5-9.開拓団(8) 私は魔女なのでしょうか?(1)
リタ(マルグリット)は、木の板に印を書き写すことで、印の無い場所でも魔法を使えるようになったが、ひょんなことから、印を書き写さずに使える方法を発見してしまった。
印を書き写した木の板が無くても、手のひらから火が出たのだ。
印は、魔法ごとに異なるが、リタ(マルグリット)が使えたのは火炎輪の印だった。
ただし、出た火は、だいぶ小さなものだった。
リタ(マルグリット)は、印の大きさの火が出る魔法だと思っていたので、手から出る火が小さくても違和感はないが、その割には、手のひらよりは大きな炎が出るように見える。
そこで疑問が生まれる。
”印の大きさと同じ大きさの炎が出るわけではないのではないか?”
はじめは、大きく書き写した印より、だいぶ小さなものしか再現できなかったが、練習して木の板に印を書くのと同程度の火力を出せるようになった。
直径は50cmまでは大きくならなかったが、勢いがあるのでたぶん火力は同じくらいだと思った。
同じ印で、火の強さの異なる炎を出せる。
手のひらに付いている火傷跡だと思っていたものは、たぶん火炎輪の印なのだと思う。
ただし、火傷跡は外周の円だけで中身が無い。
「どうして、これで火炎輪が出るのかしら?」
試しにただの円を書いた板を使ってみるが何も起きない。
リタの手のひらには円の跡しか残っていないと思う。
木に書いた印の形で火傷したから、その印の魔法が出るのだと思っていたが、
よく考えたら、そもそも、木の板に書いた火炎輪の外周の円はリタの手のひらよりずっと大きなものだった。
なぜ手のひらサイズの円があるのか。
ただ、これで火が出るのは確かなのだ。
「どうして円だけ……これはいったい何なのかしら?」
そう呟きつつ思う。
木の板も使わずに魔法が使える自分は何者なのだろう?
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リタ(マルグリット)は、火炎輪を観察していて気付いたことがあった。
火が出る瞬間には、たぶん火炎輪の印がある。
火が出ていないときには外周の円だけがある。
だとしたら、この円の中に、別の印を描くこともできるのではないだろうか?
転移の印はどうだろうか?
町行きの印を見てそれを手のひらの円の中で再現したら?
試した瞬間、転移した。
町だ。いつも転移で使う場所に来た。
ここには森に帰るための印がある。
何度もここで使っているからだと思う。
魔女様も、同じ場所を行き来する方が楽だと言っていた。
何度も使うと印が残る。
地面に残った印を使えばリタは森に戻ることができるが、
この印を手のひらに再現したら戻れるかもしれない。
おそらく戻れるのだ。
来るときに使った印とほぼ同じ模様だ。
変わるのは、ほんの少しの部分だけ。
たぶん、行き先が変わるだけで同じ魔法なのだ。
試してみると、あっさり戻れた。
……が疲れた。
木を焦がして回ったときも、そんな感覚はあったが、魔法は使うと疲れる。
へろへろになってリタ(マルグリット)はベッドに倒れ込む。
夕食も結局食べなかった。
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……………………
ずいぶん遅い時間になってから、魔女様に話しかけられる。
「おぬし、何も食べんで良いのか?」
「ああ、魔女様。なんだかとても疲れてしまったのです。
……魔法を使いすぎると疲れるのですね」
「何を言うておる。当たり前ではないか」
「ああ、当たり前なのですね。……先に教えていただきたかったです」
何度も火炎輪を大きく出す練習をした後に、転移で町と往復した。
疲れることを知っていれば、別の日に試したのに……と思う。
魔法に関しては、まだまだいろいろ知らなければならないことがあるようだ。
そして、同時に、このまま使い続けてよいものだろうかとも考える。
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翌朝、カリーヌに声を掛けられる。
「お嬢様、調子はどうですか?」
「だいぶ良くなりました。心配をかけてしまってごめんなさい」
「そのようなこと、お気になさる必要はありません。
それより、お嬢様、悩みがあるのでしたら何でもお話しください」
まあ、カリーヌにはバレるだろう。
魔法の使い過ぎで寝込んだのは事実だが、気分がすぐれない理由には悩み事もある。
カリーヌは既に気付いている。
「カリーヌに隠し事はできませんね」
「どのようなことでも(お話しください)」
リタ(マルグリット)は、寝込んでいる間に重大なことに気付いた。
実際には、もっと前から気付いてはいたが、あまり真剣に考えないようにしていただけなのだが。
印の無いところでも、魔法が使えるようになってしまった。
何も使わずに手のひらから炎を出す姿を見たら、魔女に見えるだろう。
「私、魔法が使えるみたいで……」
「はい。存じております」
「印が無くても使えるみたいで……」
「はい。存じております」
「私、もしかしたら魔女なのかもしれないと思うのですが、
カリーヌはどう思いますか?」
「魔法が使える女性を魔女と呼ぶのであれば、
お嬢様は魔女に該当するように思います」
たぶん、普通の人から見たら、リタ(マルグリット)は魔女なのだ。
「やっぱりそうよね」
「それが悩み事ですか?」
魔法が使えるせいで悩みが発生したのは事実だが、それ自体が悩みではない。
カリーヌはそれを理解しているから、こんな聞き方をしたのだが。
「いえ。私は魔法が使える者は滅多に居ないと思っていました」
「はい」
「ですが、身近なところに私と魔女様の2人います」
「はい」
「だとしたら、本当はもっと多くの人が魔法を使えるようになる可能性があると思うのです」
リタ(マルグリット)がそう言うと、ちょっと思っていたのと違う答えが返ってきた。
「はい。もし、多くの人が使えるようになるのであれば、私にも使えるとありがたいです」
「魔法をですか?」
「はい。せめて釜の火炎輪が使えると便利ですよね」
以前のリタ(マルグリット)の状態だ。
魔法だと思わずに自然に使っていた。
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一方でカリーヌは、これでリタ(マルグリット)が何を心配しているのかが絞れた。
「便利では済まないような魔法を使える者が増えることを心配しているのですか?」
「ええ。大聖女マリアンヌ様は、”大聖女にはなるな”と言い残しています」
「はい」
「おそらくですが、私は、大聖女様は、自身で大聖女であると宣言したわけではなく、
誰かに大聖女にされてしまったのだと思っています」
「はい。私もそう思います」
「マリアンヌ様は大聖女が生まれてしまうことを恐れていたのに、
もしかしたら、私が大聖女にされてしまう可能性もありそうだと思うの」
「はい」
「私は悪気はなかったのですが、良くないことをしてしまったのではないかと思っているのです」
「そこまで考えがあるのであれば、もう魔法を使うのはやめた方がよろしいかと思います」
「外の釜もですか?」
「はい。魔女様にお願いするようにします」
「そうですか……」
歯切れが悪い。
「お嬢様?」
「すでに印がある場所では、私は印を使ってしまっています。
それに関しては、使ってしまってもかまわないと思っています」
「はい」
「まだよくわかっていないことがあるので、それを調べ終わったら、
印の無い場所で魔法を使うのはやめようと思います」
「はい。承知いたしました」
リタ(マルグリット)が何を考えているかは、カリーヌにはなんとなくわかる。
魔女様を大聖女にさせないようにしようと思っているのに、自分自身も、
それに近付いてしまう。
大聖女を生み出さないためには、魔法が使えるようになるきっかけを調べる必要がある。
なぜリタ(マルグリット)には魔法が使えるのか、どうやったら使える魔法が増えるのか。
カリーヌは当事者ではないので、自身が大聖女にさせられる心配はしていないが、
お嬢様が大聖女様にさせられることは、なんとしても避けたかった。
カリーヌの手が届かないところに行ってしまうかもしれないから。
それは絶対に避けたい。




