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5-12.開拓団(11) 予算が足りない

絵は昔書いたものの再利用です

挿絵(By みてみん)


魔女様の財宝の秘密がわかります。

なんだか、いつか拾いに行くことになりそうな雰囲気バリバリな感じになっていますね。

開拓地はリタ(マルグリット)の想像を遥かに超えて人が集まってしまい、リタ(マルグリット)は頭を抱えていた。


資金が全く手元に無いかと言うと、そうでもない。


ラスカリス家所有の財産は屋敷をはじめとして、そのほとんどが、無傷でガティネ家の手に渡った。

それらの財産を丸々有償で平和的に譲渡したことにして、リタ(マルグリット)は、それなりの金額を受け取った。


本当に正当な価格かはリタには判断できないが、桁は間違っていないので、それなりの金額を受け取ることができたと考えてよいと思っている。


その相手に”どう考えても当主を暗殺された”という状態であったとしても、財産は平和的な方法で譲渡されなければならない。

その金額で譲渡されたという証拠があれば、強奪したとは思われない。

そのくらいの金額には設定されているということになる。


リタを殺してしまえば、相続権の在処は一気に不明確なものになる。

同じ金額で譲渡契約を結ぶにしても、相続権を持った相手を身内に嫁がせて、持参金扱いで実質的な出費を抑えることはできただろうが、リタの殺害に失敗したので仕方がない。

こうなれば、せめて、今後の手出しをさせないための布石としたほうが都合が良い。

手切れ金という意味もあるのだろう。


再び、リタがこの町を奪還しようとしても、ガティネ家から財産を買い戻す金に加えて、当分の間領地を運営する資金が必要になる。

普通に考えて、今のリタにはまず実現できない。

だから、適切な金額で手を打った。



というわけで、リタはそれなりの金は持っているが、これを移民団のために丸々使う気は無い。

使うとしても、あとで、ある程度回収できないと困る。


リタは領地経営はある程度習っているが、既に存在する町を運営するものであって、開拓などは全く知らない。資金繰りで困っていた。

なんで、こんな少ない住人数で、ここまで金がかかるのか。


リタ(マルグリット)の金が尽きても、おそらくは魔女様の宝を売れば当面は過ごせるが、あくまでも魔女様の物であって、リタが自分の目的のために使うのは良くない。


そんなことを考えているときに、魔女様の財宝の話を聞けた。

元は財宝の話をしたわけでは無かったのだが。


……………………

……………………


魔女様は海に落ちたことがあるのですか?


「何度もあるぞ」

「なぜ何度も?」

リタ(マルグリット)も同じ疑問を持ったが、敢えて口に出さなかったのにカリーヌが口にした。


「網が岩に引っかかることがあるのじゃ。

 それを回収するために何度も潜った」


落ちたというので、落ちる気が無いのに落ちた話だと思ったが、そうでも無いようだった。


「ああ、そういうことでしたら(納得です)」


「水の中で泡の魔法を使えば水面まで上がれるのじゃ。

 船が見えたら、そこまで飛ぶ魔法を使えば良い」


泡の魔法はもちろん、船まで飛ぶ魔法も、印がわからないのでリタには使えないと思う。


「海の中を見る魔法と、泡の魔法で宝を取ったのですね」


「うむ。そうじゃ。

 網が引っかかって取れなくなった故、海の底まで取りに行ったのじゃ。

 海に落ちた故、そのまま紐を伝って底まで行った。

 そこで泡の魔法を使ったら、浮く力が強すぎて網が壊れてしまったのじゃ。

 わしはあのとき絶望した。ただ、何かが落ちてたから拾って帰ったのじゃ。


 小さいのにすごく重いものじゃった。

 磨いたら光っておったから何かと交換してもらえると思って持って行くと、

 新しい網と交換してもらった。

 たしかきんじゃったと思う。そのときのわしはきんは知らなかった」


きんを知らない?」

「後で知ったのじゃ。重くて磨くと光るものだと思っておった」


「また網が壊れたら交換してもらえると思って、拾ってきたが、

 あの石も一緒に入っておったから拾っておいたのじゃが、

 そのあと魚が居らんようになって、網をくれた漁師もどこかに行ってしまった」


魔女様は、全く人と関わらなかったというわけでは無かったようだ。


「あの石はサンドラも服と交換してくれた。

 そんなに価値のあるものなら、また取りに行きたいのう」


魔法で海底を歩き回ったという話でもないので、おそらく魔女様以外でも、潜って財宝を回収できる人は存在すると思う。

それに、1回見つけたからと言って、2度目に見つかるとは考えづらい。


「そんなに簡単に見つからないと思いますけど」


「わしが拾ったのはたぶん半分くらいじゃ。

 あの場所に行けば、まだまだ落ちておる」


まだ半分残っている。

それなら話は別だ。行けばあるかもしれない。


「本当ですか?」

「うむ。わしはそんなに価値があるとは知らんかったからの」

「もしかして海の近くまで転移できるとか」


「無理じゃ。転移できるのは歩いて5日か10日か、そのくらいの距離じゃ」


「転移には距離の制限があるのですね」


「そんなの当たり前じゃ」


転移の魔法には距離が関係ある。

ここからリタ(マルグリット)の町までは半日もあれば行ける。

そんなに遠くまで転移したことは無い。


「ああ、すみません。私は魔法には詳しくありませんので」


「その海の宝、一緒に取りに行って半分いただくことはできないでしょうか」


「何故半分なのじゃ?」


「え? 魔女様と私で半分と思ったのですが。

 不満でしたら1/5でもかまいません」


「取りに行かずとも、欲しいならこれをやろう」


「いえ、そうしたら、魔女様の財産が減ってしまいますから」


「財産が減る?」


「海で拾ってきて半分で分ければ、魔女様の財産も私の財産も増えます」


「取りに行かずとも、これをやろう」


そうすると、いつか財宝は尽きてしまう。


「話聞いてました?」


「財産が欲しいのであろう。わしは服と菓子と食事が手に入れば十分じゃ」


「そのうち無くなりますから」


「一生分あるのじゃろ?」


確かに一生分あると言ってしまった。

だが、個人にとっての一生分は、町の予算と比べると桁が違う。

行き先が決まるまで一時的に10人くらい滞在する程度の規模がリタ(マルグリット)の想定した規模で、それほど大きくする気は無かったのに、現在既に30人程度滞在している。


「まあ、大金なのは間違いないですが、難民受け入れのために最初はお金がかかります。

 しばらくしたら自力で何とかしてもらうにしても、最初しばらくの間はお金が必要なのです」


「うむ。では、しばらくはわしの石を売って金を得る。

 減ってきたら拾いに行こう」


リタ(マルグリット)は、回収できた財宝の一部を分けてもらい、それを財源に充てようと思っていたのだが、魔女様には通じなかった。



「お嬢様、村の運営は貴族の務めです。このまま産業を育て村を盤石なものにしましょう」


リタ(マルグリット)は、財政を何とかしたいとは思っているが、自分の領地を持とうとしているわけではない。

とはいえ、財産を投入するのも避けたいので、できれば、避難所の人たちには自活してほしい。

実際に産業もできはじめている。


「お嬢様が難民一時避難場所と言っているあの土地には既に人が住み着き経済活動を行っています」

「ええ。稼いでもらわないと、食料が自給できないのです」


「もう既に村。人口は私の実家よりも少ないですが、経済的には恐らく同じくらい。

 なので、お嬢様は実質村貴族です」


いつも通りだがカリーヌは、リタ(マルグリット)には貴族でいてほしい。

いくらなんでも、現状は村ではないが、今の倍になったら小さな村になってしまう。

元貴族のリタ(マルグリット)が関われば、リタ(マルグリット)の領地ができると考える人が居ても不思議はないが、リタ(マルグリット)本人が望んでいないのだ。


「私はそういうの向いてないから」


「向いてないのに人は集まりません」


「火炎輪のおかげですね」

「その火炎輪を使える人間が滅多に居ないのです」


「そうね。でも私はそういうのは」

「村の人たちも領主様には立派で居て欲しいのです」


カリーヌはどうにも理解してくれない。


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