエクレアから兄と呼んでくれたケバブからの諫めは効果あったらしく次第に落ち着きを取り戻してくれた。
「あの……魔王さん」
「わかったわかった。お遊びはこれぐらいにしておこう」
いや、本当にわかってるのかって突っ込んでやりたい。
エクレアがブラッドを父と認めないのは、母を奪われた事による嫉妬や焦燥感ではなく人の神経を逆なでする態度が原因だと突っ込んでやりたい。
ただそれは、昨日今日知り合ったばかりなケバブではなくもっと別の親しい人物が言うべきと思うので今は自重することにした。
……決して下手に刺激して親子喧嘩に発展した時に巻き添え食らいたくないからではない。決してない。
とにかくエクレアがこの場に残り続けると、ろくなことにならないのがわかった。
なので、ケバブは後片付けは自分でするからっと提案して退出してもらう事にした。
こうしてケバブはブラッドと二人っきりとなったのである……




