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2.私積極的に奴隷となりたいわけじゃないから

 同年代の純粋な少年を打算で篭絡するという、すっかり腹黒になってしまったエクレア。

 そんな彼女が美少女なのは、一応本当である。

 証拠として鏡をみると小柄なので美人というより可愛い系の……胸囲装甲がとても残念になりそうな……成長をしそうな抜群の素材が映る。

 それを師匠がアレな方向性で磨いたようだ。


 特にアレなのは髪の色がピンク……実際はかなり薄いから『サクラ色』と称した方がいい……とかいう理由で乙女ゲーム系恋愛シュミレーションの定番な『お花畑ヒロイン』を装いつつ、実は『花畑は男共を骨の髄までしゃぶりつくす食虫植物の群生地』な教育だ。


「師匠、絶対面白がってやってたでしょ」


 まぁ幸いというか以前のエクレアは師匠の遊びに付き合う程度な感覚で学んでいたようで、そこまで本気に考えてない。師匠自身も現実で乙女ゲーム系恋愛シュミレーションみたいな展開はまず起きないだろうと笑いながら言ってたくらいだ。


「大体、私が本気で考えて王太子に近づいたところで成功するわけないでしょ。王太子にしても、庶民を妃にするような愚鈍な馬鹿が王太子になってたら『国を内部から潰す気か!!』っと周りからの大反対を受ける。王の候補なんていくらでもいるわけだし、もっと別のまともな者とタッチ交代。交代要員がいなければ反乱起こして国もろともとっかえ……ってなわけでそこに私が入る隙間なんて絶対ない」


 そんな感じでよほどの事がない限りは、お花畑ヒロインが王太子と真実の愛に結ばれてのハッピーエンドルートな展開なぞ起きない現象なのだが……


「でも……なんでだろう。7年後には王都にあるという王立学園に通って、王太子を筆頭とした側近たちを篭絡しまくった挙句、婚約者の悪役令嬢を冤罪で陥れて王妃の座をゲットなんてものを企むまぢもんの『お花畑ヒロイン』な私の姿が思い浮かぶんだけど………デジャブ?もしくは未来視?????」


 どちらにしろ『お花畑ヒロイン』なんて方向性はやばすぎる。

 特にお花畑に植えてるのが『食虫植物』だなんて、そのうち因果応報を受ける。『ざまぁ』される。


 だから植えるのは食虫植物ではなく。薬…薬だ。


 薬にも使えるお花がメインのお花畑……


 言うなれば『薬草畑ヒロイン』



「うん、『薬草畑ヒロイン』な路線で行こうってことで本題に戻るとして……お金どうやって稼ごっか」


 雑談ばっかりで話がちっとも前に進まない。

 現実逃避してるようだけど本当に現実逃避しているのだろう。


 良い案がちっとも思い浮かばないからだ。



「今の私が調合できる薬で得られる1日の純利益は1万前後。これを毎日5年間続けても到達するのは1825万。全然足りない。生活費もあるんだから全然足りてない」


 魔力さえあればより効能が高くて、高値で取引できるポーションを作れるのだが、エクレアの所持魔力は少ない。

 一般人はほとんどないに等しいから、少ない程度でも所持してるエクレアは恵まれてるといえば恵まれてるが、ポーション作りに必要な量にまで届いてなかった。


 一応転生特典とかでチート能力があるかもと思ってたが……そんな甘い話はない。

 『ステータスオープン』とか『鑑定』とか『アイテムボックス』とか転生系でおなじみの能力を一通り試してみるも………



 答えは③


 現実は非情であった。


 ただ唯一転生特典っというか、奇跡的に生還できた原因というか……チート能力と呼ぶにふさわしいものはあった。


 その能力は『毒無効』


 バジリスクの毒から生還できたのは元からそういった毒に強い体質があったのかと思い、試しにっと毒草かじったら……



 苦いだけで平気だった。



 毒キノコかじった。



 意外と美味しく、平気だった。



 毒蛙を毒抜きせず炙って食った。



 気持ち悪くなった。

 非常に疲れた。身体がダルくなったがそれだけだった。




 様々な検証をしてみた結果、どうも体内に取り込んだ毒を魔力や体力といったもので消費して解毒する能力に芽生えたようだ。

 さすがにバジリスクのような猛毒を再度試したいなんて思わないから予想になるが……

 毒を取り込んだ瞬間、解毒に全体力と魔力を持ってかれてその場で昏倒。

 その先はもう美味しくいただかれちゃう運命しかないっという、解毒能力全く意味ないじゃん!!なオチしかみえない。


「うん、地味。チートではあるけど地味すぎるチート能力。今の私じゃ到底活用できそうにない」


 一応今のエクレアでも薬草採取中に『おおっと』とかで襲い掛かってくる、毒持ち連中のわずらわしさを無視できたり、サバイバルで何も食べる物がない時でも泥水をすすって毒草や毒キノコを食らって生き延びる事が出来る利点はあるけど……

 即座に大金へと結びつくようなものじゃない。

 どちらかというと奴隷に堕ちた時にこそ真価を発揮する能力だ。


「いやいや、私積極的に奴隷となりたいわけじゃないから」


 びしっと虚空に向けて突っ込む。

 一人漫才だ。反応はない。


「……………私、こんなに独り言もらするような性格してたっけ?」



 さりげなくだが例の宣言から3ヵ月経過していた。

 季節は春から夏に突入し、外からは強い日差しと共に蝉の鳴き声が届けられている。

 前世の名無しとエクレアとの人格は融合が進み、今はどちらがどちらかわからない程度に混ざりあっていた。

 混ざりあう過程でおぞましい“ナニカ”が紛れ込んでる気はしないでもないが……


「不便さはないので問題ないとしておこう。うん…そう………」


“ヘイオンブジデイタイナラカンガエチャダメダ”


 よって何も問題はないのである。



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