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11.あの時は本当に死を感じました(side:メープル)

 笑顔ながらも目が全然笑っておらず、自らの首を親指でかっさばくしぐさを行いながら告げたエクレアのくび宣言。最初は意味が分からなかった。


 ただの冗談かと思って口を開こうとしたら






ダン!!!!






 黙れっとばかりに、踏み鳴らした。


 踏み鳴らした足を中心にして不可視の衝撃が走り、地面が激しく揺れる。

 揺れた地面に跳ね飛ばされて思わず尻もちを付く。


 そこから見上げる形でみたエクレアは………悪鬼であった。


 サラサラとしていたサクラ色の髪が赤黒く変色して逆立ち、健康的な肌は脈打つようにして赤黒く染まった。


 人間をやめたとした思えない『鬼』となったエクレアは無言でメープルを睨んでいた。

 人ではなく害虫をみるかのような瞳で……目を合わせるだけで正気を奪い去って発狂してしまいかねないような瞳で睨まれた事でメープルは悟った。


 自分はまた間違えたのだ。

 対応を間違えてしまったのだ。

 そのせいで……





“ エ ク レ ア を 決 し て 怒 ら せ る な ”






 辺境へ出向く際にマドレーヌが絶対厳守としていたこの項目にそむいてしまった。

 そして、マドレーヌが絶対厳守としていた理由を今更ながらに理解した。


 今目の前にいる『鬼』を怒らせた事で支払われる代償は……




 決して逃れる事のない“死”であるっと。









……………………



「(あの時は本当に死を感じました)確認いたしました。こちら本日の報酬となります」


 一通りの列を捌ききったところでメープルは一息つく。

 ギルドに詰めていた者達も大半が手にしたばかりの報酬でプチ宴会っとばかりに隣の酒場へと乗り出したようだ。

 閑散としたロビーとは対照的に酒場からは喧噪が漏れてきている。


 だというのに……


「エクレアちゃん、まだやってるんだ」


「えぇ、どうやらそのようです。ローイン様」


 ギルド奥から呆れ半分に顔を出してきたローインに苦笑ながら答える。


「様はやめてよ、僕はそんな偉いつもりじゃないから」


「わかってます。これは私の性分なので慣れてしまうしかございません」


「それでもやっぱりメイドさんみたいな人から様付けは……こう、ちょっとね」


「……」


 メープルとしてはメイドではなく侍女と訂正したいが、平民にとってはメイドも侍女も同じものと感じてしまうらしい。


 両親が元貴族で貴族の知識もある程度持っているローインでさえ、侍女をメイド扱いにしてしまうほどに混同してしまうのだ。

 貴族との接点がない平民や粗暴な冒険者では余計区別がつかないというか、そもそも貴族と接点持たないなら区別付ける必要性がない。


 訂正する必要性がないと思えば、メイド呼ばわりでも軽く受け流せる程度になった。

 それに……


「ではメイドらしくご主人様とでも言ってあげましょうか?」


「ぶふっ!?」


 以前では考えられないような、ちょっとした冗談も言えるようになった。

 21歳という大人の女性からのからかいに何を思ったのか、急にしどろもどろとなって挙動不審になるローイン。その姿はまさに思春期の少年であろう。


 これであのエクレアの婚約者だというから不釣り合いにみえるが……



(それでもいざという時は頼りになる辺り、エクレア様の婚約者なだけあるのですよね。ローイン様は)


 そう……ローインは見た目や振る舞いが少々頼りないところはあるも、荒事に関しては全く動じないほどの胆力がある。

 目の前で血みどろの惨劇が起きてようとも全く動じず、冷静に状況を見据えて的確な判断が下せるというエクレアの婚約者として必要不可欠な素質を持つ少年なのである。



 その証拠に……

 あの日のメープルの危機を救ったのが、ローインであったからだ。

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