15.なん……だと……
どうみても黒幕にしかみえないヒロインちゃん、果たしてその真意は……
『呪言』は言葉通り、対象を呪う言葉。
言葉に込められた力、いわゆる『言霊』の力で対象にバッドステータスを付与するものだ。
この世界での『呪言』は『魔眼』と同じく魔に属する者を起源とする力とされており、使用は禁止されている。なぜなら、呪いは他者だけでなく自身にも降りかかるからだ。積み重なった呪いは使用者の心身を蝕んで人ならざる者へと変質させる事すらある。
アシュレには『呪言』を始めとする呪いの力を扱う呪術師の道を歩ませないようにしたのはこの事情によるものだった。
そんな『呪言』をエクレアが使ったと聞いて、ケバブはごくりと喉をならす。
周囲を軽く見渡せば、アシュレは傍観したままであってもクラヴァは空気を察したのか臨戦態勢に入っていた。
エクレアを殴るためではなく、気絶中のレヴァニを守るのに都合がよい位置を陣取っていた。
この辺り、クラヴァは超突猛進ながらも自分のやるべき事がわかっている証拠であろう。普段あれだけいがみ合っているレヴァニも守る必要性があるなら、ケバブが何か言うまでもなく実行できる彼女は言うほど自分勝手ではない。
それはアシュレも同様、いざという時は自分のすべき事を行うはずだが……彼女は動かなかった。ただ様子を伺うのみなところが気になるも、あまりエクレアから注意をそらし続けるのは危険だ。
ケバブは改めてエクレアに対峙するも、彼女は動じてない。ただくすくすと不気味に笑うのみ。
「全く。こんなか弱い女の子相手にそこまで大げさに警戒するなんてひどいじゃないですか。大体……」
唐突に手で目隠しするエクレア
一体何をする気かっと思うも、これはこれでチャンス。
ここは先手と思って踏み込もうとするも……
「ただの人間風情で私に勝てると思ってるのですかぁ~?」
ゾクリ!!!
ケバブは思わず踏み込もうとした足を止めた。
指の指の間から覗かれた眼をみて、蛇に睨まれた蛙のごとくつい足を止めてしまった。
だが、わかった。『鑑定』を仕掛けるまでもなく、わかった。
(あれは……やっぱり『魔眼』)
ケバブは本物を見た事はないが、知識として知っていた。自分が『勇者』となってから、宿敵である『魔王』と戦うために備えて情報を集めていた。
だから知っていた。魔王とその直属の四天王ともされる部下は大体が魔族であり、睨んだ者になんらかの異常……いわゆるバッドステータスを付与する『魔眼』持ちだということを知っていた。
それに、ケバブは一度だけその力の一旦をみていた。
昨日の酒場で神父とその取り巻きに対して発揮していたのをみていたわけだ。
(『呪言』だけでなく『魔眼』まで持ってるなんて……やっぱりエクレアさんは)
ケバブは再度ごくりと喉を鳴らす。
なんらかのバッドステータスの影響か、身体が重く感じる。
怪我の影響もあるのだろうが、それ以上に冷や汗が止まらない。
見た目はただの少女。それこそどこにでもいるような少女なのに、今目の前にいるのはどうあがいても勝てるわけがない化け物……
それこそ……
「な~んてね。う・そ・で・す・よ」
今度はくすっと、悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべながら指と指の間からのぞかせていた眼を手のひらで覆い隠す。
手を下した時には先ほどまで感じていたプレッシャーは何事もなく消えていた。
「ふうっ……ここで取り乱して敵意むき出しになってたら即刻意識と記憶を消し飛ばしてダンジョン外に放り出してるとこだけど、冷静に対処してる辺りはさすがグランさん達が認めた事あるって事かな」
「え、えっと……どういうこと?それよりエクレアさん。君の正体は……」
「うん、わかります。困惑するのわかるから説明はしますよ。でも、ここでは落ち着かないので移動した先でしましょうか」
そう言いながらしゃがみ込んで自分の“影”に手を突っ込むエクレア。腕の半ばまで埋め込んだ後に取り出したのは……
ス〇ート〇ォンだった。
現代日本の文明の機器である〇マホだ。
(なぜそんなものが!?)
そう思う間もなく、画面操作して耳に着ける。丁度電話するかのごとく誰かに連絡を入れ……
くぱぁ
近場の壁にそんな擬音が付くかの如く穴が開き、そこから出てきたのは……
「ゴブリン……いや、進化系のホブゴブリン!?」
「大丈夫。こいつらはダンジョンの整備や雑務担当で基本外に出ない……いわゆる人前に出る事のない善良なゴブリン達。今回来たのも死体の処理を行うためだから危害ないですよ」
「死体の処理?」
みればゴブリン達はケバブ達を無視してエクレアの前に行儀よく並び始めた。
「処理は今朝話した通り、ばらしたら内臓は私に。肉や骨の処理はおやっさんからの指示書に従うでよろしく」
「「「「イエスマムー!!」」」」
エクレアからの指示を受けてびしっと敬礼した後、ゴブリン達は手に持っていた鉈やら包丁やら鋸やらでハイオークやコカトリスの死体に取りついて解体し始めた。
「ほらほら、惚けてないで行きますよ」
手際よく死体を解体するゴブリン達に見惚れてるうちに、エクレアは今だ気絶中のレヴァニをお米様抱っこで担ぎ上げてゴブリン達が出てきた壁の穴に向かっていた。
あの小柄な体で筋肉質な巨体を持つレヴァニを平然と担げるのに驚くも、この村は風貌と強さが全く一致しない見た目詐欺が多いのは昨日で確認済み。
「とにかく、俺達も行くか」
穴の先は何があるのかわからないが、試験はもう終わったのだ。
変なところには通じてないと信じて穴をくぐった。
穴を抜けた先に広がっていたのは……
「なん……だと……」
異世界だった。
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