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6-3.カリーヌの陰謀炸裂

絵は昔書いたものの再利用です

挿絵(By みてみん)


リタ(マルグリット)は、町の近くに来てすぐに、襲われた馬車についての話を聞きながらここまで来た。

聞いた話と一致している。

怪我を負ったのはアーデルハイト本人で、命に別状はない。


腕に包帯を巻いているので、どこを怪我したかはよくわかる。

大袈裟に包帯を巻いているだけなのか、かなり大きな傷なのか、包帯の上からでは、どの程度かはわからない。


リタが怪我の程度を気にしていることに気づいたのかアーデルハイトはこう答えた。


「ああ、たいした怪我ではない。

 ただ、怪我をしてしまったのは迂闊だった」


″迂闊だった″ そう言った意味は良くわかる。

お忍びで来たのであれば、問題を起こしてはいけない。


怪我を負ったのが護衛であっても問題になるのに、よりによって怪我をしたのがアーデルハイト本人となれば大問題だ。

リタがガティネ家の立場だったとしたら、かなり悩むことになっただろうと思う。


「何者の仕業でしょうか?」


アーデルハイトは、この時点で相手がどの勢力かは知っていた。

本当のことを言っても構わないが、ガティネ家と揉めたことをリタに言うメリットは少ないと判断し、こう答える。

「……ただの野盗だ」


リタ(マルグリット)は、今の話を聞いてスルーする。

野党は護衛付きの馬車を襲うことは少ない。

「なぜアーデルハイトお兄様を襲ったのでしょう?」


この反応でアーデルハイトは気づく。

野盗と聞いて動じもしない。

そしてこの質問だ。


襲撃の犯人が誰なのかは、見当がついているというところだろう。

アーデルハイトはそう考える。


「事故だな。我々が何者かを知らなかったから」


----


それは事実なのかもしれない。

普通に考えて、現時点でシャトノワ家と敵対するメリットはない。

そして、デメリットはかなり致命的なものだ。


「お兄様に手を出すなんて、

 何をする気なのかと思いましたが、知らなかったからですか。

 仕方ないのかもしれませんね。

 この馬車はこの周辺ではあまり有名ではありませんから」


家紋は付いていないが、おじいさまの領地の付近では、この馬車の持ち主が誰かは知られている。


家紋が無いとはいえ、明らかに貴族だとわかる馬車が襲われた。

つまり、貴族がリタに会いに行くと襲われるということだろう。


リタ(マルグリット)は、ガティネ家とは和解して全て終わったと思っていた。

だが、後ろ盾になりそうな者が来れば、こうなるのだ。

和解でリタが町に行っても良いというだけで、それ以外は保証されていなかったのだ。

※事故です。手違いでそうなっただけです。


……………………


「あの日、命を狙われただろう。よく生き残ってくれた」

そう言ったアーデルハイトお兄様の目は嘘をついているようには見えなかった。

嬉しい反面、リタ(マルグリット)にとっては都合が悪くもある。


「はい。本当に危うく死にかけました」


アーデルハイトはこれを聞いて、おそらく本当に死にそうな目に遭ったのだろうと思う。

リタ(マルグリット)の母と兄を暗殺し、リタ(マルグリット)も暗殺すれば、相続権が不明確になる。

その時点で乗っ取りはほぼ成功したことになる。


実際にはリタ(マルグリット)にそんな力は無いとしても、リタ(マルグリット)が生きている限り、ひっくり返される可能性が残る。

だから相手は、全力でマルグリットを殺すか捕まえるかしようとするはずだ。


相手はリタを自分の管理下に置けば良いので、リタは身の安全と引き換えに、おとなしく捕虜になるという選択肢もあったはずだが、リタ(マルグリット)はそれを選ばなかったことになる。

※話をする隙を与えず、全力で逃げました。


「よく無事でいてくれた」

これは本当に、アーデルハイトの心からの言葉だった。


「はい。ありがとうございます。

 今回は私に会いに来てくださったのでしょうか?」


「ああ。君に会いに来た」


これは想定していた。

本当にそうなのだろう。


だとすれば、待遇はわからないが、頼めば保護してもらえるだろう。

頼まなくても保護してくれるつもりだろうが、リタは魔女様の森に残るつもりだった。


ひとまずは、用件を聞く。


「どのようなご用向きでございますか」


アーデルハイトは、この言葉を聞くと、連れ帰るのに少々難儀するかもしれないと思う。

助けを望む姿に見えないためだ。


「馬車の中で話そうか」


他にはろくに椅子も無い。

当然そうなるだろう。


「はい」


馬車は、少し懐かしい気がした。

この馬車も、リタ(マルグリット)は乗ったことがあるかもしれないと思った。


公式な用事で無いときに使用するものだ。

地元では、この馬車の持ち主が誰であるかは良く知られているが、

公式な用事ではないときに使うものだということも知られている。


今回も非公式で来ているはずだ。


「もちろん君を救いに来た。遅くなって済まない」

アーデルハイトはそう言った。


やはり助けに来てくれたのだ。


リタ(マルグリット)の生存の噂はエシロルまで届いたのだろう。

町中に潜伏し続けることが可能であれば、このタイミングでアーデルハイトお兄様に救われることになったのかもしれない。

たぶん、リタ(マルグリット)が町で潜伏を続けても、このタイミングでは間に合わなかったと思うが、救いに来てくれたことに関しては嬉しくはある。


リタにとって、アーデルハイトお兄様は少し特別な存在だった。


リタ(マルグリット)は貴族としての生活は、あまり好きでは無かった。

貴族の集まりで、リタはいつも仲間外れにされていた。

田舎貴族の上に、母も周辺貴族と仲が悪く、その娘のリタ(マルグリット)も、接触的に仲良くしてくれる人は少なかった。

そんな中、昔からアーデルハイトは優しかった。

従兄妹という関係であっても、皆が親しくしてくれるわけではない。

リタ(マルグリット)にとっては、数少ない、好感を持っている貴族である。


「伯母上とロベールは残念だった。

 君だけでも助けられたらと思う」


ありがたい言葉ではあるが、リタ(マルグリット)は、そのお誘いを断るために来た。

「はい。こうしてお会いできたことを嬉しく思います」


「これからどうするか」

「申し上げにくいのですが、私はもう貴族の子弟でもなく……」


アーデルハイトは、この話を聞いてはいけないと気付く。

そこで、話を変える。

「それよりも、問題がある」


リタ(マルグリット)は、アーデルハイトに何を言おうとしたのか悟られたことに気付く。

理解したうえで邪魔しようというのだ。

簡単に引く気はないということだ。これは少々困ったことになるかもしれないと思う。

「……どうされましたか?」


「いや、この怪我の件だ。

 傷が無ければ無かったことにできるのだが……

 せめて怪我をしたのが私以外であれば不問にできるのだが……

 いや、君のせいではない。だから君が責任を感じる必要はない」


リタ(マルグリット)はこれを聞いて、

リタ(マルグリット)を助けに来て襲撃された。

それを公にする(祖父に言いつける)と言われたように受け取った。


何の成果も無く、怪我して帰るだけとなると、今後、ガティネ家と揉める要因になる。

そして、リタ(マルグリット)も、怪我を負ってまで助けに来たアーデルハイトの好意を台無しにしたことになる。


このままアーデルハイトに帰ってもらうと、リタにとっても少なからずまずいことになる。


怪我さえしなければ、会えなかったということにしても良かったと思うが、

怪我をしているので、何も成果無しでは帰れないだろう。


だが、そもそも、リタには、ここまでしてもらうほど政治的な価値があるとは思えない。

助けに来てくれたことは嬉しく思う。

でも、リタは居場所を見つけてしまった。


アーデルハイトは、幼い頃のリタ(マルグリット)にとっては、

仲間外れにされたとき居場所を作ってくれた大事な人だった。


そんな人が助けに来てくれたのに、その好意を無にするのは良くないとは思う。

でも、ここで言わなければならない。


「今は、森の魔女様の世話になっています。

 私は家名も捨て、平民として生きようと思っております」


アーデルハイトは、聞きたくない言葉を聞いてしまった。

おとなしく引き下がるべきなのかもしれない。

だが、リタ(マルグリット)の髪を見て、まだ貴族に未練があるかもしれないと思う。


アーデルハイトも知っていた。あの髪は平民が維持できるものではない。


「その髪でか?

 令嬢が髪の美しさを保つのが難しいことくらい知っている。

 手間をかけて髪を美しく保っている意味くらいわかる」

※誤解です


----


リタ(マルグリット)は、後悔した。

リタ(マルグリット)は単に手間がかかるから髪を切ろうとした。

だが、それ以上の意味があったのだ。

切らずに維持すると、周囲からは貴族に復帰する意思があるように見えてしまうのだ。


リタ(マルグリット)は短く切ろうと思った。

でも、カリーヌが切らせてくれなかったのだ。

カリーヌには悪いが切ってしまえばよかったのだ。


「いえ、これは、なんと言いますか……侍女の趣味……みたいなものでして……」


「貴族をやめた君に侍女が居るのか?」


確かにその通りだ。

リタ(マルグリット)は、侍女を持つ気など無かった。

カリーヌにどうしてもと言われたから……カリーヌはこれをわかっていて

やったのではないかと疑いたくなる。


カリーヌがリタ(マルグリット)にドレスを着せたがっていることは知っていた。

どうせ、そんな機会は今後訪れないと思ったから、やりたいようにやらせていた。


完全な主従関係ではないこともあって、カリーヌに逆らえない面もあるのだ。


とにかく、ごまかさなければ。


「……いえ、正確には、今は侍女では無く友達です。

 ですが、友達ゆえに逆らえないところが……」


「なるほど、お友達がいつでも人前に出られるように世話をしてくれているのだな」


リタ(マルグリット)は凄く頑張って言い訳を話したが、あまり信用してもらえなかった。

リタ(マルグリット)自身も、説得力に欠けるという自覚はあった。


意図しものでは無かったが……


意図しものでは無かったが!


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