6.このグランさんの剣こそが俺の目標だ
「手っ取り早くていいですね。その言葉、忘れないでくださいよ」
放り投げられた薪を掴んだケバブも立ち上がる。
立ち上がってグランと程よい距離を取って相対する。
ここはなんらかの合図を待つところが定石なのだろうが……
ケバブは定石から外す。
合図を待たずして叩きつけにかかった。
勇者のチートが加わった一撃は
ガン!!
「つつつ……」
自身への顔面への痛打のみで終わった。
「踏み込みは早い。思い切りもいいけど、素直すぎだね」
「そうですか、ならこれは……どうです!!」
次は二段構え。
初段が防がれる事を想定した、素早い二連撃だが彼はその二連撃に対応するどころか
ドッスン!!
「ぐげっ」
打ち終わりの隙を突かれる形で足を引っかけられた。
前のめりになってすっころぶ。
「並の相手なら初撃がフェイントだと気付かないだろうけど、真の強者には通用しない・いっそ二連撃で終わらせず五連撃ぐらい放つ意気込みでやってみるといいさ」
ケバブが立ち上がるのを待ちながら、余裕綽綽にアドバイスを送るグラン。
対するケバブは……
(強い……予想はしてたけど強い)
ケバブは勇者だ。チートに近い補正があって剣の上達も早い。
ステータス上でみればすでに達人クラス。『鑑定』で調べたグランとの技量からみて、それほど大きな差はないと思っていたが……
(あれか、数値に現れない強さってやつか)
グランはAランク冒険者。
父がBランクだったのに対して、グランはA。父よりも上なのだ。
冒険者歴も10年を超えるベテランだなけあって、数えきれないほどの実戦を経験してきたのであろう。
修羅場をくぐってきたのであろう。
対してケバブの戦闘経験は幼少期から時々受けていた父からの手ほどきと半年程度の訓練ぐらいだ。
ステータス上では大きな差がなくても、所詮は机上の理論。
ケバブの繰り出す攻撃は全ていなされた。
稚拙な攻撃は効かないっとばかりに対処された。
年齢が倍ほど離れてるので実際その通りであったが、ケバブは終始子供扱いされていた。
……………………
「時間だね……」
「はぁはぁ……そのようですね、ありがとうございました」
素直に負けを認めて、一礼する。
勇者のチート補正ですらモノともしない、圧倒的な力量でもって完封された事にくやしさはある。だが、それ以上にすがすがしさがあった。
(そうだ……俺が求めてるのはこれだ。このグランさんの剣こそが俺の目標だ)
圧倒的な力量を持ちつつも、決しておごらない。
相手に敬意を払い、必要以上に痛めつけない。
勇者という完全なチートを持つケバブにとって、グランの剣は理想だったわけだ。
ケバブはそう思いながら、改めて剣に持ち直して振るう。
グランから教わったアドバイスを元にして、自分の欠点を確認するかのように振るう。
その様をみたグランは思うところがあったのか、ぼそりとつぶやく。
ほどよく煮えた鍋から灰汁を掬い取り、新たに調味料……野営の多い冒険者のお供とも言われてるスープの素を投入しながらつぶやきはじめる。
「これから言うのは独り言なんだが……ダンジョン……西の最果てとされるゴッドライフの村近辺にダンジョンが出現したんだ」
「ダンジョン……それが今回の一件と何か関係が?」
「さぁてね。これは僕の独り言だから質問には答えられない。ただ、先ほど述べた集団戦に特化したゴブリンはダンジョンを住処としていた。死んだダンジョンではなく生きたダンジョンを……ね。今回僕達が態々ゴブリン退治を引き受けたのはダンジョンの一件と何か関係あるのかと思っての事だったのさ」
「そ、それって……つまり」
ダンジョンは昔魔王が生み出した施設の一つ。
魔王は無数の魔物や魔獣を生み出すダンジョンを創造させて世界を蹂躙しようとした。
魔王の死と共にダンジョンは沈黙。魔物や魔獣を生み出す機能がなくなり、ただの洞窟や遺跡となった。
そんなダンジョンからゴブリンが現れた。
そこから考え出されるのは……
(ダンジョンが復活……すなわち『魔王』が誕生した!?)




