18.もしかしたらこれで問題が解決できるんじゃね?
\ピコーン!/
この時、ケバブの頭上に電流が走る!
カップラーメン……
その味は一言でいえば美味であった。
『もう一人の俺』があれだけ心躍らせたのもわかるほどの美味であった。
(街の屋台で食べたラーメンも美味かったが、このカップラーメンの美味さは比じゃない!!)
俯瞰的立場で解説すれば、ケバブの前世記憶を思い出すきっかけとなった屋台のラーメンは親父が朧気な前世の……日本人だった記憶を元に再現しようとしたものだ。
ノウハウが全くなく、材料や調味料が限られた中で作られたラーメンでは長年の研究の積み重ねで洗練された現代日本のラーメンには到底かなわない。
例えそれが即席麺であっても……いや、即席麺だからこその味わいもある。
ケバブは一瞬にしてカップラーメンの虜となった。
……
…………
………………
「ごちそうさま」
「おそまつさま。それじゃぁ本題に入るけど~~」
にやりと笑いながら本題へと入りだしたエクレア。
最早完全に主導権を取られた形であるも、ケバブはどうでもよかった。
人は美食を前にすれば大体の事がどうでもよくなる。
よほどのことがなければスルーできるのだ。
それに……本題も別段大したことなかった。
「ということで、このダンジョンは一見すれば罠や敵だらけで宝箱の報酬もしょぼいというダンジョンだけどその実体は訓練所を兼ねた魔獣の養殖場なの。仕留めた獲物はこの秘密の研究所で売買される形になるから、ギルドのルールやマナーを守ってる人にはそれなりに旨味あるダンジョンなの。まぁ秘密になるのはここで機密扱いな『味噌』や『醤油』だけじゃなくちょっと表に出せないような薬も作ってるからもあって、それだけに秘密を漏らされないよう私が審査員という形で選別してるの……信用できるかできないかをね」
「そ、そうだったのか……」
ケバブが提案した通り、使い慣れてない敬語をやめて素の口調で話すエクレアの話を聞いてなるほどとうなった。
この部屋が信用できる者にしか明かさない秘密の隠し部屋だからこそ、吹っ切れ具合もわかる。
畳やちゃぶ台のような日本文化のレイアウトにカップラーメンのようなジャンクフードを置いてるのもわかる。
ダンジョン機能でそういった異世界産の物資を購入できるサービスがあるから、それ使っていろいろ取り寄せたといえば納得できた。
納得できるが……
(エクレアさん本人についてはまだ何も語ってないんだよなぁ)
エクレアは話してる間ずっと窯をかき回していた。
『味噌』や『醤油』の材料を放り込んだ窯をかき回し続けていた。
頭に魔女を彷彿させるとんがり帽子をかぶってるだけあって、今の姿は薬師というより魔女。独り立ちして間もない見習い魔女といった姿をしていた。
だが、その正体は……
(本当、エクレアさんの正体はなんなのだろうか)
知りたい気持ちはあるが、『鑑定』は看過されて釘を刺された身では難しいというか……
そもそも、ケバブはエクレアと昨日知り合ったばかり。
知り合ったばかりなのに、あっさり信用してこの秘密部屋の存在を明かしてくれたのはグラン達の推薦のおかげだった。
彼等はエクレアの師匠であるサトーマイと10年以上の付き合いがあり、エクレアも彼等を身内のような感覚で接している……というのは酒場の常連たち談。
信用と信頼を積み重ねてきグラン達がケバブ達を信用できるっと太鼓判を押してくれていたからこそ、エクレアもグラン達の信用に応えるかのごとくこの部屋の存在を明かしてくれたのだ。
(そうだ。ここまではグランさん達がお膳立てしてくれた事だ。これから先は俺自身が信用と信頼を積み重ねていかないといけないんだ)
「それで、ケバブさんは口止め料として何望む?ちなみにクラヴァさんは『肉食べ放題』でアシュレさんは『外の薬草畑の収穫権と研究内容の観覧』」
「違う。私が望んだのは『弟子入り』。『味噌』や『醤油』に貴重な薬草も目移りはするけど貴女やその師匠達が受け継いできたと思われる知識に心そそるものある……何度も言うけど弟子入り認めてほしい」
「昨日から何度も断ってるけどそれは無理だって。私もまだ一人前にすらなってない半人前のつもりだし、そんな状態では弟子取れないから!」
「大丈夫。私が勝手に押しかけ弟子するだけ。非公式でも問題ない」
「うぐぅ……押しかけ弟子は私が師匠に対して使った手なだけに~~」
「どうする?にやにや」
「あ~~う~~う~~……」
唐突に起きたやりとりで思考を遮られてしまったが、みたところアシュレはエクレアの弟子入り希望をするもエクレアは却下。だがアシュレは諦めずに食らいつく、そういったやりとりを昨日から何度もやってきたようだ。
ただ、エクレアは別にアシュレの弟子入りを断固として認めないというわけではなさそうだ。弟子は無理でも友人ぐらいなら構わないような感覚なのかもしれ……
(ん?……もしかしたらこれで問題が解決できるんじゃね?)
「ケバブからもお願いする。私の弟子入りの後押しを……どうしたの?」
「ちょっと名案があってな……」
ケバブは丁度話を振られた事で、ある提案をあげた。それは……
「師匠と弟子じゃなく、義理の姉妹の関係だったらどうだ?」




