28.モブが『勇者』になった?
ケバブ君は俗にいう『村勇者』ってやつですな……
まぁヒロインの村の勇者ならランク6の『世界の勇者』を名乗れるぐらいの力ありそうだけど(笑)
「さて、ケバブ君。君がここに来たのは、なぜ前世の記憶が戻った事となぜ勇者に選ばれた事。この二つが聞きたいでいいのかな?」
「いえ、俺が聞きたいのは別にあるのですが、それも気になってたのでまずその二つでお願いします。エクレアちゃんから聞いたのですけど、貴方は世界を管理する『神』の、いわば代理人の立場なのですよね」
「不本意ながらな。全く本来なら世界の管理は奴の仕事だというのに、ほぼ全てを部下や派遣でしかない私に放り投げ寄って……やはりあいつは神失格だ。早いとこ排除せねばならん」
エクレアから聞いた話は本当のようだ。
ケバブは前世でも今世でもそういったタイプの人種からいいようにこき使われていたのだ。同じ悩みを持つ者同士として共感できる。
ブラッドの態度に嘘はないっとはっきりわかるほど共感していた。
裏に関してはわからないも、今は重要ではないので後回しだ。
「では改めて聞きます。俺はなぜこの世界にいるのか?」
「ただの偶然で全く意味がない。君はただのモブだ」
「ただのモブ……モブが『勇者』になった?」
なんらかの宿命とか役割があるとか思ってたのに、実際はただの偶然。モブがなんらかの作用でたまたま勇者になっただけ……
なんじゃそりゃっと言いたいも、話は終わってなさそうなので口をはさむことなく続きを聞くことにする。
「その通り。元々前世の記憶を取り戻すなんて本来なら起きるはずがないバグ。それが起きたのは……まぁむす」
ダン!!!
ブラッドの言葉を遮るかのごとく、目の前に湯呑が置かれた。
「お茶」
ただ一言。それだけなのにエクレアの発したその一言からはとんでもないほどの邪気が込められていた。
そこらの一般人なら発狂死してもおかしくないほどの『呪言』であったが……
それ以上に凄いのがお茶であった。
ブラッドの前に置かれたお茶は、どうみてもさきほどうっかり作ってしまった味噌もどきの廃棄物なのだ。
緑色の液体が蠢きながら亡者の嘆きのような声を発してるし、殺す気満々なのは確定的に明らか。
だというのに……
「はい、お兄ちゃん。お茶」
ケバブに対しては邪気は邪気でも無邪気に笑顔で湯呑を置いてくる。
こちらはごくごく普通の緑茶。色合いも香りも緑茶だ。
この分だと味も緑茶なのだろう。
普段なら懐かしの日本の味として楽しめるが……
今は楽しめない。
楽しめる心境ではない。
もしブラッドが嫉妬深い性格だったら、この扱いの差に対しての理不尽なとばっちりを受ける。
親子喧嘩?に巻き込まれる。
っと思ってたら
「どうした?飲まないのかね」
飲んでいた。
あのメシマズ系の最高峰レベルX。お茶と呼ぶには無理ありすぎなアレを平然と飲んでいた。
「ちっ、やっぱりあれじゃ死なないか」
やっぱりということは、エクレアもこれで殺せるとは思ってなかったようだ。
ただ追い打ちをかけるような事はせず、黙々と散らばった書類を拾い集めにかかっていた。
「うむ、自分で仕出かしたのだから後始末は当然。父親としてうれしく思うよ。ありがとう」
「………」
今度はエクレアからの反応がない。
まるで聞いてない、聞く気はないっといわんばかりに黙々と書類を拾い集めてる。
その姿は逆に怖い。怖かった。
何かのきっかけで爆発しそうで怖いのだ。
おかげで緑茶の味が全然わからない。
美味しいのだろうが、一瞬即発の空気のせいで全然わからなかった。
こういう時は膝をついてやり過ごすしかあるまいw




