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⑨.この程度、まだ優しい方なんですよね……(side:メープル)

閑話、その頃の変態侍女は……的な感じでお読みくださいw

 メープルがゴッドライフの村に派遣されてから半年、季節は秋から冬を過ぎて春へと移り変わっていた。

 冬の間は閑散としていた冒険者ギルドも春になれば滞っていた物流が動き出すのでその分依頼が増える。

 特にゴッドライフは去年に『味噌』と『醤油』の生産地となった事もあり、春先は一冬越してよい具合に熟成されたそれらが一斉に出荷される。

 商業ギルドの役目も兼ねている冒険者ギルドでは運送に向けた仕事の調整で大忙しだ。メープルはそんな冒険者ギルドの臨時職員として、依頼を終えて報告へと訪れる冒険者達の相手をしていた。


「はい、確認終わりました。こちらが報酬となります」


 営業スマイルと共に報酬を渡すメープル。その際に質問、報酬の内訳や翌日のお勧めの仕事といった内容にきっちり答えるその姿はすでにベテランのだ。

 臨時職員の仕事を引き受けてまだ一か月も経ってないなんて言っても信じないであろう。


 メープルはそれだけ優秀な証拠であるが、彼女にも失敗はある。


 メープルはカウンターで次の冒険者からの依頼成果を確認しつつ、横目でロビー隅をみる。そこでは先日村に来たばかりの新人冒険者達に説教をするエクレアの姿があった。

 内容は薬草採取の仕事を請け負ったはいいが、採取した薬草が別物だったり扱いが雑だったりで到底評価に値しないというものだ。


 


「なんというか、身に包まれる思いがします」


 そんな新米冒険者達の姿をみて、メープルは思わず苦笑していた。

 彼等はあれでも西方面の王都ともされるレガールの街でのギルドでは優秀だったそうだ。いくつかの討伐系の依頼を成し遂げた期待の新人なのだが、そのせいで増長していた。

 来た当時から横暴な態度が目立っていた。自分はいずれ英雄になる男だと息巻いてたが、蓋を開ければ井の中の蛙。


 試験的に行った模擬戦では年下であるランプやトンビはもちろん、荒事には不慣れな魔術師で研究者風情なローインにすら負ける始末。

 彼等は魔法でズルをしたとかたまたま調子が悪かったとか何でもありの真剣勝負なら勝てると言っているが、そんなわけない。


 ある程度の心得を持つ者がみれば、ローインは純粋な剣の腕のみで彼等を圧倒してるのは明白だった。調子の良い悪いに関しても、先手を取らせて受け流しからのカウンターを得意とする彼に工夫のない単調な攻め一辺倒では勝てる勝負も勝てない。

 極めつけに……なんでもありになればローインは剣だけでなく魔法も織り交ぜてくる。独特でありながらも彼のスタイルに合わせた攻守の型は近接共に隙がない。


 結論的にいえばローインは疑いようのない強者なのだが、新米たちは彼の見た目が研究者風情なもやしっ子な事もあってその事実を認めない。いくら腕に自信があろうとも自身の力量を過信しては……相手の力量を正確に測れないようでは早死にする。彼等に討伐系の依頼は任せられないと判断されたのは無理ない話だ。


 かといって高いプライドのせいで畑仕事や皿洗いに掃除や洗濯といった雑用は受けたがらず、仕方なく冒険者の定番である薬草採取を任せたら、御覧の有様。


 12歳というまだ成人してない女の子から説教受ける図は彼等にとって屈辱だろう。大勢が詰めかけているギルドロビーでさらし者にされるのは最高の屈辱だろう。


 だが……



(この程度、まだ優しい方なんですよね……)


 メープルは彼等をみて思い出す。自分もここへ来た当時は彼等と同じような態度だった事を思い出す。


 メープルとしては横暴な態度を取ったつもりなくとも、傍からみればあの新米達と大差なかったと思われる。

 自分は貴族で学園主席、次期王妃にふさわしい侯爵令嬢マドレーヌの専属侍女という驕りを持っていたのだ。


 もちろん驕りは言い換えれば貴族の誇り。正しい時に正しい使い方をすれば何も問題なかったが、メープルは使いどころを間違えていた。

 正すチャンスは何度もあった。周囲も態度を改めるよう進言していたのに当時のメープルは自分が正しいと思い込んでいた。

 優秀な自分に間違いはないっと思いこんでいたせいで注意を聞き入れる事が出来ず……結果として、エクレアを怒らせてしまった。


 例の一件について、侯爵家の代理として謝罪に来たというのに……

 マドレーヌから失礼のないよう散々注意受けていたにも関わらず……


 自分の無知さや間違えた使命感でエクレアと接してしまったせいで、エクレアを怒らせてしまったのだ。

 その怒り具合は今あそこで新米達相手に説教してるのが遊びと思えるぐらいであった。



「(ふふ……当時は本気で死を覚悟しました)はい、終わりました。次の方どうぞ」



 出来る侍女であるメープルは仕事の手を緩めることなく、冒険者の列を捌きながら訪れた当時の事を思い出していった。

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