26.あぁ……そうか……アレに“食われた”のか
オレサマオマエマルカジリ
「カクカク、シカシカ」「マルマル、ウマウマ」
ゴブリン達の語る内容は片言で途切れ途切れな事もあって要点を掴むには苦労したが、要約すると……
彼等は2年前まで大所帯なゴブリンの群れに所属していた一派の生き残りらしい。
その辺り詳しく語ると……
3年ほど前にあるゴブリンの群れでキングと多数のロードが生まれた事から始まった。
キングは優れたカリスマ性でもって周辺のゴブリンの群れを瞬く間に掌握して吸収。そのまま大勢力を結成させた。
しばらくは数の暴力とロード達の優れた戦術でもって人間たちから景気よく略奪を行うも、ある時期に穏健派だった一匹のロードがキングの方針に異を唱えた。
無計画な略奪は人間たちを怒らせる。今はよくてもいずれ大群が来る。群れ以上の大群が送られて駆逐される。必要以上の略奪は控えるべきっと訴えるも聞き入れられず……
彼等は逃げた。
このまま群れに留まれば遠い将来駆逐されると察し、自身の意見に賛同する一派と共に西へ逃げたそうだ。
そこから先の苦労話は諸々の事情で割愛するとして……
キングの元から逃げたのは正解であろう。
去年はレガール周辺で尋常じゃないほどのゴブリン被害が出ていたのだ。
領主の怠慢や冒険者ギルドの横着で大群こそ送られなかったが、その代わりとしてケバブやグランのような一騎当千の冒険者が送り込まれた。
その後は知っての通り……キングが率いる群れは全滅した。
ケバブ達は被害者の悲惨な姿をみて義憤に駆られていた事もあり、徹底的にゴブリンを駆逐した。
子供だろうと怪我人だろうと……『人前に出ない善良なゴブリン』だろうとあの周辺に居たゴブリンは平等に皆殺し。
この時点でその穏健派なロードに先見の明があったのは確定的に明らか。
成長すれば厄介な個体になったであろうも……
そのロードは去年エクレアに殺されたらしい。
どうやって殺されたかについては……
「ヤミガ……ヤミガ……」「ヒキズリコマレタ……」「コワイ……オソロシイ」「オレタチイキカエッタ。デモ、リーダーハ……」
(あぁ……そうか……アレに“食われた”のか)
とにかく、このゴブリンは去年の秋に退治した群れの生き残り……
一度死んでるから厳密には生き残りでないが、死んだ後に魔王がダンジョン機能を使って蘇生させたようだ。
蘇生後は人前……ここのような限定された人種しか訪れない場所にとどまって雑務をこなせば、安全な寝床と3食昼寝付きの待遇が得られると聞いて……
今に至るそうだ。
ほぼ完成した棚の調子を確かめながら横目でエクレアをみると、彼女は相変わらず12歳の少女らしい屈託のない笑顔で師匠について語っていた。
その姿は到底ゴブリン達に恐れられるようなものではない。本性を知っててもそうはみえないというか……
(いや、そもそもエクレアちゃんって……何者なんだ?)
エクレアからの話ぶりから判断すれば、彼女は『勇者』と同じく『お花畑ヒロイン』の役目を背負った転生者。
『神』の定めたシナリオから遺脱するチートを持つ転生者だと判断できるが……
彼女にはまだ裏があった。
先ほどの『鑑定』で偶然知ってしまった情報をみるに、彼女はただの転生者ではない。
彼女の前世はなろう系のチート勇者すら飛び越えた神クラスの『力』を持っていた規格外すぎる存在だったわけだ。
その『力』はエクレアにも継承されてはいるが、今のエクレアでは到底扱えないものとして制限がかかっている。
それでは『神』を倒せないだろう。
『神』を倒すには制限を解除させて神と同じ土俵に立てると思われる真の『力』を開放させなければいけないが、今のエクレアでは制御下に置けない。
制御できない力を開放なんかすれば、ほぼ確実に暴走する。エクレアも実体験で語っていた通り、ダンジョン内で開放させたらとんでもない暴走が起きてしまう。
まぁそれでも、死ねば諸共な自爆覚悟で発動させる手もある。もちろんそうなれば……
……
…………
………………
「いや、『もう一人の俺』。ここで結論出すは早い。まずは情報収集に徹しよう」
本来ならケバブを諫めるべき立場になる事の多い『もう一人の俺』を逆に諫めたケバブ。
『もう一人の俺』はシステムの穴というか、誰も思いつかないようなとんでもない発想をよく思いつく。
そのとんでも発想とは、エクレアの制御できない『力』をほとんどバグに近い裏技を使うことで無理やり制御化に置くというものだ。それではどんな不都合起こすかわかったものじゃない。
世界の命運がかかっている以上、軽はずみな行動は慎むべき。
だから情報を集めるのが先決。
ならすべきは……
「エクレアちゃん。棚の修理終わったよ」
「おつかれー。せっかくだしアイス食べる?」
「いやいい。それよりさっきから保留となってた報酬だけど……」
頼んだら絶対不機嫌になる。
それどころか話の進め方次第では、逆鱗に触れて殴り飛ばされる可能性はある。
それだけ地雷になりかねないものだが……情報収集のためには絶対避けられない。
いや、元々ダンジョンに挑んだのはそれが目的だったのだ。
故に覚悟を決めて………ケバブは次の言葉を紡いだ。
トラブルが起きる事覚悟で……継ぎの言葉を言いきった。
「ダンジョンマスター……『魔王』にあわせてくれない?二人っきりで話がしたいんだ」




