5-7.開拓団(6) 火炎輪の印
そもそも印は魔女様とリタにしか見えない。
※木の板等に書き写した物は見えます。
探せば他にも居るかもしれないが、普通に考えたら、この印が見える人は印を書物に残すと思う。
リタは当然、この印についての書物が存在するのではないかと考えた。
だが、印が書かれた書物は無いかもしれないと思うようになった。
存在するという話を全く聞いたことが無い時点でおかしい。
魔女様は、正確に印を覚えていない。
にもかかわらず、印を作ることができる。
魔女様が何度も同じ場所で同じ魔法を使うと印が残る。
印の形は意識していない。
印で魔法を使っている自覚は無いように見える。
歴代大聖女の中で、本当に大聖女と呼べる能力を持っていたのは初代のマリアンヌ様だけだと言われている。
それを考えると、おそらく、大聖女と呼ばれるほどではないが魔法を使える人物が少しは存在するが考えるのが妥当だ。
印を使って魔法を使えるのであれば、使える人物を探し出すのは簡単だ。
印を書いた本を売れば、使える人がときどき居るはずだ。
魔法を使える人間を探すのが難しい理由があるのだ。
魔女様は文字で書かれた呪文書だったと証言している。
大聖女マリアンヌ様の日記でも魔法を使うには文字が読めなければならないと思っていたように読めた。
字の読めない魔女様は、呪文は書物ではなく、お婆様からの発音による直伝。
ただし、魔女様は呪文で魔法は使えなかったが別の方法で魔法を使えるようになった。
リタには印を使っているように見えるが、魔女様には印を使っているという認識は無い。
ただし、印は魔女様にも見えている。
魔女様は印を知らずとも、継続的に使うと印が残る。
マリアンヌ様が印で教えていないのは、マリアンヌ様は印を使っていないから。
マリアンヌ様は呪文で魔法を扱っていた。
町の大火炎輪も、リタ以外の人には見えていなかった可能性が高そうだ。
母には見えていたのだろうか?
魔法とはいったい何なのだろうか?
この頃から、リタは魔法の本が存在するのではないかと考えて、本を探し始める。
大聖女様と呼ばれた方々が呪文で魔法を使っていたなら、呪文について書かれた本が存在するはずだと思ったのだ。
もしかしたら、印について触れられた書物も存在するかもしれない。
……………………
そして、もう1つの疑問。魔女の定義は何か?
魔女様に聞いてみる。
「私、火炎輪が使えますし、転移も使えました。
私は魔女なのでしょうか?」
「おぬしは、印があれば、どの魔法でも使えるのか」
「わかりませんが、窯の火炎輪には印があります」
「はて? 印?」
「あれは魔女様が作ったのではないのですか?」
「作ったのはわしじゃが印など知らぬ」
「転移の印は?」
「わしは印など知らぬ」
「印がありますよね?」
「印があるのは知っておる。勝手にできた」
「魔女様が剣を振ったときに出る風は私には出せませんでした。
襲われても転移の印がある場所まで逃げ切ることができれば良いのですが」
「婆様なら何か知っておったかもしれぬがもう居らぬ」
マリアンヌ様は印について知っていた可能性がある?
マリアンヌ様自身が印を使わなくても、周囲に印が見えるものは居たのかもしれない。
魔女様にも見えているはずだし……
そこまで考えて繋がった。
文字が読めないから、マリアンヌ様は、魔女様にはマリアンヌ様の魔法は使えないと思った。
ところが、魔女様は文字を読めなくても使えるようになった。
マリアンヌ様が呪文で魔法を使っても、魔女様には印が見えたから再現できたのではないだろうか?
そして、更にすごい発見があった。
印を書き写したものを使用しても、魔法を再現できるのだ。
「印を書き写したものでも火炎輪が使えました。
町にある転移の印を書き写せば、
どこからでも、ここに戻ることができそうです」
魔女様が魔法を使うと印が残る。
対象が地面であれば、そこに印が残る。
だが、多くの魔法は対象が地面ではなく、同じ場所に何度もかけないので印は見えない。
リタが使えるのは印がわかるものだけ。
「そうであれば、おぬし一人でも安心して出かけることができるのう」
リタは自分が魔女なのか、何ができると魔女なのかを知りたかったのだが、
魔女様は全く興味が無かった。
興味無いのは知っていたが、もうちょっと相談に乗って欲しかった。
……………………
……………………
開拓を進める。大火炎輪の内側から危険動物を追い払い、
大火炎輪の輪に沿って、木を枯れさせていく。
「それでは、私が大火炎輪に沿って、木を焦がしていきます。
魔女様は獣を追い払ってください」
魔女様が獣を追い払うので、リタは火炎輪で火の輪ができる範囲の木を炙って焦がす。
リタは印があれば火炎輪が使える。
印を書き写した木の板からでも火を出すことができた。
これは印について調べていて気付いたことだった。
印は魔法を同じ場所で使うと勝手に残る。
だから、印自体が魔法によって作られるものだとリタは考えた。
ところが、同じ模様を木の板に書き写しても、印は、印として使えた。
リタは好きな場所に印を出すことはできないが、木の板に書き写した印使うことはできる。
恐らく転移も使えるだろう。
これなら横向きに炎を出すこともできる。
「そんな方法で火炎輪が使えるとは知らなんだった」
魔女様は印を知らなくても火炎輪を使えるのだからそう思うかもしれないが、リタは印が無いと使えないのだ。
「魔女様には必要ありませんしね」
火炎輪が使えれば獣は襲ってこない。
獣は炎を見ると必ず逃げる。
魔女様がそう言っていたが、リタもその効果はすぐに実感した。
火炎輪と治療が使える魔女様が一人で暮らせる理由がよくわかる。
獣が出ても、獣は火炎輪で追い払える。
少々怪我しても、火炎輪で追い払い、治療ができれば死ぬことは無い。
リタは治療はできないので、怪我しないように注意する。
火炎輪の印は不思議なことに自分の側に炎が出ることは無い。
横向きに出すくらいまではできるが、それ以上自分に向けると炎は出ない。
なので、自分がいきなり大火傷することは無いが、炎が出ない方向がある。
太い木の幹の外周を焦がす程度に炙ると、そのうち枯れる。
大火炎輪の帯の中にある木を全部枯れさせて、伐採しやすくしたい。
ところが、生木がそんなに簡単には焦げない。かなり気の遠くなるような作業だ。
「これは無理だわ」
早々に心が折れる。
極端に太い木だけに絞って作業するか。
これでは、避難所が不要になるまで大火炎輪沿いの木の撤去は終わらないように思えた。
それに、リタが一人で火炎輪を使っているのを見られるとまずい。
もしかしたら、印を使えば火炎輪を使える者が、リタ以外にも存在するかもしれない。
そし、そういう能力を持った人が居れば、それをヒントに大火炎輪も再現してしまうかもしれない。
大聖女様が再び現れるのを阻止しなければならない。
それを考えると、リタが木の板に書かれた印で火炎輪を使うのは凄く危険なことにも思える。
……が、この土地の開拓は魔女様には何の責任も無い。
リタにはたいしたことはできないので、魔女様にも手伝ってもらっているが、本来は魔女様には手伝う義理は無い。
まあ、これはリタの誤算から生まれた問題だ。
リタは大火炎輪を使えば、自動で草木の無い不毛の土地が勝手に現れると思っていたのだ。
火事になるから燃えるものは撤去する必要があるなどとは思わなかった。




