8.あいつらには腕力ではなく策略でもって地獄に落としてやろう
なろ〇とかでは珍しい知略にも優れた勇者君であった……
はい、馬鹿なくせに見え張ったせいでこの先地獄しか見当たりません\(^o^)/
「ケバブ君、気持ちはわかるが落ち着こう。もしくは正気に戻ろう」
グランは物騒な提案を行ったケバブを窘めるが、ケバブとしては落ち着いてる方だった。
「落ち着いてますよ。俺は正気です。俗にいう正気に戻って落ち着いてるからこそカチコミを仕掛けようとしてたクラヴァ達を宥めてるんですから」
「それもそうか……だが潰すにしても、どうやって潰す気なんだい?」
「俺に良い考えがあります。なので協力してください」
にやりと笑うケバブ。その笑みはヒロインと同様に正義の味方である勇者がしてはいけない類のものだろう。
だが、ケバブは気にしない。
ケバブの正義は『強きをくじき弱きを助ける』。弱者にとっての正義の味方であるため、弱者を虐げる者は正義の鉄拳の振り下ろし先なのだ。
ただし、今回の敵はギルド上層部。権力的な意味での強者であり、単純な腕力では解決できない。メインで使うのは腕力ではなく頭脳。策略と暗躍だ。
(くくく……俺の前世はずいぶんひねくれた思考の持ち主だったみたいだな)
ケバブの人格は最初こそ前世の人格が表に強くでていたが、ヒロインや悪役令嬢と違って今は元のケバブがベースとなっていた。前世は表ではなく裏方、補助的な役目を負う『もう一人の俺』な立場を自ら選んだからだ。
ケバブが『勇者』のチートに飲まれないよう、なろ〇での調子乗った転生や転移系チート勇者の末路を散々語って自重を促していた。
ケバブも父の事があったので、前世をおせっかいな相棒として素直に忠告を聞いていた。
そんな前世はTRPGと呼ばれる机上のシュミレーションゲームに凝っていたようで、自分のキャラは決まってルールの穴を付いたひねくれ軍師を演じていた。
ゲームのデータを隅々まで網羅し、GMと呼ばれる敵対者の思いもよらない戦術や戦略を企てて抜け道的な勝利を見出す事に快感を見出すプレイヤーだったわけで……
(わかってるさ。あいつらには腕力ではなく策略でもって地獄に落としてやろう。そのための作戦は……)
「クケケケケケケケケ……」
心の声が漏れるかの如く、不気味に笑うケバブ。
そんな有様であるも、グランとついでに同パーティーであるアルトやエルンは……
「ふぅ……エクレアちゃんやローイン君もそうだったが、英雄の素質を持つ者はなんでこう癖が強くなるのやら」
「「わからないからこそ、俺達は英雄になれないんだろう」」
「それもそうか」
すでに同種の存在を知っていた事もあって、肩をすくめながらも生暖かい目で見守るに留めるのであった。
そんなわけでケバブが企てた作戦は……
単純だった。
音は空気を伝って届かせる。
もちろん声も空気を伝って届かせるものであり……
その空気を上手く操れば、遠方に届ける事もできる。
そう……
ケバブはレヴァニが得意とする風魔法を応用させて上層部の腹黒い声を周囲にばらまかせたのだ。
クラヴァの物体すら強化させる強化魔法で拾った声を強化、大音量にさせた上でばらまかせたのだ。
Aランク冒険者であるグラン達が執務室でギルド長を糾弾させ、その際の反論の声……
権力を利用した脅しの声を大音量で周囲に響かせたのだ。
もちろん企てはこれだけでない。
腐った連中はギルド長だけでなく無数に居たわけで、それらを完全なまでに失脚させるべく比喩的な地下で暗躍しまくった。
勇者とは思えないような腹黒い暗躍を企てまくった結果……
一人、また一人とギルドに巣食っていた膿が姿を消していった。
こうして季節が冬を過ぎて春へと移り変わるころには上層部がすっかり一新されて、冒険者達の意識も改善。
冒険者ギルドは新しい体制の元で運営されることとなった。
そんな風通しの良くなったギルドの立役者となったケバブ。実力はもちろんの事、子供の頃から真面目に雑用仕事をこなしてきた信頼もあって15歳にしてBランクという驚異的な早さでランクアップを果たし……
魔物や魔獣の巣窟とされる西の最果てゴッドライフの村へと旅立つ事となった。
…………………………
「グランさん、そしてアルトさん、エルンさん。お世話になりました」
「ああ、向こうでも頑張るといい」
ゴッドライフに突如出現した生きたダンジョンの主。
その正体は誰なのか、結局グランは最後まで語ることなかった。
だが、グランからダンジョン探索の推薦状は書いてもらえた。後は現地でケバブ自身が力を示して直接会えという事なのであろう。
(ダンジョンの主は本当に魔王なのか、なぜ俺が勇者になったのか……)
勇者に目覚めてこの1年……
ずっと頭の隅で考えていたこの疑問はきっとダンジョンの主に出会えばわかる。
そんな想いを胸にして旅立つケバブであったが……
「楽しみだな~ゴッドライフの村って去年から出回るようになった『味噌』と『醤油』の生産地なんだし、そこにはきっと美味しい料理が」
「ふふふ……貴族令嬢でありながら稀代の魔術師とも称されてるあのスージー様に会えるだなんて、私卒倒しとうですわ」
「くくく……魔女サトーマイはもういないけど弟子ならいる。全ての技術と知識を継承した弟子……会いたい。どんなステキな理論を所持してるのか、一晩中語り合いたい」
「……あの、グランさん。こう言ってはなんですけど……先行きに不安しか感じないのは気のせいですかね?」
「ははは……まぁ大丈夫。向こうはとにかく癖の強い者ばかりだし、彼女達みたいな性格の方が馴染みやすいだろうからさ」
「余計不安しかないじゃないですか!!!」
…………まぁ、そんなわけで勇者の物語は悪役令嬢と違い、意外と早くエクレアの物語と交わるのであった。
第6章完結……
ではなく、次は閑話的なお話がもうちょっと続くんじゃw




