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12.私の目はどこまで節穴なのか(side:メープル)

“メープルさん。くび”



 エクレアから死の宣告とも等しき言葉を受け、自分はここで死ぬっと覚悟したあの時……



「エクレアちゃん、取り込み中のところ悪いけどいいかな?」


 空気を全く読まないかのごとく割り込んでくる人物がいた。

 下手すれば怒りの矛先が瞬時に切り替えられないというのに、彼は背後からエクレアに声をかけたのだ。


 何も知らない者がみたら『邪魔するなっ!!』とばかりに殴り飛ばされるっと思いきや



「ん?ローイン君何か用?見ての通り今ちょっと取り込み中なんだから後にしてほしいんだけど」


 口調こそ不機嫌でも、後ろに立っていたローインには理性的な態度で接していた。



「急患がでたから声かけたんだよ。教会の神父様がまた腰やらかしたからってエクレアちゃんご志望だってさ」


「あーっそう。エロ神父様のご指名か~~」


「そういうこと。悪いけどいつも通り処置してあげて……後、一応言っておくけど手加減はしてあげてよ。なんだかんだ言っても腰悪くしてるのは本当だから」


「りょーかい。いつも通り適当に処置してくるから……あとよろしく」


 そう言いながら、髪色やら肌色を元に戻してその場を去るエクレア。

 メープルの事は完全に意識の外へ追いやったのか、一度も視線を向ける事なく立ち去ったのだ。

 それを見送った彼、ローインはふぅっと息をつきながらメープルの方へ振り向く


「えっと……メープルさんでしたよね。とんだ災難でしたけど大丈夫……じゃなさそうですよね」


「かもしれません」


 メープルはローインの事を知っていた。

 エクレアの仕事仲間であり、婚約者として母親の次に紹介された事もあって知っていたつもりになっていた。

 いろいろと規格外なエクレアと違って彼は至って平凡……貴族含む同年代の子供に比べれば優秀だが規格外というほどではない。

 そういった判断を下してたが……先ほどのやりとりをみて少々見直したのだ。




 だが、それも誤りであった。









……………………


(ふふ……あの時の私はローイン様を過小評価し過ぎていたのですから。本当、私の目はどこまで節穴なのかっと嘆きたくなりました)





 あの後のローインは腰が砕けて立てなかったメープルを……村中での出来事だったので好奇の目にさらされていたメープルをお姫様抱っこで担ぎ上げて退避させた。

 成人女性で、しかもマドレーヌの護衛も兼ねていたので華奢とは言えないメープルを楽々担ぎ上げて歩けるほどの腕力と足腰は驚いた。


 さらに聞けばあの鬼としか思えないエクレアと模擬戦を行っても五分の勝負へと持ち込める、父譲りの剣技と母譲りの魔法双方の利点を活かす独特の戦闘スタイルを持っている事が判明したわけだが、彼の凄さはこれだけでない。


 うっかり粗相してる事に気付きつつも、泥にまみれたからという理由にして着替えを渡す気遣い。


 辺境行きを命じられてから今の今まで溜まっていた鬱憤や愚痴を黙って聞いてくれた包容力。


 そして……何よりも舌を巻いたのは理解力と仲裁力。

 彼はもう二度と顔を合わせられない、合わせられないであろうほどに怒らせてしまったエクレアとの仲を取り持ってくれたのだ。


 あそこまでこじれたのは、エクレアの理解不足……

 メイドと侍女の役目の違いを把握してなかった事にあった。


 メイドは身の回りの世話のみだが侍女は主人の仕事含む世話をする、いわば私生活や仕事上でのパートナー的な役目。ローインがその点を指摘したら図星だったようで、翌朝にエクレアが非を認めて頭下げながら謝って来たのだ。


 その後もローインが仲介しながら改めて話し合った事で助手の契約は無効となるも、貴族令嬢としてのマナーの教師は引き続いて継続となった。


 それらの点からローインは規格外なエクレアの婚約者として十分隣に立つ資格があるだろう。


 そんな彼は今現在、説教を中断したエクレアに詰め寄られていた。

 原因はメープルからの誘惑に狼狽した事に対する嫉妬……と普通は思うだろうが、一瞬メープルと目があった時の笑みからして彼女はつゆほども嫉妬していない。

 からかう理由ができたから、嫉妬する女の子を真似て詰め寄っているのだろうと推測し、あえて含み的な笑みで返した。

 エクレアとはそれぐらいの遊びじみたやり取りができるほどの仲となったのだ。

 ローインもエクレアの追求にたまらず、メープルへ助けを求めるかのごとく顔を向ける。



(残念ですが、私はこれから新米冒険者達のフォローしなければいけません。そちらはそちらで恋人同士ごゆっくり)


 アイコンタクトは無事に伝わったようで、ローインは「そ、そんな~!!」っと顔をするも、そこをエクレアがさらに追及。


「何余所見してるの?そんなにメイドさんが好きなら私がいくらでも着てあげてもいいんだよ。丁度去年着たアレがあるしね」


「そ、それは……えっと、その」


「なに?見たくないの~もしかして最近胸が絶賛発達中なモモちゃんの方が好みだなんて……ひどい、ひどいわ~しくしく」


「い、いいいいやそそそそそんなことは……」


「……全く、普段は優秀なのですが、自身の恋愛がらみだとポンコツになるのはどうにかしてほしいものです。まぁ見てる分には面白いのですけど」


 本来ならあれは止めるべきはしたない行いであろう。マナーの教師としてみるならエクレアの振る舞いは看過できない。だが……


(ああいった事が出来るのは今のうちですし、私も煽った責任あるので今回は容認してあげましょう。それに……なんだかんだいってあのお二人はお似合いの仲ですから) 


 そんな二人をみてふと頭によぎる……


 もし、エクレアとマドレーヌが入れ替われば……

 エクレアが王太子の婚約者となれば今頃は……



「(やめましょう。エクレア様も癖はあれど頭の回転は鈍くない優秀な部類。王妃教育を無難にこなしつつもあの馬鹿王太子の制御と矯正ができそうといっても、あのお方は絶対王妃にしてはいけない人種。万が一にも王妃なんかになられたら国が滅びます)ふふ……皆様、とんだ災難でしたね」


 ふと思い浮かんだ想像はありえないものとして即座に隅へ追いやりつつ、メープルはエクレアからこってり搾られた新人冒険者のフォローをするのであった。



(そういえばレガールから連絡のあったギルドお墨付きの新人は順調な旅路であれば明日辺り到着の見込みですが……期待していいのでしょうかね?)



 ただ、新人の見極めはメープルの役目ではないので、今は気にせずフォローに集中するのであった。





 なお、諸々の屈辱から解放された新人冒険者達はメープルのフォローもむなしく、逆恨みでギルドから帰宅するエクレアに夜道で襲い掛かかる計画を立てていたようだが……



 結末がどうなったかは、最早語るまでもないであろう。

これで6章終了。

次章から、勇者君がヒロインと魔王にご対面して……


何か起こるかもしれないし、起こらないかもしれない?

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