11.……もういろいろバレてるけどな
そもそも隠す気がないとしか思えないヒロインちゃんであるw
「あっと。ごめんなさい。ついつい本題から外れてばかりでした。今回私が来たのは受付のタカナおばさんからケバブさん達のダンジョン探索の審査員に命じられたからなんです。よろしくお願いします」
惚けてばかりなケバブを他所に、マイペースな口調で自分がここに来た理由を話すエクレア。
こうしてみると本当に普通の少女だ。
まぁ酒瓶で脳天叩きつけられても致命傷を負ってないどころか、妹を鉄の爪で極めてから『壁ドゴォ』で沈めた時点で普通じゃないかもしれないが、少なくとも勇者を上回るチートな化け物にはみえない。
「それで、試験ってどうすればいいの~?」
クラヴァはいくら『味噌』と『醤油』の製法を聞いても答えてくれない姉、エクレアへの追及を諦めたのか少々不機嫌気味に梅味噌をつけたスティックサラダを齧りながら問いかけた。
「クラヴァさん。審査員に対してモノ食べながらは失礼ですわよ」
「ご心配なく。酒場の振る舞いは無礼講が基本なので私の場合は審査の対象外にしてますので…………というかあからさまな馬鹿は私が手を下す事なく即座に失格の烙印おされるだけなんですけどね」
「だってさレヴァニ。そんな事気にするから可愛くなれないんでしょ~ぷーくすくす」
「ふふふ……誰が可愛げがないのでしょうか」
「ん?ボクそこまで言ってないけど」
「言ってるも同然でしょう。目をみればわかりますですわよ」
「なんていうか、いろいろとすいません」
審査員の目の前で始まった言い争いに謝るケバブ。
「いえいえ、喧嘩するほど仲が良いとも言いますから」
対して審査員のエクレアも苦笑するにとどめるのみだった。あまり甘えてはあれだが、ひとまずはほっとする。
「それで試験内容は?」
アシュレは喧嘩なんかどうでもいいから早く本題に入れっと言わんばかりに聞いてきた。
「あーはい、試験内容は簡単。私の護衛としてダンジョンを探索。私を無傷のままある部屋まで送り届けるだけです。簡単でしょう?」
「無傷……」
「一応言っておきますけど、私になんらかの危害が及んだ時点で失格ですよ。っというかあまり認めたくないのですけど、私が頑丈だからこそ成立する条件だってことお忘れなく」
そりゃそうだっと思う。
この試験は常人だと即死するであろう、妹の全力の一撃を不意打ちで食らってもぴんぴんしてる彼女だからこそ出来る芸当。
たぶん彼女は高レベルな魔物や致死性の罠にかかっても難なく切り抜けられる。一人でダンジョンにもぐっても、危なげなく目的地への往復ができる。万が一パーティーが全滅してダンジョン奥地で置き去りとなっても無事に帰還できる。
「あーなるほど。だからこの子が審査員か……もういろいろバレてるけどな」
もし妹とのやりとりがなかったら、ケバブ達は絶対彼女の強さを誤認する。
か弱い護衛対象として全力で守る。
見た目か弱い女の子だから受ける方も気合が入る。
むさいおっさんなんかよりよっぽど気合が入る。
だが、世の中ケバブ達みたいな善良な人種だけでない。
可愛い女の子と共にダンジョンというある種の密室に入ればよからぬ企みを持つ人種もいる。
ただの小娘と思って賄賂やら脅迫なんかするだろうし、直接襲うこともありうる。
(……襲ったら返り討ちにあって、ダンジョンの栄養となる末路しかみえないな)
ケバブの脳裏には欲望丸出しで襲い掛かってきたHE☆N☆TA☆I☆冒険者の顔面をわしづかみにして、近場の壁にドゴォ!!っとたたきつけるエクレアの姿が浮かんだ。
そういった要素からみて、ケバブは一つの結論にたどり着く。
「つまり、この試験の本質は実力ではなくマナー面の確認。モラルを守れるかどうか、それを重視してるのでしょう?」




