25.……漢鑑定する者が出ない事を祈っておこうか
漢鑑定:未識別アイテムを実際に使用して確認するという、身体を張った鑑定方法。漢識別とも呼ばれる。
「はぁはぁ……疲れた」
ケバブはぐったりと……何かを搾り取られた後かのような表情をしながら壊した棚の修理をしていた。
少々おかしくなったアシュレはお約束的な斜め45度チョップで無理やり元にもどした。ただ、その後は即座に棚の修理をケバブに押し付けて引き下がった辺り、最初から正気な可能性も否めないが……
まぁアシュレの思惑がどうであろうとも、こういった雑務は大体ケバブの役目。文句を言うことなく、淡々と大工仕事に精を出していた。
そんな中でアシュレは何をしているかというと、丁度都合よく目覚めたレヴァニの提案。報酬である『甘いモノ食べ放題』として出されたハーゲ〇ダッツのアイス(バケツサイズ)でもって女子会真っ最中であった。
ちなみにアイスの出処はダンジョン運営会社だそうで、先ほどエクレアが誤って作った『味噌』のなりそこない(仮名)を売り払った事で得たポイント。DPとか呼ばれるダンジョン専用通貨で購入したものらしい。
売り払った『味噌』のなりそこないは何に使われるか、興味本位で聞いてみたところ……
「どこか別の世界のダンジョンでの宝箱の中身になるんじゃないの?用途不明な謎ポーションとして」
「……漢鑑定する者が出ない事を祈っておこうか」
そんなわけで、今現在和室スペースでは女の子4人でまさにキャッキャウフフと言わんばかりな光景が繰り広げてるわけだ。
ケバブは蚊帳の外扱いに若干の不満はあるも……
「もう聞いてよ~師匠ったらひどいんだよ~私、器材の使い方とか薬草の見分け方とかロクに教えてもらえずまず作れっていきなり薬作らされるだもん。失敗しても青汁として活用するから気にするななんていって次々と作らされんだよ。挙句に売り物になる程度の品質になった完成品は授業料に変換するからといって取り上げられるし。散々薬草をすり潰してくたくたな私を連れて冒険者ギルドまで出向くし、態々私が作った物とかいって紹介するせいで売上金が減っちゃってるのに。子供の作ったものだから思いっきり足元みられるのに、なんでわざわざ私が作ったものだなんて強調するのかな~~」
エクレアは空気を読んでか知らずか、ほぼ一方的に意気揚々と師匠であるサトーマイの思い出を語っていた。
その姿にアシュレやレヴァニは時折合いの手を入れるなどして順応しているが、クラヴァは辟易しているのが手に取るようにわかる。
この場から逃げ出したいっと思いつつも、村という閉鎖された土地で年ごろの女の子多数と女子会なんて経験が皆無であろうエクレアを悲しませないよう、女子会特融の空気に馴染もうと努力していた。
「クラヴァもさすがに12歳の年相応な素を見せてる女の子相手に無礼は取らないんだな」
クラヴァはケバブからの生暖かい眼を向けられてるのに気付いたのか、ヘルプの合図を出してるもケバブは無視。
自分には棚の修理があるからっとばかりに、トンカチを振るい始める。
そうしてしばらくすれば、仕込みやらなんやらを終えた事で手の空いたゴブリン達が手伝いに来る。
「イタタリナイ」「ソウコアル、モッテクル」「クギモイッショニ」
彼等は片言ながらも人間の言葉を発し、各自協力して作業をこなしていく。
その姿は世間で知られているような残虐で横暴で自分勝手なゴブリン像とは程遠い。
最初はダンジョン産だから外と違うのかと思ってたが……
世間話的なノリで何気なく聞いてみたら、彼等は2年ほど前に東方面からここまで逃げてきた群れの生き残りだと語ってくれた。
「ハナストナガクナル……」「ゾクニイウ……キクモナミダカタルモナミダ」「キクカクゴアルカ?」
「もちろんあるさ。それに向こうでは女子会真っ最中なんだ。こっちも男同士で」
「ワタシメス」
「はぁ?!」
ゴブリンの中の一匹から思わぬ返しを受け、改めてみれば……
……
…………
………………
(わからん……『鑑定』では確かに雌って出るが、外見特徴ではほとんど見分けが付かんぞ……)
ただ、それでも失礼な事なのは変わらないので素直に謝るケバブ。
対してメスゴブも皆勘違いされるから気にするな……だった。
(……ゴブリンは雄しか居ない種族と思ってたが、雌もいるんだな)
まぁ、ゴブリン達は雌ゴブを周囲の雄とほぼ同じ扱い方をしてるのだ。彼等にとって、性別の違いは些細な事なのだろう。
それに……
(いや、やめておこう。もしかしたら何らかの条件……例えば『アーッ!』な事が起きれば性転換を起こすなんて考えを持つのはやめておこう)
こうしてゴブリンの新たな生態を掴むチャンスは即座に跡形もなく消し去りながら……
ケバブは作業の片手間的にゴブリン達の話を聞く事とした。




