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5-13.公衆浴場(基本、そういうものは無いです)

絵は昔書いたものの再利用です

挿絵(By みてみん)


この物語の舞台になっている地方では、庶民が利用できるような公衆浴場は通常ありません。

相変わらず風呂には、リタ(マルグリット)と魔女様とカリーヌの3人で一緒に入ることが多かった。

結局その場合も、カリーヌはリタ(マルグリット)の入浴を手伝ってくれる。


リタ(マルグリット)は、自分でできることは自分でやろうと思ってはいたが、

一緒に入っていると、断るのが難しい。


それに、なるべく頼らないようにしたいと思いつつも、現実問題として、リタ(マルグリット)は髪を一人で流すのに非常に苦労していた。

おそらく髪が長すぎることが問題なのだが、カリーヌが髪に拘るので切れずにいた。


それに、リタ(マルグリット)も、魔女様を洗って差し上げる都合、一緒に入らないと面倒だった。


最初は、魔女様が”自分1人だけ洗われるのは嫌だ”と言うので一緒に入るようにしたのだが、

結局これが楽だった。


まあ、リタ(マルグリット)が1人で入ったところで湯の加減はカリーヌがやっているので、一番働いているのはカリーヌであることは確実なのだが。


リタ(マルグリット)は、もう貴族ではない。

カリーヌが望むから今でも主従みたいになっているが、リタ(マルグリット)は、今後もカリーヌに十分なお給金を払い続けることができるとは限らないし、リタ(マルグリット)自身が、もう貴族では無いから、平民だと思っている。

※こんな平民いませんが


相変わらず、カリーヌは全身洗おうとしてくる。

毎日のように、ここで争いが起きる。

「背中だけで大丈夫ですから。自分でできることは自分でやりますから」

「お嬢様、わたしにおまかせください。お嬢様の体は隅々まで磨いて差し上げますから」


これが、問題なのだ。以前、リタ(マルグリット)の母が生きていたころなら問題無かった。

貴族の入浴に傍仕えが付くのは当然であり、当時のリタ(マルグリット)にとっては、それが普通だったから。


カリーヌが来てからは、入浴は必ずカリーヌが世話してくれていた。

本当に、毎回確実に体の隅々まで丁寧に流してくれるので、

すごく責任感の強い従者なのだと思っていた。


まあ、当時から、ちょっと困ることはあったのだが。


リタ(マルグリット)は屋敷を抜け出して遊びまわることがあり、その分厳重なチェックも兼ねているのだろうと思っていた。


リタ(マルグリット)は、外で男性と密会するような機会は無かったが、年頃の令嬢が出歩けば疑われることもがあっても仕方がない。


入浴時に調べられると、ちょっとした怪我でもすぐにバレる。

特に記憶に無いようなことでも、あとで青痣ができたりする。

外遊びで付いたものでなければ、誰かしら使用人の心当たりがあることが多い。


外遊びで付いたものは、謎の青あざとなって数日後に出てくる。

リタ(マルグリット)の場合は、カリーヌがその青痣の存在を確認するけれど、

大きな問題が無ければ、特に報告されることは無い。


おそらく、カリーヌが入念にチェックすることと引き換えに、リタ(マルグリット)は比較的頻繁に、町に遊びに行けるのだと考えていた。


そのくらい厳しく僅かな怪我も見逃さない入念なチェックが入るのだ。


貴族の間で噂になっていたりはしないと思うが、リタ(マルグリット)の趣味は、町で食べ歩いたり、小物を買ったりする程度。

貴族が町民の遊びをするのは品は良くないが、そこまで悪質なものではない……とリタ(マルグリット)は思っていたが、それでも、体のどこかに傷が付いていたり、貞操のチェックでもされているのかと思っていた。


ところが、魔女様の森に住むようになってから、カリーヌの、あの入念なチェックのような行動の理由が発覚したのだ。

あれは実はカリーヌの嗜好だったのだ。


嗜好、つまりカリーヌの個人の趣味であって貴族の義務ではないので、貴族でなくなったことを根拠にやめるのも難しかった。


なので、リタ(マルグリット)は譲歩して、”背中や、自分の手が届きにくい場所”だけを洗ってもらうことにしたのだが、カリーヌは全身洗う気満々なのだ。


「わしが洗ってやろう」

ときどき魔女様が乱入して邪魔してくれるようになった。

※魔女様はかなり雑です


でも、髪の手入れはカリーヌに頼り切り。

どうも、一人ではうまく洗えない。

「髪が長いと手入れが大変ですから、私ももう少し短く切りたいです」


貴族令嬢は髪を伸ばす。

リタ(マルグリット)の年齢の貴族令嬢が髪を短く切るというのは、かなり異例だ。


リタ(マルグリット)は、魔女様のところに来てから思い知ったが、これを維持するのは相当手間がかかる。

召使無しに維持するのは相当難しい。


「こんなに美しい髪を切ってしまうなんてもったいないです」


町民にも、伸ばしている人はたくさんいるが、これだけ手間をかけて髪を維持しているとは考えにくい。

だからこそ、貴族であることが明確に分かるように手間のかかる髪を維持している。


だが、今のリタ(マルグリット)は貴族ではない。


「私はもう、貴族令嬢ではないのですから」


「お嬢様。ドレスが着られるように、こうしてお手入れを続けています」


「私はもう貴族令嬢じゃないから、ドレスなんて着る機会はありませんよ」


「私は着て欲しいのです」


カリーヌは、髪の手入れをしているとき、リタにドレスを着て欲しいとたびたび言っている。

まだ貴族復帰を望んでいるのだ。

カステリヌの領民も待っていると言うが、リタ(マルグリット)がカステリヌの領主になることは無い。

その約束で、手切れ金を貰っている。


それに、約束以前に、リタ(マルグリット)は領主になる気は無い。

開拓地がリタ(マルグリット)の予想を超えて大きくなってはいるが、

強力な後ろ盾無しに生き残るのは難しい。

そして、強力な後ろ盾を得るのも難しい。

リタ(マルグリット)の家が治めていた町も、横取りされてしまったわけで、

既に持っているものを維持するのも難しいのに、新たに手に入れるなんて、その比ではない。


それに、リタ自身は、貴族の生活はあまり好きではない。

カリーヌには悪いが、ドレスを着ることはできても、披露する場も無い。

ドレスがあっても家の中でひっそり着るくらいで、人前に出ることは無い。


リタ(マルグリット)は、町民の暮らしが好きで、よく町を遊び歩いていた。

その経験は、とても役立った。貴族に戻る予定は無い。


……………………

……………………


リタ(マルグリット)は、洗髪剤の泡を見て言う。


「泡の出る洗髪剤は町であまり売られていませんが、町の皆さんは好まないのですかね?」


「はい。濯ぎが難しいものは、あまり好まれません」


カリーヌの言葉に、ちょっと引っかかる。

リタ(マルグリット)も、濯ぎが難しくて、一人で洗うのに困っているのだ。


「以前から疑問に思っていました。

 一杯の湯で洗髪できるのは、泡の少ない洗髪剤を使っているからですか?

 町の人たちは、このたらい1杯で洗髪できるのに、私にはできませんでした」


「お嬢様の洗髪剤では、泡が残ってしまいます」


この言葉で理解できた。


「洗髪剤が違うのですか……」


なんで泡の出る洗髪剤がなかなか手に入らなかったか理解する。

すすぐ方法が無いから、すすぐ手間のかからない洗髪剤が多いのだ。


カリーヌは理由を知っていた。

教えてくれれば良いのにと思う。

※カリーヌさんは、貴族風にしてほしいのです。


「この泡の多いやつは、不便じゃ。カリーヌはわしには、こっちの洗髪剤を使えと言うておる。

 そっちの洗髪剤であれば一人で洗えるゆえ」


カリーヌは魔女様にはこの洗い方を教えていた。


リタ(マルグリット)は、少しイラっとした。

でも、泡の出ない洗髪剤は、リタ(マルグリット)も使ったことはあったが、

洗髪剤では無いように思えたのだ。


「泡切れの悪い洗髪剤を使うからだったのですね。

 でも泡切れの良い洗髪剤は、あまりすっきりしませんね」


泡の出ない洗髪剤は、乾いた後のサラサラ感に欠ける。

魔女様の森に来てしばらくは、泡の出る洗髪剤が手に入らず、泡の少ないものを使っていた。

洗った前後で、あまりさっぱり感がかわらない、どうも髪を洗った感が少ないものだった。


「はい。なので、髪を見るだけで貴族かどうかがわかってしまいます」


リタ(マルグリット)は気付かなかったが、見ればその差がわかるのだ。


「どうして町の人と同じ服を着ているのに、元貴族だとバレるのかと

 不思議に思っていましたが、そういうことだったのですね。

 私も町の方と同じものにします」


「お嬢様の髪は私が責任をもって管理いたしますので」


リタ(マルグリット)は、平民なのだ。変に目立ちたくない。


「私は町の方と同じで良いです」


「いえいえとんでもありません」


「カリーヌ。私は町の者と同じで良いと言っているのです」


「私は町の者と一緒ではダメだと申しております」


カリーヌはリタ(マルグリット)が主人だというのに、その割に、リタ(マルグリット)の言うことを聞かない。


「何度もすすぐのは面倒じゃ。わしは泡の出ないものの方が良いのう」


魔女様はそう言うが、魔女様は髪が硬くてブラシが通らなくなってしまうので、

泡の出る洗髪剤でないと、手入れが難しくなる。


「魔女様の髪質だと、ブラシが通りにくいので泡の出る洗髪剤にしましょう」


「ブラシは通らずとも良い」


魔女様はそう言うが、長年録に手入れされないまま放置された魔女様の髪を今の状態にするのには、莫大な手間がかかった。せっかくかわいらしい状態が保てているのに、ブラシが通らなくなれば、またあの状態に戻っていく。


「また、毛が絡まって大変なことになりますよ」


「もっと短く切った方が良いかのう?」


「ダメです。こんなにかわいらしいのにもったいない。

 もうちょっと伸ばした方が、もっとかわいいですよ」


「およ」

(およ?)


「お嬢様?」

「なんですか、カリーヌ」


カリーヌは言う。

「こんなにかわいらしいのに、もったいない」


「わかりました……」


魔女様の髪を伸ばしたいなら、ここでリタ(マルグリット)が折れないと筋が通らない。


リタ(マルグリット)は、自分の髪が長いと面倒なのでもう少し短くしたい。

魔女様も面倒だから短くしたい。でも、せっかくかわいらしいのにもったいない。

魔女様は、髪が絡まって大変なことになっていたので、それを解消するために、だいぶ髪が短くなってしまった。

元々髪の量が猛烈に多いのに、髪が絡むのを解くために切ってしまったから、長い部分は髪が少なく、新しく伸びた部分は髪が多いというちょっとバランスが悪い状態なので、伸ばしながら整えていけば、今よりもっとかわいくなる。


魔女様がそれを望んでいるのではなく、リタ(マルグリット)が望んでいる。

リタ(マルグリット)は自分の髪は、短くても良いと思っているが、カリーヌはこの髪を維持したい。


気持ちはわかる。

実際にリタ(マルグリット)の髪の手入れをしているのはカリーヌだ。

魔女様に髪を伸ばしてもらいたいのであれば、リタ(マルグリット)も髪を伸ばすべきだろう。


そこは妥協する。


髪以外にも気になっていることがあった。


「町の方々は、背中はどのようにきれいにしているのでしょう?」

「自分で拭いております」


リタ(マルグリット)も試してみたが、拭くまではできる。

ただ、大量の湯で流さないと、泡を洗い流せなかった。


「私は石鹸を使うとうまく拭けず、石鹸が残ってしまうようなのです」


そう話すと、ちょっと衝撃的な答えが返ってきた。


「石鹸を使わないのです」


髪と同じだ。泡が残るから使えないのだ。


「石鹸を使わないときれいになった気がしないのですよね」

※洗うのに慣れていないというのもあります


「はい。なので、仕方がないと諦めてください。

 私が洗って差し上げますから」


泡の出る洗髪剤も、石鹸も使えない。

貴族令嬢は髪を伸ばし、手入れが行き届いた状態を維持しなければならないという不便があるが、

平民は平民で、泡の出る洗髪剤や、石鹸を使って体を洗うのは難しい。


「貴族の暮らしは面倒だと思いますが、町の方々も不便なさっているのですね」

※こういうのが平民から見ると、怒りのスイッチになったりするのですが、

 本人は言葉通り、”どちらも面倒なのですね”くらいの話をしています。


リタ(マルグリット)は、貴族的な暮らしをやめたいと思っていることは伝えておく。

「ですが、わざわざ体を洗うために使用人が付くなど、今の私には合いません」


カリーヌは、お嬢様には貴族らしくしてほしいと思うと共に、

今の夢のような環境を手放したくない。

「私も背中を洗っていただいておりますから、一方的なものではありません。

 使用人の背中を洗う貴族令嬢なんてどこに居るでしょう」


「はい。確かに使用人の背中を洗うのは貴族としては褒められるような行動ではありません」


「ですから、今のお嬢様の行動は貴族らしくありません」


「はい。私は貴族ではありませんから」


「そうですね」


「それに、貴族令嬢が、使用人と一緒に裸で入ることもありません」


「はい。そのように思います……やはり、変ですよね。

 魔女様の都合、魔女様を洗って差し上げるときは仕方ありませんが、

 2人のときは辞めた方が良さそうですね」


カリーヌはこれを聞いて、血の気が引いた。

命と引き換えに得たこの役得を手放したくない。


----


リタは、その瞬間、空気が動いたように感じた。


カリーヌが真剣な眼差しで語り始める。

「お嬢様。平民はこうして2人以上で入浴することもあると聞きます」


「え? そ、そうなのですか?」

「はい」

カリーヌは即答した。

リタは、自分の知っている話をする。


「私は平民の方は一人で体を清めると聞きました。

 それに、そんなに大きな浴槽があるのはおかしいように思いますが」


リタが知る限り、風呂の準備は相当な重労働だ。

リタの屋敷にも一人用の浴槽しか無かったのに、庶民がそれより大きなものを持っているとは思えない。


「はい。でも、たくさんの人が同時に利用する公衆浴場というものも存在するのですよ」


「公衆浴場ですか?」


個人で所有できなくても、そういう施設があるなら納得だ。

ただ、リタはそんなものがあるとは聞いたことが無かった。


平民の為の施設であれば、リタが知らなくても仕方がないのかもしれないとも思う。


「そんなものがあるのですか」


「はい。あるのです!」

※基本無いです。


「そうですか。であれば2人以上で入るのは問題無いのかもしれませんね」

※騙されてますよ!


※確かに設定上、公衆浴場が存在する町もあります。

 でも、そんなのは水が豊富で、排水問題も無く(適度な勾配と近くに川がある)、

 それなりの人口がある場所だけです。

 少なくともカステリヌにはありませんし、カリーヌさんも、

 存在を知っているだけで見たこともありません。

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