⑨.エクレアはもうSAN値0でもおかしくないレベルよ ※SAN値直葬?注意
久々にSAN値直葬?注意。今回はアレ……いや、割といつも通りではあるけど態々注意書き入れてるだけあって、特段にアレな表現が含まれているのでご注意くださいw
レシピをみた瞬間、目が点となって固まったマロンとカロンだが、いつまでも固まったままではない。
各々正気を取り戻し、改めてレシピを見返し……
「えっと………これ日本語ですかね?全部ひらがなですけど」
「いやそれよりなんだよこの材料。俺達こんなもんを有難がって食ってたんかよ、うげー」
「師匠は転移者みたいだし弟子に日本語をひらがなだけ伝授したのでしょう。材料から見てこれ完全に秘匿すべきようなものだし、日本語で記したのは暗号代わりにしたのでしょう。だから無礼な貴族にはこれで試してるところあるのかも。この日本語を読み解けるなら解いてみやがれ。でもって再現できるなら再現してみやがれってね……もっとも」
「誤算だったのは、私たちがナチュラルに日本語読めるという所ですか。ただ、この場合読めない方が幸せだったかもしれませんけど」
「同感だぜ。もうパンドラの箱開けた気分だ。希望もあるが俺達じゃ絶対掴めん希望だぜこりゃ」
二人のいう通り、3人は日本語が読めた故にとんでもないパンドラの箱を開け放ったのだ。
なにせ『味噌』や『醤油』に使われている材料が………
一言で表すと
“知らない方が幸せだった”
である。
「あーでもこんな常識に囚われないを通り越して、糞溜めに投げ捨てたような材料使ったからこそ『味噌』と『醤油』に日本人の前世の記憶を呼び起こすという効果が付与されたのかもしれません」
「マロンの言う通り、その辺りはさすが『毒花畑ヒロイン』である“狂気”に侵されたエクレアってとこかしら……嫌な方向での誉め言葉になっちゃうけど」
ゲーム内で常識がぶっとんだチートな効果を持つ薬を作るだけあって調味料もぶっとんだチート効果がある。
そのせいで3人は『ようこそ乙女(悪夢)の花園へ』と誘われてしまった事になるが……
「ねぇ、私はこれからエクレアに対してどう接すればいいと思う?」
「どうって、今から何か出来る事あるんですかねぇ」
「それよりエクレアさんはすでに『毒花畑ヒロイン』と化してるんだろ。SAN値がどれだけ残ってるかわからないけどな」
「たぶんほとんど残ってない」
「根拠は?」
「『味噌』と『醤油』のぶっとび具合よ。裏モードのエクレアはSAN値が減って“狂気”の浸食が進めば進むほどヤバい薬を精製できるようになる設定だし、この分だともうSAN値0寸前でもおかしくないレベルよ」
もし0ならエクレアは完全に魔王として世界滅ぼしにかかってるのだけど……
彼女は辺境にいる事もあって国や貴族との関わりが薄い。
故に彼等に対しての憎悪もまだ自制が効く程度に収まっていると推測できる。
ならば下手な刺激はそれこそ『手の込んだ自殺』だ。
今のエクレアは“憎悪”と“狂気”を内に秘めたままひたすら牙を磨く眠れる魔王。
その眠りを妨げさせたら間違いなく世界が滅ぶ。
決して起こしてはならない『眠れる魔王』だ。
「なら先手打って排除すればいいのでは?暗殺者とかを雇って」
さらっと恐ろしい事を提案するマロン。ある意味それは正しい選択だろうけど、エクレア相手には悪手だった。
「絶対無理よ。護衛の冒険者からの報告書によると、エクレアの立ち振る舞いから彼女は最低でも冒険者ランクでB、下手すればAにすら達してるほどの強さを擁してるとみたそうよ。
彼等が交戦しなかった一番の理由はそこね。交戦すれば一蹴されるだけっと判断したみたい」
「ちなみに冒険者のBランクとかAランクってどれぐらいの強さなんだ」
カロンの疑問は当然だろう。
今まで読者には冒険者の強さの基準は説明してなかったし、この機会にっとマドレーヌは説明に入る。
「えっと、冒険者はF~Sの7段階評価。細かい説明はまた追々するけどCランクがベテランでBランクはエリート、日本風にいえばCランクは平均的な収入を持つ管理職なサラリーマンでBランクは中小企業の社長クラスでAが大企業の社長……つまりエクレアは中小企業から大企業の社長の収入改め強さを持つ12歳前後の少女。将来性からしてAに上り詰めるのは確実でしょうね」
「Aならまだなんとかなるのでは?この国にも最高位のSランクはいますし、彼女の危険性を説いて動くように仕向ければ」
「ランクといっても所属によって強さがピンキリなのよ。特に中央は不正や賄賂でAやSに上り詰めた偽物もいるから、中央のランクは当てに出来ないわ。それに西の辺境は正真正銘のSどころか国内最強とも最狂とも呼ばれる戦士……アーサー様が居るのよ。今はもう高齢で一線退いてるようだけど、国内有数の危険地帯故にギルド所属の冒険者は中央とは比べ物にならないぐらいの猛者ぞろい。そんなギルドにエクレアは傷薬やポーションを卸してるからギルドや冒険者達と懇意な関係築いてるそうよ……下手にエクレア抹殺なんて企んだら絶対彼等を敵にまわす。エクレアより先に国内最強冒険者の集団を敵にまわすわ」
「ならこちらも本当のSランク冒険者を雇ってはどうでしょうか?……コネはあるのでしょう」
「あるけど無理。本物とされる4人のSランク冒険者の各方面の辺境の脅威に対する抑止力も兼ねてるから基本こもりっきりなの。
それに……アーサー様含む4人のSランク冒険者はとんでもない曲者ばかりよ。例をあげると西のアーサー様は殺した相手を……人体に猛毒な瘴気に侵された魔獣の血肉どころか内臓すら平気で食すような文字通り血に飢えた狂戦士でまともな神経してないそうだわ。そして……」
ここでマドレーヌは一度話を切った。この先の記憶は本来のマドレーヌが幼い頃に負ったトラウマの記録……
南に位置する侯爵領近辺で発生したスタンピードの危機を救った英雄を称える勲章の授与式での出来事……
マドレーヌは侯爵家の代表として英雄に勲章を授与する役目を担ったわけだが、前に立つ英雄一行は田舎者丸出しでそわそわと落ち着かない様子だった。だから親切心でマドレーヌは伝えた。「無理せず、普段通りに振る舞っていい」っと。
その発言は平民を気遣った発言として通常なら美談なのだろうが……そうはいかなかった。
当時のマドレーヌは知らなかった。彼等は南の熱帯諸島で暮らす南蛮人ともいうべき人種、普段は裸で暮らす人種ということを知らなかった。
彼等が落ち着かなかったのは周囲からの視線やマナーを気にしてではない。普段着ない服のせいだったのだ。
そんな彼等に『普段通り振る舞っていい』なんて発言すれば……
結果として彼等は……
マドレーヌの目の前で……
\パオーン/
……………………
「ま、まぁ……スイーツ侯爵家と懇意にしてる南のSランク冒険者のバナン様はある問題のせいで外に出せないのよ。本当に……人格面は本当にできた紳士なのに、そのある問題のせいで外に出せないのよ……
そんな感じで北と東の辺境所属のSランクも似たり寄ったりな問題児。もうSランク冒険者は頼りにできないというか、余計なトラブルを運んでくるから管轄区から出したらいけない部類なの」
「散々な言いようだな。だったら教会はどうなんだ?」
「あそこは貴族のゴタゴタには一切関わらない中立なの。貴族の頼み事……ましてや暗殺なんて頼めば逆に依頼者側が社会的な意味で殺されるわ」
そんなわけで結論。
どうあがいても絶望。
下手に動けば、世界より先に侯爵家が終わるのである。
内なるM「ゾ、ゾウサンガ……ケノハエタゾウサンガ……パオーン」




