2.やはり才能だけあっても駄目ってことか
しばらくはケバブ君視点で続くので(side:ケバブ)は略します
「ははは!今度の新入りはそれなりに分別を弁えてるみたいじゃないか」
「いつつつ……すいません。早々騒ぎを起こしてしまって」
騒ぎを聞きつけ、カウンターから出てきた職員と思わしき中年女性に謝るケバブ。
元凶であるクラヴァはお約束のようにレヴァニからかわれたから事で絶賛にらみ合い中。
だが、当人でなくとも代表が頭下げたならばと騒ぎを不問にするつもりのようだ。気にするなっとばかりに笑う。
「さて、見た所連絡のあった新米のようだから自己紹介するよ。あたいはここゴッドライフの村の冒険者ギルドの受付担当をしてるタカナって言うんだ。長い付き合いになるか短い付き合いになるか……君たち次第。よろしくな」
「はい、俺はケバブといいます。少々騒がしい仲間共々よろしくお願いします」
「あれぐらいなら許容範囲さ。それで明日から早速仕事するつもりなら、どんな仕事を希望するんだ?ここは向こう……レガールと違ってあたしら職員が仕事を割り振るシステムを取ってるんだ。身の丈にあった依頼を希望しなければ、子供のお使い程度の雑用か地獄の特訓を課すよ。あいつらみたいになりたくないなら謙虚な心構えを心掛けな」
その視線の先はクラヴァ達がさげすんでいた3人が居る。
彼等はレガールのギルドでランクCへと昇格し、さらなる上を目指して一足先にゴッドライフまで出向いていたのだが……
レガールのCでもここだとEという、ひよっこがようやく一人前になった程度と判断されたのだ。
なのに調子乗って大物退治を希望したが通らず、年下の候補生から模擬戦という名前の制裁で身の程を知らされた。
その後は薬草採取を命じられたが、それすらもまともにできず納品先となっていた薬師の年下少女からこっぴどく咎められ……
「逆恨みでその少女を夜道で襲い掛かろうとするも返り討ち……」
詳細を聞いたケバブは彼等の自業自得ともいえる扱いに納得すると同時に軽蔑の目を向けた。
彼等もケバブの視線に物言いたそうだが、それは無理だろう。
周囲が許さない。夜道で幼気な少女へと襲いかかるなんて下衆に物言う資格がないっとばかりに眼光するどく睨まれた事で彼等は再度縮こまる。
その様はもうレガールで期待の新人と評されていた者達とはみえないほどの落ちぶれっぷりだ。
一応、ケバブも彼等の才覚だけは認めていた。
レガールに居た時から態度は横暴であるも、実力はあった。クラヴァやレヴァニに辛辣な言葉を浴びせていたのも当時の二人は役立たずという事実を含んでいたから全く的外れではない。
だが、いざ自分が逆の立場になったとたん手のひら返しどころか逆恨みから依頼主であろう少女を夜道で襲おうだなんて未遂であろうとも完全にアウト。
同情の余地なし。才能にかまけ過ぎて心をおろそかにしたが所以の末路だ。
「やはり才能だけあっても駄目ってことか」
一応その辺りはケバブもわかってるつもりであった。
ケバブ自身が勇者補正で才能の塊だが、それにかまけてしまえば彼等のように下衆まで落ちぶれる。
そうならないよう、彼等を反面教師にして誓い立てたところでケバブは気付いた。
周囲からの厳しい視線が自分たちに向けらいる事に……
すなわち自分たちも試されているのだと気付いた。
直前の新人が下衆だったせいで周囲の視線は厳し目であるも、ケバブは動じたら負けっと自ら奮い立たせる。
「本来ならここは謙虚にすべきところなんですけど……ダンジョンの探索を希望します」
堂々とした態度で『ダンジョン探索』を宣言した。
その際に周囲から小さなどよめきが出る。
内容は「またか」や「噂につられてやってきた類か?」とあまりいい空気ではない。
ただし、タカナは受付担当ということもあって義務的に『理由は?』と問い返す。
「向こうでもダンジョンの事は聞いてます。リスクに対してリターンが全く釣り合ってない、夢が全くないダンジョンだという事はわかってますが、グランさんからダンジョンに挑戦を進められたのです。その際に推薦状をもらいました」
「ふ~ん、グラン君がねぇ……」
推薦状を受け取ったタカナは中身を一瞥し……
「改めて聞くよ、あそこは噂通り危険と収穫が釣り合ってないところさ。ただ、それはあくまで一般的な評価であって、人によっては値千金な価値がある。素人がむやみやたらと荒らされたら困る場所でもあるから改めて聞くよ……なんのために挑戦するんだい?」
「強くなるためです」
真の目的はダンジョンマスターに会うためだが、強くなるのも目的の一つだ。
だから一応嘘は言ってない。
その言葉を聞いたタカナはにやりと笑う。
「強くなりたいか。その純粋なまでの想いは本物のようだね。グラン君が推薦するだけある。なら探索を認めてあげたい……ところだけど、実力の足りない者を死なせるわけにはいかないから、試験を受けてもらうよ。それに合格すれば以後自由に探索すればいいさ」
一先ずのところ、門前払いは避けられる事となった。




