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6-7.想定外の開拓地(2)

しばらく歩くと開拓地に着く。

開拓地は、森の中に突然現れるという感じで、周囲は深い森に囲まれている。

これでは危険な野生動物から身を守るのは難しいように見える。


だが、中心部の印象は大きく異なるものだった。

アランとダミアンは開拓地の中心部を見て驚く。


中心部は、周囲の状況とは異なり、既にかなり栄えていた。


人が住むエリアは狭い範囲に限られている。

だが、その範囲はかなり栄えている。


どうなっているのかはわからないが、このエリアは野生動物の被害を受けない安全地帯になっているようだ。


2人は村貴族の出だったので、新規の開拓で人が増えるのには非常に長い時間がかかることを知っている。

なので、2人から見て、これは異常な状況に見える。


ここはマルグリットがカステリヌの町を乗っ取られた後、最近作りはじめたばかりの村だ。

まだ道もろくに整備されていないのに、村の中心部には活気があった。

森の中にいきなりレンガ造りの建物がいくつかと、あとは木で作られた仮設住宅という感じだが、まだ新しい。


アレンが確認する。

「本当にカステルヌが乗っ取られた後に、マルグリット様が作ったのか?」


「はい。私たちのためにマルグリットお嬢様が用意してくださった土地です」


アランとダミアンは混乱する。

「何をどうやったらこうなる?」


村の規模は既に25人を超えて30人近く、今も急激に増えていると言う。

小屋の数的に、そのくらいの人数だと思うが、どう見ても一般的な開拓地のように人々が疲弊していない。

町で暮らす人々のような表情だ。


普通は、開拓地の民は死と隣り合わせのぎりぎりの生活を送り、疲弊しきっているものだが、ここにいる人たちは、そういう表情ではない。


「どういうことだ?」

「これじゃ、俺の(実家の)村より生き生きしているように見える」


「いったい、どんな魔法を使ったんだ?」


偶然口にした言葉だったが、言った後に自分で気付く。


「……魔法? 魔法!」


マルグリット様は魔女の後ろ盾がある。


アランは思ったことを口にする前にダミアンを見る。

ダミアンも気付いた様子だ。

そして確信した。

2人は口にしなかったが、この開拓には魔女が力を貸している。

マルグリット様が開拓地を作るのに魔女が直接力を貸している。


……となると、かなり不味い状況だ。


2人は預かった書状を魔女に届けると、自分の命が危ないのではないかと思い始める。

この話を聞く前は、魔女に歓迎されないとは思っていたが、リタ(マルグリット)を勝手に連れ去ったことに関しては、さほど咎められることは無いと思っていた。


魔女は人と関わらないと聞いていたからだった。


だが、魔女は人と関わるということが判明してしまった。

少なくともマルグリットに力を貸している。


もしかしたら、魔女がこの場所を開拓したがっている可能性もある。


「まさか魔女が開拓を進めているというわけでは無いよな?」


冷や汗が流れる。


……………………

……………………


2人はさらに開拓地を見て回る。


開拓地の中心部には煉瓦を焼く釜と湯を沸かす釜がある。

湯はいろいろな産業や生活に使われている。


この釜の存在がこの開拓地を支えているようだ。


釜の近くでは職人が働いている。


釜から離れた場所にいる品の良さそうな集団に声をかける。

開拓地に来る人というのは、通常、居場所の無い人か、一発逆転を夢見る人だ。

こんなに品の良さそうな人は来ない。


だが、逆に品の良さそうな人たちが開拓地に来るケースもある。


例えば、領主が変わる場合、家臣団が丸ごと失職することもある。

家臣団が、元主人の親戚筋を頼って集団で移動するなんてことも有る。

その集団である可能性が高いと考えたのだ。


実際に話を聞くと、予想通り、この集団は元ラスカリス家の使用人たちであった。

ただし、ガティネ家に継続して雇われた元ラスカリス家の使用人たちで、失職したわけでもないのに、この開拓地の話を聞いてここに来たという。


まだ来たばかりで、仮の住居も無い状態だとは言うが、町を捨ててここに移るほどとなると、リタの人望はアランとダミアンの想定を遥かに超えたものとなる。


通常、使用人は元貴族階級で現在では貴族階級ではなく、親や、祖父母の時代から使用人の立場を世襲してきた者たちが多い。

″代々仕えてきた″という部分が無くなると、単なる平民になってしまう。

そうなると、以前と同じ待遇での再就職は難しくなる。


領主が替われば、普通失職するが、そうならずに済んだのは幸運と言える。

なのに、せっかく、主人が変わってもその立場を失わずに仕事を続けられた者が、それを捨てて移ってきた。

この開拓地が新たな村となり、マルグリット様がラスカリス家を再興すれば、代々ラスカリス家に仕えてきたと言えるようになる。

つまり、マルグリット様がこの地で再興すると信じて移ってきたことになる。


※『代々仕えてきた』と言いたいがために移住してきた人ばかりではありませんが、

 リタ(マルグリット)さんが居るから移ってきたのは事実です。


アランはマルグリット様が単身現れたときの違和感の正体に気付き始めていた。


あのとき、町民に化けてアーデルハイト様に助けを求めに来たという感じでは無かった。

アーデルハイト様との間で何を話したかはわからないが、マルグリット様は怪我を無かったことにして、アーデルハイト様に帰ってもらおうとしたのではないかと考える。


「ダミアン、マルグリット様は、もしかしたら助けを求めに来たわけでは……」


「アラン、私もあのときの違和感の理由が腑に落ちたと感じている」


2人は、非常にまずい状況になっている可能性に気付き、全力でこれから起こるであろう問題について考え始めていた。


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