14.あれが例外中の例外なだけですから
キングクリムゾン!!
「こんな結果、絶対納得できない!!やりなおし要求する!!!」
目的地とされているフロア……ダンジョンの中なのに木々が生い茂ったフロアの一角、エクレアの要望で整備してもらったという薬草畑の前でクラヴァは声を荒げながら叫ぶ。
身体のあちこちに血がにじんだ包帯がまかれ、左腕は複雑骨折したために添え木で固定されているその姿はどうみても満身創痍だ。
回復魔法やポーションでも癒しきれないほどの大怪我で本来なら動くのも辛いような状態なのだが、彼女は不満をぶつけるかのごとく残ってる右腕一つで戦斧をぶんぶん振るっていた。
そんな有様なクラヴァをみてケバブは薬草畑を凝視中のアシュレ……実際に傷の手当をしたアシュレにアレを止めるよう催促するも、傷が開いても自己責任っとなげやり的に答えるだけだ。
「自己責任って……」
「何か問題あるんですか?大体冒険者ってそういうものですしね~……あっ、終わりましたよ」
アシュレの提案に賛成とばかりなエクレアはポンっと巻いたばかりの包帯の上から傷口を叩く。
その衝撃でケバブはついうっと唸りそうになる。
「いつつつ……手当ありがとうございます。不甲斐なくてすいませんね」
「全然そんなことないですよ。罠は完璧に対処。敵の待ち伏せは先に気付いて奇襲っと道中は文句なし。確かに目的地となるフロアで最終試験となるオークとコカトリスとの戦闘で半壊してますけど、瓦解まではすることなく自力で勝利。私を無傷で送り届けるというクリアー条件は達成してますから試験は合格。一発合格が出来たのはグランさん達ぐらいなので十分誇っていいんですよ……実際高レベルな人でも、っというか高レベルな人ほど護衛を忘れて力押しに突撃かましたり単純な罠に引っかかったりで意外と初回クリアー率低いですし……いや、最初の頃は難易度高すぎて無理ゲーレベルだったりもするけどあれはあの二人、いやおやっさん含む3人に全て任せたのがそもそもの原因で……ぶつぶつ」
「それでも納得いかないものは納得いかない!!コカトリスは知らないけどオークごときでこんだけ苦戦だなんて!!」
「クラヴァ、そうはいうがな。ここのオークはレガール周辺で出没するようなノーマルオークと違って上位種のハイオークだったんだぞ。具体的にいうとノーマルオークならDランク冒険者複数が推奨でハイオークだとBランク複数が推奨のような強さだ。おまけに強さとして同ランクなコカトリスとセットで襲ってきたんだ。護衛対象を守りながらという立ち回りが限定された圧倒的不利な条件でも勝てたのは偶然に近かったんだぞ」
そう、勝てたのは偶然だ。
ケバブパーティーは癖こそ強いが、各々とびぬけた長所がある。その強みを活かした立ち回り、型にはまった戦術をとれば格上でも勝てる。だが、今回はエクレアという護衛対象がいた。
ただ敵を倒せばよい時と違い、護衛しながら敵を倒すのでは戦闘の勝手が違うわけであり……
ここでケバブ達の弱点。強敵相手で力押しが通用しない、拮抗した戦力で限定された戦術を強いられた場合による戦闘経験の少なさが露呈したわけだ。
それでも辛うじて勝てた。
敵のヘイトが後ろの護衛対象であるエクレアまで行かないよう、足を止めての殴り合いをせざるを得なかったケバブとクラヴァは深手を負っても最後まで壁役を全うできた。レヴァニも返り血を顧みない攻撃を何度も仕掛けたため、戦闘終了と同時に気が抜けてか気絶。アシュレは一見すれば平然としてるように見えても、術を酷使し過ぎた事で疲労困憊なのがわかる。
勝てたのは運に助けられた部分が強かった。
そんな辛勝な結果をクラヴァは気に入らなかったらしい。
次は無傷で勝つ!!っと言わんばかりに斧を振るっていた。
「あはははは……なんていうか、すごい人ですね。都会ってあんな人ばかりなんでしょうか?」
「いやいや、そんなことないです。あれが例外中の例外なだけですから」
「ですよねーそれぐらい私でもわかってますよ。くすくす」
そう笑うエクレアは可愛らしい。からかわれているのがわかってても可愛いと思ってしまう。まさに魔性を秘めた末恐ろしい女の子ともいうべき可愛らしさだ。
その様はまさに……
「『お花畑ヒロイン』……そう言いたいのでしょうか?」
「え、えぇ……そうですけど」
ケバブが口に出そうとした台詞を先に言われた事で少々出鼻をくじかれた形になるも、エクレアは変わらず笑顔を向けるのみ。
その笑顔は可愛らしい。『まさに守りたいこの笑顔』とも言うべき笑顔だ。そのためなら……
パン!!
唐突に響いた手鳴らしでケバブははっとする。
今まで靄がかかっていたかのような思考が晴れるかのような、夢から覚めるような……
パンパン!!
再度打ち鳴らされた手鳴らしで今度ははっきり意識が覚醒した。
「くくく……夢から覚めた?」
「ん?夢……って何がだ」
アシュレの問いかけについ首をかしげる姿にアシュレはふぅっとため息をつく。
ため息をつきながらちらりとエクレアの方へ目線を向ける。つられてそちらへ目線を向けたら、エクレアはくすっと笑いながら頷いていた。
「うん、認めた……エクレアさん。ケバブに『呪言』放ってた。自身に好意を寄せるような『呪言』放ってたの認めた」
「えっ?」
『呪言』……
その言葉にケバブは思わずエクレアから距離を取った。
E「魅了って乙女ゲーム系のヒロインのお約束能力だものねーくすくす」




