表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/49

5-2.開拓団(1) 魔女様の小遣い

長年にわたり、人の住んでいない未開の地を移り住んできた魔女様には、移住地選びの経験は豊富だった。

本人が狙ったわけでは無いが慣れてはいる。


尤も、魔女様が優先していた”人が簡単には辿り着けない”……という条件は難民受け入れ地の条件としては優先度は低めだが、獣が近寄り辛く、生活で不便しない場所という面では概ね魔女様の経験が役に立つ。


魔女様は自分の力で井戸を掘ることはできないため、古井戸が残っている場所か、自然の水がある場所しか選べなかった。


難民の生活のための土地であれば、井戸を掘ることは可能なはずなので、飲み水の確保はできる(と、この時点でのリタは考えていた)。


今住んでいる魔女様の森の中央部には結界があるが、結界を張れる場所は非常に限られるので、結界が無い前提で暮らしていた経験も十分豊富なのだ。

とは言っても、今住んでいる魔女様の森に定住するようになったのが11歳の時で、放浪の旅を送っていたのはそれ以前のこと。


既に忘れてしまっていることも多いのだが、水が手に入る場所でしか生活できないことはよく覚えていた。

洗濯をしようと思うと、かなりの水を使う。

水が簡単に手に入る場所は、多くの場合、水害に弱い場所でもある。

そして、水源地が小さな池だと、排水は池に流れ込まない場所にする必要がある。

これは、リタは全然気にしていなかった。


川であれば問題無いだろう。


魔女様の家は、人力で水を運ぶ距離が短くなるようかなり便利に作られている。

川の水を引き込んでいて炊事洗濯はそれが使える。

そしてさらに、少量の湧水があり、飲食に必要な程度のきれいな水は手に入る。


リタは飲み水は全て井戸から汲み出していると思っていたので、湧水を飲むのにはちょっと抵抗があった。

そして、川の水も湧水も変わらないように思った……が、川の水は水質が頻繁に変わるが、湧水はいつも同じだったので、違うものだということがわかった。


「水が重要なのですね。でも、このあたりに大きな川はありません」


今までリタは水で不自由したことがない。

必要な水は使用人たちが用意してくれたからだ。


水を運ぶのがこんなにも大変なことだとは知らなかった。


魔女様がここに住んでいるのは、水があって、結界を張るのにも適した場所だから。

こんなに良い場所がそこらにあるわけもなく、普通は、水を優先すると洪水対策が必要になりそうだし、魔女様の森から離れすぎてしまう。

適度な候補地を探して、井戸を掘るしかなさそうだ。

町にも水源として使える川は無く、生活用水は井戸に頼っている。


避難希望の人に話をしに行く。


「カリーヌ、お留守番を頼みますね。

 難民の避難場所の件で話をしに行って参ります」


「はい。承知いたしました」

「…………」

2人で行くのに、()()()()()()()が無いのが不気味に思える。

カリーヌも含めて3人で行くと、家事が止まって大変なことになるので、2人で行く方が効率的には良いが、カリーヌは当然あまり良い気はしない。

カリーヌは本来、常にリタの傍に居るのが仕事であり、残って家事をするのは本来の仕事ではない。


リタは侍女を持つような立場ではない。

下女を雇うような立場でも無いが、カリーヌを侍従として雇い続けるには下女を雇う必要がある。

※下女は普通のメイドさんです。


「私もお金を稼がなきゃなりません。商人にでもならなければならないのでしょうか」

「おぬしは金を稼いでおるではないか」


それは、稼いでいるのではなく、魔女様の財産を換金しているだけだ。


「いえ、そういう意味ではなく、継続的に得られる収入が必要だと思いまして」


リタは商人になるために習ったことは無いが、一応、領地運営の勉強はしている。

緊急時には財産を売却し、必要な予算を得る必要がある。

今がその状態なのだ。


※とリタさんは考えていますが、支出がそんなに多くないので、

 現状全く問題無い状況です。

 領地運営の場合、財産に対して支出の割合が大きいので、

 赤字を長期間財産売却で賄うのは非現実的です。

 そのため”財産売却で賄うのは緊急時の手段”として教えられています。

 現在は、財産に対して日常生活で出て行く金額は十分小さいので、

 そんなに気にする必要も無い状況です。


……………………


町行きの転移は魔女様にお願いする。

「魔女様、それではお願いします」

「うむ。菓子の件、わかっておるであろうな」

「はい。もちろんです」


それを聞いた魔女様は、町へと転移する。


転移先は町の外。

元からここを利用していたが、今でもここが都合が良い。

町へは必ず門を通って入る。

これをやらないと、現領主に対する敵対行動になってしまう。


門を通らないと領主が知らないところで町を出入りしていることとなり、

何か知られるとまずい工作のために出入りしていると勘繰られる可能性がある。


リタは町を利用しても良いし短期間なら留まっても良いが、いつ来て、いつ出て行ったのかは確実に追えるようになっていなければならない。

和解はしたが要注意人物なのだ。基本的に、動向は全て把握されている。

※転移で町に入るのは厳禁ですが、大荷物を持ち帰る等の都合があれば、

 申請すれば転移で持ち帰ることはできます。


……………………


町に入ると、魔女様にお金を渡す。


「このお金で買える範囲でなら、何を買っても構いません。

 いつものお店でクリーム菓子は1つしか買えません。

 焼き菓子は、安いお店を探せば5包みくらいは買えるかもしれません」


「今日は珍しいものを探し、残りで焼き菓子を買うつもりじゃ」


はじめの頃は目に入ったものをいきなり買って終わることが多かったが、

今では少しは慣れたようで、多少物を吟味して買うような知恵が付いた。


店によって並んでいるものも値段も違う。

同じ金額を持っていても、よく選べば買えるものが変わってくることを覚えたのだ。


「食べ物以外の高いもので欲しいものがあるときは私に相談してください」


「わかっておる」

そう言って魔女様は、楽しそうに買い物に出かけた。


魔女様に渡した金額は、たぶん、平民から見たらかなりの高額だと思う。

一家が一日暮らせるくらいの金額かもしれない。

それでも、菓子目当てであっても、魔女様には町や買い物に慣れて欲しいという望みもあった。


※基本的にはリタが用事を済ませるまでの時間稼ぎ、暇潰しです。

 魔女様に小遣いを渡して遊ばせておかないと、「さっさと帰ろう帰ろう」

 と煩くて話し合いができないのです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ