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5-3.開拓団(2) 難民代表ファブリスの陰謀 ※敵ではないのですが、望まぬ方向へと…

難民側の代表も決まった。ファブリスという商人の男だ。

リタは直接面識が無かったが、ラスカリス家とかなり親密な関係があったようで、

ガティネ家からは、前領主と親しかったからというだけで遠ざけられた。


実際に遠ざけたがったのはガティネ家自体ではなく、お抱え商人かもしれないが、結果としてファブリスは領主御用達の既得権益を失った。


とは言え、おそらくこの人物自身は、難民として新しい開拓地に行く必要は無いように思う。

ラスカリス家御用達ということだから、大きな商会だろうし、他の難民とは違う態度、行動力を感じる。

なのに、手を貸してくれるのはラスカリス家に対する忠義なのだろうか?

リタにとってはこの人物が代表をやってくれるのは有り難いが、リタ自身は家の再興を目標にしていないので申し訳なく感じる面もあり複雑な気持ちになる。


……………………


※ファブリスさん視点に変わります


当のファブリスはと言えば、望んで、自分の野望のために、そしてマルグリット(リタ)に対しての期待があってここに居る。


ファブリスは難民生活など送る必要は無かった。

早々に店を畳んで表向きは職を失ったようにも見えるだろうが、まだ行き先が決まっていないというだけで、生活に困窮などしていなかった。


予定外のタイミングで店を畳んだりしたことで、それなりの損失は出た。

手痛い出費ではあったが再起不能には程遠い、十分な財産を持った状態での撤退であった。


そこに登場したのが前領主ラスカリス家の令嬢、マルグリットお嬢様 (リタ)だった。


親も失い、領地も無い、現在は貴族では無いし、貴族令嬢でも無い。

着ている服も町娘と変わらない。ところが、今でも完璧に手入れされた髪と、一目でわかる立ち振る舞いとが相まって、今でもお嬢様と呼ばれている。

いかにも町娘に変装した貴族令嬢のような姿に説得力を感じてしまう。


貴族は見栄っ張りが多い。懐事情が相当厳しくても、見栄を張る。

見栄を張りたいなら、あの服を着ることは無い。

本当に困窮していれば、あの髪は維持できないだろう。


※いえ、髪はリタさんの都合ではなく、変態侍従の趣味です。


見栄っ張り貴族を多く見てきたファブリス的には、社交の場でも無いのに常に、並の貴族以上にきれいな髪を維持しているリタが普通の町娘のような服装で居ることの方が不自然に見える。


ただの町娘のような服を着ていても、特別に見えるのは、他の人々にとっても同じなのだろう。


町はガティネ家に乗っ取られてしまったが、ラスカリス家推しの領民から見ると現当主。

何の実権も持たぬが故に、こうして再びこの町を訪れるようになった彼女を見て人々はどうしてもラスカリス家の再興を夢見てしまう。


見た目の異様さはファブリスも感じていたが、それにしても人々の反応は過剰に思えた。


ずいぶん人望があるものだなと思いつつも、下々の者はこんな、もはや()()()()()()()()()()()()()に縋りつく姿を冷ややかな目で見ていたのに、ある日衝撃的な事件が起きた。


おそらく、ファブリス以外、誰一人として衝撃など受けなかったと思う。

だからこそだ。そこに商機が、そして勝機がある。


実の親兄弟を殺した相手に対し、短期間で話をまとめて再び町に姿を見せるようになったことも驚きではあるが、なんと、新しく開拓地を作ると言い出したのだ。


町の外に出るなど自殺行為、町を出たらそこは未だ獣の領域である。

その森に開拓地を作ると言う。


そこを縄張りにしている大量の獣を追い出し、人間が生活する場所を作る。

それがどれだけ大変なことかは皆知っている。

だから狭い町の中で暮らしているのだ。


”森に新しく開拓地を作る”

ただの小娘がそんなことを言いだしても、普通は相手にする価値など無いのだが、このお嬢様には強力な後ろ盾があった。


それは、森の魔女様と呼ばれる存在。

100年以上も前から魔女様の森と呼ばれる場所に住んでいると言われている。

その姿を見た者はほとんど居なかったが、極最近になって頻繁に目撃されるようになった。


以前は獣のような姿をしていると言われていたが、15歳程度の少女に見える。

以前は髪が伸ばしっぱなしで、浮浪児のようだったとも言われているが、ファブリスはその頃の姿は見ていない。


今ではかわいい女の子に見える。

ただし、中身は婆さんかもしれないと思うような喋り方をする。


実年齢は見た目とは異なり、不老不死なのではないかという噂まである。

あの言葉遣いを聞いてからは、ファブリスも実年齢は相当高いのではないかと思っていた。


人間は、森の中では力を合わせても長期間生活をするのが難しいが、

その魔女様は、森の中で一人で生活することができるという非現実的な強力な力を持つ。

遥か昔から月に一度燃え盛る大火炎輪、あれを使っているのがその魔女様だと言われており、

マルグリットお嬢様 (リタ)の後ろ盾には、その魔女様が付いているのだ。


そして、そのお嬢様は、実際に大火炎輪で新しい開拓地を作り出そうとしていた。

ファブリスはこの話を聞いた時は衝撃を受けた。


これは普通の開拓地とは全く別だ。

新しい土地を開拓して、開拓にかかった初期費用を回収するのは通常極めて難しい。

普通は回収できない。だから、開拓の話に商人は首を突っ込まない。


ファブリスは偶然にも、この場に居合わせた。

これを逃す手はない。


現段階では、難民、即ち避難希望者のほとんどは落伍者。

元から良い立場では無かったものが、状況の変化でさらに弱者へと転落した者。

或いは、ある程度の立場に居たからやっていたただけの平凡な者。


人をまとめられるような才のある者が居なかった。

ファブリスは商人であり開拓や土木には詳しくない。


だが、現時点では、その場に居る者たちの中では、おそらく一番まともだと思った。

せっかく、少しはやる気になっているお嬢様の心を折るようなことは避けたいと代表者になった。


うまく行けば、これは大きな商売になる。


それにファブリスはマルグリットお嬢様 (リタ)と話をしていて気付いたことがある。

領主としての才がある。

歳と見た目に合わない才能を持っている。

知識もそうだが、おそらく相当勝負強い。


方針を決める速度が速く、その割に手堅いところと、冒険的なところの間を突いてくる。

自分がどこまでできるかをわかって動いているような印象を受ける。

この年齢の令嬢とは思えない。


元々、特別賢いと言われるような人物ではなく、どちらかというと、町で遊び歩いているという悪い噂を聞いていた。

※町で遊び歩いているのは、普通に知られていたのですね。


ろくでもないご令嬢なのかと思っていたが、ファブリスからは、

噂に反して、十分まともな人物に見えた。

※リタ(マルグリット)さんの金銭感覚はかなり怪しいと思いますが、

 貴族の中では意外にもまともな方のかもしれませんね。


早い話、ファブリスはマルグリット(リタ)を相当高く買っていた。


……………………

……………………


※ここからはリタさん視点です。


ファブリス自身は難民とは言い難いが、難民の代表をやってくれている。

実は、ある程度の代表者が居ないと井戸1本掘ることもできない。


リタには理由はわからなかったが、平民には井戸を1本掘るという決断ができない者が多い。

本当の難民は、”難民の居留地を皆で力を合わせて作ろう”という1つの目標に向かって行動ができない人たちだ。

それができれば難民にはならない者が多い。

もちろん、能力的に問題が無くても、心が折れてしまった人も多いだろう。


正確な理由はわからないが、ファブリスのように、人に指示を出せる者が居ないと、

リタが何かをしようと思っても何も実行できないのだ。


リタは何かをしようと思う意思はある。だが、実行できる手段は全く持っていない。

さらに、リタは領民に対する義務はないと思っている。


だが、可能な範囲で助けたいとも思っていた。

リタがしっかりしていれば、こうはならなかったのかもしれないのだ。


普通なら難民用の土地を用意しようなどと思わないだろうが、今は手札がある。

”安全な開拓地”を得るのは通常であれば、非常に大きな困難を伴うがリタには切り札がある。


「避難用の土地を確保しようと思うのですが、

 井戸は実際に掘らないと水がでるかわからないそうです。

 なので、移住前に井戸を掘っていただく必要があります」


リタ(マルグリット)は、井戸は掘ってみないとわからないことを伝える。


「もちろん、掘ります。自分たちで使う井戸ですから」


幸いにも、井戸を掘る有志は存在した。


「どのように掘るか決まったのですか?」


井戸を掘るには経験者が必要だが、全員が経験者である必要は無いということで、具体的に誰が作業をするかが決まっていなかった。

今日までにある程度決めておいてもらうようにしていた。


「実際に現地を見てみないとわかりませんが、

 特に問題無ければ、職人1人と移民を数人で掘ることになります」


毎回煮え切らないような答えが多かったのに、ファブリスが代表になってから、はっきりした答えが返ってくるようになった。

リタは、ファブリスを凄く頼りになる人物だと思った。


「もうそこまで決まっているのですか。

 ファブリスさん。あなたのような方がいてくれて助かります」


「それは光栄です。そこで提案なのですが、よろしいでしょうか?」


これを聞いた瞬間、リタは心配になった。

相手は商人。

今日は交渉できるような補佐が居ない。

やはり、カリーヌにも居てもらった方が良かったかもしれない。

そう思うが仕方がない。


「井戸を掘るためにかかる費用、職人、作業に当たる移民の食費は私が持ちましょう」


身構えたのに、提案の方向が思っていたのと別のものだった。

これはこれで怪しい。


「…………よろしいのですか?」


リタは難民のための場所を用意するつもりだったので、少々のコストは負担しようと思っていた。

ただし、相手は商人だ。タダで……ということは無いだろう。


「はい。ただし、お願いがございます」


やはり来た。


「はい。内容を伺いましょう」


「もし、この先、移民先では膨大な量の物資が必要となるでしょう。

 その全てを私の商会に一任していただきたいのです。

 これは初期投資です。回収できないかもしれない。

 ですが、私も新しい領地のため、リスクを取ってでもお手伝いさせていただきたいのです」


全てをファブリスに任せてしまうと、他の商人が商売できなくなってしまう。

だが、ここでケチってファブリスが抜けてしまうと難民移住開拓計画の実行に支障が出る。


交渉で少しずつ譲歩を引き出そうとすれば、相手の得意分野で戦うことになる。

そう考えると、あまり交渉を長引かせたくない。

規模が大きくなければ一任でも構わないと思う。


「滞在者が50人を超えないうちは、優先して声を掛けます。

 相場から離れていなければ購入します。

 もちろん、輸送費を考慮した相場です」


輸送費を含むので、町の相場とは異なる。

飛び地を持つ領主は多い。町1つと町にまで発展できない村を持つ領主は多い。

ラスカリス家はカステルヌの町のみだが、その周囲に新たな開拓地を作るという計画は存在していた。


同じ領地であっても、売価は変化するのが普通である。

逆に、売価を同じにするために制限をすることもある。

そのあたりは領主次第。


事実上、全量をファブリスから輸送費込みの相場で買うと言っているのだ。

これなら、ファブリスも文句はないだろう。


※リタさんは少数の難民を一時的に受け入れるつもりなので、こんな感じで考えています。

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