20.先はどうあがいても絶望しかなさそうだが
E「まったく夢もキボーもありゃしない」
「じゃぁ私の持ってるチートを話す前に前提知識として私が世界に設定された役割を話すね。私の役割は『お花畑ヒロイン』。乙女ゲーム系恋愛シュミレーションによくいる典型的なお花畑な主人公。将来は悪役令嬢と婚約してる王太子を誑し込んでゴールイン……が私の役割」
「あーうん……なんていうか、どう考えても無理だろっとしか思えないシナリオもエクレアちゃんの魔性っぷりをみると、本当に王太子様を誑し込めそうなんだよな……先はどうあがいても絶望しかなさそうだが」
「そう、わかるでしょ!!勇者様はシナリオ通り進めば魔王倒して世界救いました~でハッピーエンドだけど『お花畑ヒロイン』の私はシナリオ通り進むと確実に内乱勃発!!失敗してもそれはそれで『ざまぁ劇』っというどう転んでも私の未来はアンハッピーエンド!!
そんな屑シナリオに抗うために必要なのが今から話すチート能力なの。まぁ厳密にはチートというよりバグのような能力であるけどね……はぁ」
エクレアは窯の中をかき回しながらため息つくも、その気持ちはわかる。
エクレアが語った通り、『お花畑ヒロイン』の役目はどう転んでも破滅の運命しかない。
そんな未来を自覚してしまっては、ため息の一つぐらい付きたくなるだろう。
「それで私のチートを教える前に二つほど注意点あげるよ。まず、私の能力は『神』……世界の管理者で屑シナリオを考えた『神』にとって都合悪いモノ。こういった乙女ゲーム系によくある強制力を覆す力を秘めているから、時期が来るまで『神』から隠しておきたい。それほどまでに隠蔽したいものだから、もし聞きたくないならそこの畳スペースに避難してね」
そうエクレアが指差す部屋隅の畳スペースではゴブリン達がいそいそと仕切りで囲い始めていた。
曰く、あの仕切りはダンジョンで安全地帯……俗にいうセーブポイントを作成するためのもので、中に居る限りは安全保障できるらしい。
外の情報も遮られる欠点はあるものの、こういった秘密の話には最適だそうだ。
……隔離する立場が逆だと思うも、そこは突っ込まないことにした。
「じゃぁボクは聞かない事にする」
エクレアの問いかけを聞いて真っ先に反応したのはクラヴァだった。
「ボクはもう正直言ってこの部屋の秘密だけでお腹いっぱい。これ以上秘密を聞いてうっかり外で口滑らすなんてしたら双方のためにもならないでしょ。だから、ケバブ。後でボクが聞いても大丈夫な部分だけ教えてね」
「要はいつも通りか」
「そう、いつも通り。でもボクはケバブと離れる気ないからね。どれだけ危険があっても……前にも言った通り『魔王』と戦うならボクも付き合うよ。相手が『魔王』だろうが『神』だろうが『教会』でも変わりなく……なにせボクは勇者様の剣だからね」
クラヴァはそう言い切ると、そのまま完全に囲まれた仕切りの中に引っ込んで一人焼肉を再開しはじめた。
「ははは……勇者の剣なのはいいけど、誰彼構わず喧嘩吹っ掛けるのだけは勘弁してほしいけどな」
ただ、クラヴァはケバブだけでなくエクレアの助けになりたいと思ってるのは確実だろう。
ケバブもエクレアの助けになりたいと思ってるし、将来的にはクラヴァが言うように『神』へ剣を向ける時が来るのかもしれない。
そんな未来を思い描きながらアシュレの方をみる。
「私は聞く。新しくできた義妹の事は知りたい……大体想像はつくけど」
「あはは……“キャロット”とパスつないじゃったアシュレお姉ちゃんならもう想像は出来ちゃうよね」
「俺も大体想像つくけどな」
「ケバブお兄ちゃん、『鑑定』魔法あるならバレバレだよね。でも……一応忠告はするけど、過信はしない方がいいよ」
過信しない方がいい。
これはエクレアだけでなく『もう一人の俺』も口酸っぱく言い聞かされた内容だ。
ケバブも重々承知のつもりだったが……
「まさか鑑定結果に干渉されるとは思わなかったよ」
「ふふ。私も“キャロット”から後で『鑑定』使われたって事聞いてびっくり。それにアシュレお姉ちゃんも私の中に潜んでる“キャロット”が悪魔だってこと初見で見抜いたもんね」
「私は腐っても教会所属の人間。でも……教会のために働く気はない。だから悪魔退治なんてしないし報告もしない。する気ない」
「やっぱりエクレアちゃんに潜んでる化け物は悪魔だったか」
確かにこれは下手に広められない話だ。『神』どうこう以前に悪魔を敵視する『教会』関係者に知られたらそれだけで大騒ぎ必須。
だが……
(エクレアちゃん、昨日その悪魔の力が源と思われる『魔眼』を思いっきり教会関係者に使ってたが、大丈夫なのか?)
『神』じゃないけど言っている……大丈夫だ、問題ないw




