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5-5.開拓団(4) 井戸と転移の印

定住希望者が50人を超えるようならファブリスが運営すれば良い。

そうすれば、取り分も好きに設定できる。


リタは、”当面の問題と、将来的に明らかに問題となることがわかっているような大きな問題を残さなければ良い”。

そう考えていたが、ファブリスは自身が運営する気は無く、50人どころではない大きな町ができると考えていた。


リタとファブリスは取引条件では合意したが、その後の開拓地の運営方針に関しては全く一致していなかった。


……………………


開拓の話を進める。

次は水、井戸の問題だ。


ファブリスがある程度話を進めてくれている。

「井戸についてですが、この一帯であれば掘れば水は出ると思いますが、水質はわかりません。

 水質が良いと良いのですが」


「水質……ですか?」


リタは水質について特に何も気にしていなかった。

井戸を掘ればきれいな水が出ると思っていた。


「場所によって水質は変わります。

 近い場所の水質は基本同じですが、新たな開拓地であれば、

 近くに井戸は無いでしょうし、最終的には掘ってみるまでわかりません」


……………………


井戸は掘ってみないと、どんな水質かはわからない。


「井戸は掘れば、余程運が悪くない限り飲める水が出るものかと思っていましたが、

 水質が変わるのですね」


「農地で使うなら浅い方が良いですね。汲み上げるのが楽ですから」

そもそも、井戸から水を汲み上げなくてはならないような場所での農業は厳しい。

とはいえ、水の便が良い場所は水害で一気に大打撃を受ける。


「飲み水は深い方が良いということですか?」

「はい。私も詳しくはわかりませんが、井戸について詳しい者に話を聞いたところ、

 そのように申しておりました」


リタは井戸を掘れば必ず飲める水が出るのかと思っていた。

大火炎輪を使う制限もある。

魔女様の森と大火炎輪が重なるような場所には作れない。


そもそもリタは目で見て、井戸を掘るのに良い場所かどうかを判断できない。

なので、岩だらけだったり起伏が激しくない限り良しとしてしまうだろう。


「はい。それでは、用地の見当を付けてから、再度来ます」


帰ろうとすると、人が増えていた。

リタが来ているのを知って人が集まってきたのだ。


「マルグリットお嬢様、どうかよろしくおねがいします」


リタが用意しようと思っているのは一時的な避難所。

この人たちが望んでいるのは、きっとそれとは違うものだろう。

リタは、”ちょっと違うのだけど”と思いつつも口にはしない。


「はい。とりあえず、用地を決めてから、また来ます」


そう答えたが、既に現時点でリタの予定が狂っているかもしれないと思う。

リタの予定では、居場所が無い人に一時的な居留地を提供するだけで、新たな村を作るつもりは無い。


……………………


町の外でしばらく待っていると、魔女様がやってくる。

いつも通りではあるが、まあ機嫌は良さそうだ。


「今日は納得の買い物ができましたか?」

「みやげにするつもりの焼き菓子が買えんかった」

おそらくけっこう高価なものを買ったのだろう。

「何を買ったのですか?」


「見た目が良い菓子じゃ。味は見た目ほどでは無かった。

 どれが美味いかは、実際に食べてみないことにはわからぬものじゃのう」


なんとなくわかった。

見た目が派手なだけで、味的には変化が少ない菓子もある。


凝ったものは、むしろあまり美味しくなかったり。


リタはそういったものを食べる機会が多かったので、

庶民向けの安くて美味しい品を探しに町を訪れる機会が多かった。

リタの感覚では、あまり凝っていないものに美味しいものは多い。


「見た目に騙されてはなりません。安くて美味しいものを探してくださいね」

「うむ。金をうまく使うというのは難しいものであるのう」


……………………


町の外には転移のいんがある。

このいんはリタにはよく見えるがカリーヌには見えない。

魔女様にも見えはするが、魔女様はいんの有無を気にしていない。


リタには火炎輪のいんが使えるので、このいんも使えるのではないかと思っていた。


「魔女様、私がこのいんを使ってみてもよろしいでしょうか?」

「どういうことじゃ?」

いんがあれば、私にも使えるのではないかと思いまして」

「これを使うと転移ができるのか?」

「やってみないとわかりませんが、使えるとすれば森に転移するはずです」

森に戻るときに使っているいんなのだから、使えれば森に戻るはずだ。

「うむ。やってみるがよい」


実は、具体的な使い方はわからない。


「むむむーーーー!!!」

立ったまま、何かがミチミチと絞り出されるような勢いで頑張るが何も起きない。


「とりゃー!」


……………………

……………………


「ぬぬぬぬ!!」


かなり頑張ったが何も起きなかった。


「まあ、そんなに簡単に使えるようになるものではないじゃろう。

 そろそろ諦めてはどうかの」


リタにはどうも、”使えそうなのに使えない”という違和感があり、もう少し粘りたい。

「はい。でも、もう少しだけ」


リタがそう言うと魔女様は止めなかった。


「まあよい。もう少し付き合うか」


魔女様は、町の中では帰ろう帰ろうと煩いが、町の外では心に少し余裕があるようだ。


力ずくではダメそうなので、少し考える。

リタのイメージでは、釜の火炎輪は魔法を使うイメージではなく手で操作するような感じだった。

何かを捻り出すような使い方はしていない。

同じ要領で良いのではないだろうか?

いんはここにあるので手で操作すれば良いのではないかと思い至る。


いんに手をついて念じる。

「転移!」


その瞬間、空気が変わった。

森の中だ。


「転移。成功しましたね」


「おぬし、いきなり使えるのか。

 わしはこれを使えるようになるのに、ずいぶん練習が必要じゃった。

 才能? 才能で良いのじゃったか? 素質?

 元から備わっている力じゃ、それがおぬしには有るのかもしれぬのう」


「才能ですか。まあ、たぶん、私は特別なのだと思います。

 いんを使うことだけはできるという才能でしょうか。

 私はいんの設置はできませんが、いんが既にあれば使えるようです」


なんとなく使えそうだと思ったからやったことではあるが、あっさりできた。

いんに触れて使うことはできるようだ。

ただし、釜の火炎輪は直接、いんに触れていない。

あれはどういう仕組みなのだろうか?


……………………

……………………


次は用地の大火炎輪だ。

井戸の試し掘りより先に大火炎輪がどこにできるかを確認する。

正確な距離を測ることができれば、測って決めることができるのかもしれないが、

測る方法が無いので、実際に大火炎輪を使ってもらう。


「予定地を決めるために大火炎輪を使っていただきたいのですが」


「雨の時が良いじゃろうな」

「雨の時にやるものなのですね」

「火事になるからのう」


そう言うからには雨が降っていても大火炎輪から火が出るのだろう。


「魔女様は、大火炎輪の輪がどこにできるのかわかりますか?」


「輪がどこにできるかは、だいたいはわかるが、

 使ってみないと正確にはわからぬ」


「でも、試すにしても、雨が降るまで待たないといけないのですね」


雨の日を待って、魔女様の森から遠すぎず、近すぎずという距離を狙って大火炎輪を使ってもらう。


ここからは木が邪魔で見えないが火が出ているはずだ。

「これで様子を見てみるか」

火が出ていたのは30秒くらいだろうか。


「今の大火炎輪が、魔女様の森の大火炎輪とどのくらい離れているのか確認しましょう」


魔女様の森の方向に向かっていくと、新しい大火炎輪が、魔女様の森の大火炎輪と交差して内側まで食い込んでいた。これは良くない。

かなり惜しいが、近すぎた。

大火炎輪同士の間を少し開けないと通路も作れないので、それを考慮して、少し離す。


1回目は、魔女様の森と近すぎたが、2回目は概ね良い感じになった。

再度大火炎輪を使って焼け跡を強めに残す。


「ありがとうございます。あとは、水が出るかを確認しないといけませんね。

 魔女様は町に行きたければご一緒に、必要無ければ一人で行って参ります」


「うむ。いんがあるからひとりで行けるというわけじゃな。

 であれば、わしは今回はここで待っておる。

 町には美味いものがあるが、わしは疲れるのじゃ」


今日からは、魔女様が居なくても一人で行こうと思う。

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