11.私はこのお方にお仕えする事こそが天命なのですね(side:メープル)
メープルは侍女を目指していた。
父からは伯爵家の長女として婿を取り、家を継ぐ事を期待されていたが、メープルはその道を蹴った。
なぜなら、天啓が下りたからだ。
父の弟である叔父が入り婿となったスイーツ子爵改めスイーツ侯爵家の長女を見た瞬間……
生まれて間もない赤子を一目見た瞬間……
マドレーヌから向けられた無垢な笑顔を見た瞬間、身体中に電撃が走るかのような天啓を授かったのだ。
“あぁ……私はこのお方にお仕えする事こそが天命なのですね”
最初こそ父は反対の立場を取っていたが、メープルの懇願と努力……
お前をいつでも暗殺できるっと言わんばかりなメッセージを込めた懇願(人それを脅しという)と、学園を主席で卒業という努力の甲斐あって認めてもらえた。
2年前のマドレーヌが⑨歳の頃に王太子の婚約者として選ばれた事で、文部に秀でた忠誠に厚い専属侍女が必要だったこともあって、全ての条件を満たしてなおかつ従姉としてマドレーヌから親しまれていたメープルは絶好の人材だったのも後押しされたのだろう。
……忠誠は忠誠でも、『ただし忠誠心は鼻から出る』なあかん奴であったが、質の悪い事にメープルは自覚ある変態。
公の場では完全で瀟洒な侍女を装っていたので、表向き問題は起きなかった。
彼女の裏の顔を知る者も、変態要素以外は優秀な事もあって多少の欠点はご愛敬としてあえて見て見ぬふりされた。
中にはお嬢様と侍女という百合百合な光景を楽しむ方々も居たようだが、それはさておいて……
メープルは確信していた。
これからもずっとマドレーヌお嬢様のそばに居続けると……
その役目に狂いが出たのは卒業と同時に専属侍女兼教育係として仕えて3年目の春……
ある深夜、神妙な顔をしたマドレーヌがメープルの寝室を訪れた時が狂いの起点であったと思われた。
……………………
(side:メープル)
「お嬢様、この時間に私の寝室を訪れるだなんて随分久しぶりですね」
「そうね。メープル、貴女を信頼して話すけど……」
そう言いながらマドレーヌは周りの気配を探りはじめた。
周囲に人がいないかどうか確認してるのだろう。
「大丈夫です。この部屋にはいつも通り私しかおりません」
扉に警護の者こそいるが、部屋には居ないので別に嘘は言ってない。
それに彼……もしくは彼女とは密約を交わしているので問題ない。
夜中の就寝間近であるこの時間帯にマドレーヌが訪れた時のみに適用される密約。
中で何が起きようと口外しないという密約だ。
そう……
“な に が お き よ う と こ う が い し な い み つ や く だ”
もし、万が一……万が一でも破ろうものなら制裁を与える。
どんな立場であろうとも、一切合切躊躇なく制裁を与えるっと言い渡している。
その甲斐あって、今現在密約を破ったものはいない。
……一部の屋敷勤めには中の出来事を話しているようだが、情報の共有は各業務をスムーズに行うためにも必須だ。
なので、こちらも条件付き。監視網の構築や百合本&薄い本と交換で認めている。
(っと、いけません。せっかくのお楽しみタイムなのですから、妄想ではなく今この瞬間を楽しみませんと)
メープルは今にもあふれんばかりの忠誠心を気合と根性で引っ込ませ、にこやかに取り繕うかのような笑顔で話しかける。
「さぁお話しください。いつも通り…」
メープルはこの時までいつも通りだと思っていた。
いつも通り政務に対する愚痴。王太子に対する愚痴。王妃教育に対する愚痴。
そういった表では口にできないような相談事やストレスの発散を兼ねた悩み相談と思っていたが……
「私……国を潰そうと思うの」
マドレーヌから出た言葉は予想外であった。
ナ、ナンダッテー




