⑨.えっ、『味噌』と『醤油』の開発者?!
「あの~もしもし、聞いてます?」
「あっ、いえ……」
気付けばクラヴァとやりとりしていた姉がケバブをターゲットに移して話しかけていた。
当の本人というかクラヴァは突っ込みつかれたのか、席について再びから揚げを失敬して食らいついてる。
レヴァニは姉の流血する姿に動揺してか、少々及び腰。
アシュレは相変わらず何考えてるかわからない表情で青汁をちびちび飲んでいた。
つまりあれである。3人は目線で姉の相手をしろっとばかりに訴えかけてるのだ。
ケバブは面倒事を体よく押し付けられたっと感じつつも、こういった事は日常茶飯事だ。気を取り直してまずは惚けてた事を謝ろうとしたが、その必要はなかった。
「別にきにしなくていいですよ。どうせモモちゃんの意外な姿に面食らっちゃったのでしょう。あの子外面はすごくいいけど中身はものすっごい戦闘狂で喧嘩とかそういった荒事には率先して自分から飛び込んで両成敗しちゃうの。本当、昔は可愛らしかったのになんであんなになっちゃったのか……」
先ほどまで上の空となってたのはモモちゃん……たぶん給仕の娘の名前だろう……のせいだと判断されたようだ。
姉がため息交じりにぼやくも
「戦闘狂になったのはエクレアお姉ちゃんの教育の賜物だろ」
近くに居た常連客からの突っ込みが入った。
「うっさい!!私そこまで過激な教育してない!!精々馬鹿をあしらえる程度しか教えてないから!!!」
即座に反論する姉。だが周りからは次々に姉のせいだという声が上がり、完全に押し負けていた。
まぁそれもそうだろうっとケバブは思う。
妹とやりあったあの喧嘩は極一般的な姉妹の喧嘩じゃない。
酒瓶で脳天叩きつけた妹の一撃もそうだが、反撃で鉄の爪から壁ドゴォのコンボはやりすぎだ。
どちらもただの一般人では完全にオーバーキル。下手したら死者がでるレベルだ。
てか、死者といえば……
「あの~~それより頭の出血。そろそろ危ないのではっと思いますが」
目の前の姉が『鬼』のような強さを発揮してたせいで、つい忘れてたがあの時脳天に食らった一撃。
あれは一般人だと完全に頭蓋骨陥没しての即死でもおかしくない一撃だったのだ。
それ食らっても見た目ぴんぴんとしてるからついギャグ補正が働いたなんて思ってしまったが、ここは現実。
そういった都合の良い補正があるとは限らないので、応急処置的に回復魔法をっと思ったら
「っと、そうでした。ちょっと失礼」
腰のポケッシュから貝殻を取り出して中の緑色したナニカをさっと傷口に塗りこみ、さらにガーゼを当ててから包帯でぐるぐる。
「これで大丈夫」
治癒魔法かけるまでもなく自分で治療を終えたようだ。
その手際の良さに感心してたら姉は『いつものことなので』っとにこりと笑いながら、先ほど使った薬が詰まった貝殻を机に置いた。
「ちなみにこの傷薬、私のオリジナルなんです。通常は黒ヨモギと白水花で作るものなんですが、私の場合はある強い魔力を持つ葉に包んで3日ほど寝かせて熟成させてるんです。
だから薬の日持ちと効能は一般の物より1.5倍ほど高くなって、なおかつお値段は一般のものに少々お気持ち程度にお高くした1200G。買いませんか?今なら毒消しも付けますよ」
さらに毒消しが詰まってると思われる貝殻も置かれた。
もちろん貝殻の表面にはちゃんと『傷薬』と『毒消し』と書かれてるので間違えることはないだろう。
急ぎの場合どうなるかはわからないが、どのみちケバブ達には必要ない代物であった。
なにせアシュレがこういった薬に詳しく、自分で薬草を採取して調合するので薬を買う必要がないのだ。
それに、少々の傷や毒はケバブの回復魔法で癒せるので薬の消費も他より少ない。
「ごめんだけど俺達は……」
「買って……くれないんですか?」
目に見えてしょんぼりとした表情に『うっ!?』と言葉が詰まる。
「私、薬師と働いてるんですけど実は莫大な借金抱えてるんです。えぇ、師匠が弟子である私に借金を押し付けたまま遠くへ逝っちゃって。父はいないし母は病弱でほとんど寝たきり。もう私達が働くしかないって言うのに愚昧がああなので……給料より喧嘩で発生した修繕費等が多いぐらいで借金は減るどころか増える一方。後1年で借金返せなかったら私達は奴隷商人に売られる運命で~~……しくしく」
「な、なん……だと……」
この姉妹はそれほどまでに酷い境遇となってるなんて……
これは許せん!断じて許せん!!
なんとしてでも助けなければっと思っていたら
「おぃ兄ちゃん。この子の言ってる事は大体本当と言ってもそこまで悲惨じゃないぞ」
「あぁ、なんせエクレアちゃんは今流行りの『味噌』と『醤油』の開発者だ。その売り上げですごい金持ってるんだぞ」
「ちっ、余計な事を。青汁の差し入れだすぞこら」
周りからの笑いじみた忠告に否定こそしないが、すごい顔で舌打ちしながら悪態をつく姉。
その変貌ぶりというか黒い面は給仕の妹とほぼ同類。さすが姉妹、そっくりだと感心するが、それよりも聞き逃せなかった言葉があった。
「えっ、『味噌』と『醤油』の開発者?!」




