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6-1.今の私は貴族ではない

絵は昔書いたものの再利用です

挿絵(By みてみん)


リタ(マルグリット)さんは、散々、貴族ではないと言いまくってますので、フラグに襲われます。

お気軽なお話ではありますが、フラグを立てると回収の波に飲み込まれます。


”だが、理由わけを問うなかれ、それが物語のさだめだから”です!

リタ(マルグリット)が開拓地を見に行くと、火炎輪の周囲にいろいろなものが積まれている。

よく見ると、火炎輪の火がレンガ焼きに使われていた。


レンガに適した土が見つかったので、レンガを現地生産に切り替えたのだ。


井戸も上部はレンガを積み、水汲みがしやすいように改装されている。


試し掘りの後、水が出ることが確認できたので、しっかりした井戸が作られた。

けっこう深く、水質は良いが、そのぶん汲み上げるのは大変だ。


それにしても、リタ(マルグリット)の想定とはだいぶ異なる状況になってきた。

リタ(マルグリット)は、難民が一時的に暮らせる場所を用意したはずなのに、必要以上に立派なものができてしまった。


あまり居心地が良いと、人が出て行かない。

とは言え、外から買わずとも、建築資材が手に入るようになったのは良いことではある。

リタの出費を減らすことができる。


ここは、周囲の町からの交通の便が悪いこともあり、火炎輪の火があることで、他の建築資材よりもレンガの方が調達しやすいという状況ができつつあった。

木材も豊富ではあるが、最近切り倒したのは生木で、材木として使えるようになるまでは、しばらく時間がかかる。


もう一方の火炎輪は、湯沸かしに使われている。

この湯は、生活のあらゆることに使われる。

片方を湯沸かしに使うことに関してはリタも認識していたが、もう片方も、獣避け以外の用途に使われるとは思っていなかった。


カステリヌで居場所を失った人の中には、現時点で既にカステリヌの町より、この場所の方が便利に暮らせると感じている人も出てきている。


リタ(マルグリット)は、この火炎輪は獣除けに設置したもので、このように使うつもりは無かった。

こんな状況で、獣は、この火を恐れるだろうか?


ここが村になる必要は無い。しばらく安全に過ごせれば良いだけだったのだ。

リタ(マルグリット)の思惑からどんどん外れていく。


この日は難民第3弾ががやってきた。

また人が増えてしまう……


リタ(マルグリット)は人数が増えることを恐れているのだが、

移民団はリタ(マルグリット)を見つけると、真っ先に来る。

「マルグリットお嬢様。再びあなた様の領地に住めることを光栄に思います」


期待に応えることはできない。


「今はもうお嬢様ではありません。それにここは私の領地では……」

「いずれ領地になります」


リタは領地にする気はない。

ファブリスが金を出して、ファブリスが自分の町を作れば良いのだ。


それに、そもそもリタは領地を持ったことは無い。

領主はお母様で、リタ(マルグリット)は一瞬たりとも継ぐことは無かった。


リタ(マルグリット)は、自分の領地にするとはひとことも言わない。


「不便だとは思いますが、町に居るより安全ならば、ここを活用してください」


「はい。ありがとうございます」


もう既に安全地帯だと思っているようなので言っておく。


「中央の火の辺りは獣の心配は少ないと思いますが、

 一応見張りを立て、追い払う必要はあります。

 もといた獣は魔女様が退治してくれましたが、新たにやってくる獣は自分たちで退けてください。

 安全が確保されているのは火炎輪の近辺だけです。

 当面の食料は援助しますが、なるべく早く自活してください」


リタ(マルグリット)は、援助を長々と続ける気は無い。

リタ(マルグリット)はここに村を作ろうとしているわけではない。


ちゃんと伝わっているだろうか?

※伝わってないです


10人や20人ならなんとかなる。

10人の時期はしばらく続いたが、居住可能だと知られるようになると人が移り住んでくる。

少し前に20人くらいだと思っていたのに、また今日も増えた。

そんなに急に来ても、資材が無い。

雨風をしのぐことさえ難しい。


それに、リタにとって頭が痛い問題が発生していた。

リタのお屋敷で働いていた使用人がけっこう移住してきてしまったのだ。

すべての施設を譲渡したので、そこで働く人が必要なはずで、そのまま仕事を継続できる人が多いと思っていた。

開拓をしようと決めたとき、難民の中に、ラスカリス家の使用人は、そう多くなかった。


だから、難民にはならなかったはずで、わざわざ仕事をやめて、ここにきてしまったのだ。

今のリタは使用人を何人も抱える必要が無い。


仕える貴族がいない土地に使用人が移住してきてしまった。

職人でも難民でもない。

正直、リタ(マルグリット)にとっては人口が増えるだけで負担が増える。


難民だったら仕方が無いと思う。

問題なのはリタが難民だとは認識していなかった人が来てしまったことだ。


出入りの商人や、公共事業の請負業者の幹部、元侍女下女、警備が含まれている。

さらに、その家族まで含まれている。


いきなり元主人の敵を主人と認識するのは難しいようだ。

その忠誠心はありがたいが、今のリタ(マルグリット)は、貴族ではない。


こうなると、ガティネ家がリタ(マルグリット)を暗殺しようとした理由もよくわかる。

本人の意思と関係なく、生きているだけで自動的に対抗勢力となってしまうのだ。


リタ(マルグリット)の母、サンドラ(アレクサンドラ)は、周辺の貴族との関係は良くなく、領民に慕われていた。

そんな町が近隣にあると、周囲の町は運営がしにくくなる。

サンドラはやりすぎた。だから消された。


リタ(マルグリット)は、命よりも貴族の地位を優先するほどの覚悟はない。

だから早々に自分から勝負を降りた。


母と兄の敵討ちを捨てて、早々に和解の道を選んだ。

恨みが無いわけではない。当然だ。一方的に肉親の命と平和な暮らしを奪われたのだ。

それでも、和解を選んだ。


その決意を無駄にするようなことはしたくない。


リタ(マルグリット)は、貴族という生き方との決別を選んだ。


リタ(マルグリット)が望むのは、平民としての平和な生活だった。


だが、そんな生き方は簡単には手に入らない。


外周の柵を作りに行っていた人たちが何人か戻ってくるなり言う。

「カステリヌから開拓地に向かう馬車が襲われたようだ。

 なんでも、貴族の馬車で」


カステリヌから開拓地に向かう貴族の馬車が襲われた。

すぐにピンときた。


「貴族の馬車ですか?」


「あ、マルグリットお嬢様。いらしていたのですか」


リタ(マルグリット)が居ることに気付かず話したようだ。


「どこの家かはわかりませんが、貴族の馬車とわかるものだったようです」


「被害はわかりますか?」


「よくはわかりませんが、怪我人は出たようです。

 馬車はカステルヌの町はずれまで戻って、そこに滞在しているとか」


「襲ったのは獣ではなく人間ですよね?」

「正体はわかりませんが、ガティネ家の手の者だと噂されています」


貴族の馬車がこの開拓地を目指して来たら、途中で襲われた。

となると、リタ(マルグリット)には思い当たるものがある。


馬車が走るような道は整備されていないのに、おそらく途中まで馬車で来たのだろう。

そして襲われた。

だとすれば、おそらくリタ(マルグリット)を探しに来た可能性が高い。


リタ(マルグリット)を探しに来て、襲われる可能性のある勢力の馬車。


だとすれば、リタ(マルグリット)は話をしなければならない。

リタ(マルグリット)は貴族に復帰する気は無いということを。


貴族令嬢のマルグリット・ラスカリスは死んだ。

今ここにいるのは、ただの平民のマルグリット。


迎えに来てくれたのだとしたら、その気持ちはありがたいと思うが、リタ(マルグリット)は貴族に復帰する気は無い。

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