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4-8.大聖女の日記(上)

絵は昔書いたものの再利用です

挿絵(By みてみん)

教会の壁画に描かれた子供はおそらく魔女様だ。

単なる噂話だったものの証拠が出てきてしまった。

さらには当事者しか知らないはずの情報まで一致してしまった。


……………………


以前魔女様が言っていた大聖女様と子供が描かれた壁画は実在していた。

そして、突如出たマルセルという人物の名前。

そのマルセルを知る人物の存在。


どこにも出てこない人物の名前が一致した。


壁画に描かれた子供はおそらく魔女様だ。

細かく言えば、魔女様を壁画に描いたわけではなく、大聖女様が子供を連れて行ったことが描かれているだけかもしれない。

そして、大聖女様が連れていた子供は存在し、それが魔女様だったということなのかもしれない。

とはいえ、結果として壁画の子供は魔女様で、以前魔女様に聞いた話は本当だったと言えると思う。


実際のところリタは必ずしも壁画が見つかるとは思っていなかった。

むしろ、見つからないだろうと考えていた。

町の名前までわかっているのだから、試しに見に行ってみようと思った。

それだけだった。


それが、こうもあっさり見つかるとは思わなかった。


……………………


あの壁画の子供が魔女様だとしたら、大聖女様は何を考えて魔女様を連れて行ったのだろうか。


「どうしたのじゃ?」

「本当にあると思わなくて」

「なんの話じゃ?」

魔女様はピンと来てなさそうだったのでカリーヌが助け舟を出す。

「壁画の話ですか?」

「はい」

「わしも本当に有るか気にはなっておった」


「なぜ大聖女様は魔女様を連れて行ったのでしょう?

 魔法が使えることは知っていたのですか?」


----


魔女(リップル)は、物心ついたときには既に人里離れた場所で暮らしていた。

婆様が何のために連れて行ったのかは知らない。


「使えるのは知っておったが、わしは町に住んでいた記憶は無いからのう」


「以前、お姉さまの胸の話をしていませんでしたか?」


その話はした。嘘ではない。

凄く小さかった頃、母の胸、姉さまたちの胸が温かかったことを覚えている。


「うむ。母の胸も、姉さまたちの胸も覚えておる」

「姉さまというのは、大聖女様には他にも養子が?」


婆様と一緒に暮らしていた子供は自分だけ。

はっきりと聞いた記憶は無いが、姉さまたちは養子では無かったはずだ。


「わしの他に養子が居ると聞いたことは無い。

 姉さまとわしは姉妹では無い。

 誰かは覚えておらぬが、小さい頃、姉さまが居ったのじゃ」


----


リタは、魔女様の話は矛盾しているようにも感じたのだが、そうでも無かった。

魔女様の言っていたお姉さまというのは、魔女様の姉妹のお姉さまのことでは無く、

魔女様がお姉さまと呼んでいた存在。

それが何歳の時の記憶かはわからないが、お姉さまと呼べる人物が存在する時期があった。

お母様に関しても、少しは覚えている。


マリアンヌ様が亡くなったのは、魔女様が8歳の時。

これが正しいかどうかはわからないが、子どもを連れて行った時期も不明だ。

マリアンヌ様が健在の頃、剣を習っていたということは、魔女様は、その時期にはそれなりの年齢だったはずだ。

何歳位から習い始めるものかは知らないが、魔女様の記憶に残るくらいの歳までは習っていたはずだ。


おそらくは物心つく前に連れ出された。

お姉さまや、お母様の記憶は、”断片的に存在するそれ以前の記憶”なのではないかと考えれば、特に矛盾は無い。


リタも断片的に子供の頃の記憶が残っている。

何度かしか会ったことの無い親戚のお兄様と遊びに行った記憶があった。

後から確認したら、それはリタが5歳の時のことだとわかった。


5歳の時のことを、かなりはっきり覚えているのだ。


子供の頃、実の兄と遊びに行った時期を特定するのは難しいが、

何度かしか会ったことの無い人物と会った時期は特定しやすい。


とはいえ、当時のことを知る人は居ない。


「これ以上詳しいことはわからなそうですね」


リタは、もう材料も無いので考えるだけ無駄だと思ったのだが、

魔女様が何か閃いたように言う。


「そうじゃ、知りたいなら、あれが役に立つやも知れぬ」


魔女様はそう言うと、埃をかぶった本を持ってくる。


「これは?」

「婆様の持っていたものじゃ。

 婆様が死ぬ前、これだけは持っておけと言われて、ずっと持っておった」


「内容は?」

「知らぬ」

カリーヌは、このやりとりが妙に感じた。

本を持っているのに内容を知らない。

「内容は知らないのですか?」


「ああ、魔女様文字読めないんでしたよね。

 なぜ、読めないものを持たせたんでしょうね?」


中を見ると、メモ書きのように文字が書かれている。


「これは?」

「日記でしょうか?」


本だと思ったが、日記のようだ。

リタは、こんなにしっかりした日記帳があるとは知らなかった。

探せばあるかもしれないが、貴族令嬢時代のリタであっても、たかが日記を書くために、これは使わないと思う。

この日記が後の世で、重要なものとして扱われることを前提に書かれたものだと思う。


……と思ったが、そうでもなさそうだ。


内容は、どうも重要なものではないように見える。

その上、文字が滲んで非常に読みにくい。


「文字が滲んで読みにくいですね」


「何度か濡らしたことがあるでの」

「はい。見ればわかります」

「仕方なかったのじゃ」


なんだかんだ言いつつも、こうしてちゃんと持っているのだから言いつけは守っている。

きっとこれでも大事にしていたのだろう。


「何が書いてあるのじゃ?」


そう聞かれても、よくわからない。

日記なので、日々の出来事に関する思うことが書かれている感じだ。


「うーん、何と説明すれば良いか、日々思ったことが書かれているのでしょうか」


最初の方は、やたら品が良いが内容は無い。

わざわざ、こんな仰々しいものに書く内容だとは思えない。

遠い国の美味しい食べ物の噂話だったり、神への感謝の言葉が並んでいたり……で、内容はよくわからない。



……が、途中から、内容に変化が現れる。

”こんなことなら、こんな力は無い方が良かった”という後悔の内容に変わっていく。

これは本音だろう。教会内の派閥争いが激化していたようだ。

おそらく、最初の方の心穏やかな日々がだんだん崩れていったのではないだろうか。


「途中から状況が変わっている感じですね。

 お婆様も、命を狙われていたのでしょうか?」


直接は書かれていないが、もし死んだらという内容が何度も出てくる。

いつ殺されてもおかしくないというくらいに、身の危険を感じていたようだ。


これより少し前に大きな争いが起きたとき、この当時の大聖女は大火炎輪を使えなかったようだ。

それはリタも以前から知っている。

これが後に、大聖女と呼べる力を実際に持っていたのは初代大聖女のマリアンヌ様だけではないかと言われている理由だと思う。

この当時既に初代大聖女マリアンヌは引退していた。


マリアンヌ様は2代目以降の大聖女様たちに、大聖女と呼べるだけの力は無く、ただの飾りだったことを知っていた。力が足りないことが書いてある。


そして、大聖女は自分一人で十分だったとも書かれている。

誰が亡くなったという名前がいくつか。

これらのいくつか出てくる名前は、代々の大聖女様の名前だと思う。

リタの知る歴史でも後半の大聖女は早死にしている。

恐らく自然死ではないだろう。


その時代の大聖女が大火炎輪を使って見せることができなかった時点で、大聖女派の敗北が決まったのではないかと思う。


その時点で、初代大聖女マリアンヌが大火炎輪を使って見せても、寿命的に時代が育っていないと安定しない。

これは貴族と一緒だ。次代が存在しない貴族に未来は無い。

貴族も、血縁関係が薄かったり、能力が足りない人物を時代に据えると、狙われやすい。


マリアンヌ様は、世間とのかかわりを断とうとする。

これ以上、争いを見たくない。

大聖女の力を使わなければ、この争いは起きなかった。

大聖女になったことを後悔していたようだ。


”大聖女の力を使わなければ、この争いは起きなかった”

魔女様に伝えたかったことはこれだろうか?


「マリアンヌ様は、大聖女になってしまったことを悔やんでいたみたい」


「うむ。婆様は大聖女になるなと言って居った」


しばらく読み進めると、子どものことが書いてある。

子供の話が出てきたのはだいぶ後の方だった。

魔法が使えたかどうかは書かれていないが、その子供は髪を短く切っていたと書いてある。


「魔女様、子供の頃髪を短く切っていましたか?」


「うむ。よく男の子のようじゃと言われて居った。

 小さい頃は短く切っておった。

 伸ばしたのは切ってくれる者がいなくなってからじゃ」


日記の内容と一致している。


町の治安は悪化し……人里離れた土地で暮らしていたようだ。

はっきりは書かれていないが、正体を知られたくなかったようだ。


「一目見ても女だとわからないようにしたかったみたい。

 魔女様が大聖女だって知られたくなかったみたい」


「わしが大聖女なのか?」


確かに子供が大聖女になる素質を持っているとは書かれていない。


「大聖女とは書かれていないけれど、隠したがっていたみたい」


と言った後に、聖女の言葉が出てきた。


「あ、あった。聖女という言葉が書かれてます」


”文字が読めなければ聖女にはならない”と書かれていた。

聖女になる者は文字を読めなければならない。

そんなことが書かれている。


文字と聖女の関係はわからない。

これは呪文の都合だろうか?


「文字が読めないから大聖女にはならないって書いてある?」

「そうであったか。確かに呪文の話にそんなのがあったかもしれぬ」


剣の練習の話が有った。

確かに剣を教えていたようだ。

才能が無いから剣を習わせると書かれているが、内容が矛盾しているように思える。

魔法が使えることを隠す目的で剣を習わせたのではないだろうか?


なぜ文字が読めないのにとも書かれている。

文字が読めないのに魔法が使えるのはおかしいと考えたようだ。


「続きを読むと、文字が読めなくても魔法が使えて驚いたみたい」

「わしは、婆様の教えてくれたやり方ではできなんだった」


確かに魔女様も、以前、教えられた方法ではできなかったようなことを言っていた。


魔法や大聖女の力のことは徹底的に伏せているようで、はっきり書かれていないが、文章を繋げると、文字が読めないのに大聖女の力を持ってると書いてあるようにも見える。


「わざと文字は教えずに魔法だけ教えたのかしら?」


日記の内容を見ると、おそらく魔女狩りの対象になることを恐れたように見える。

だから、この日記にも、その子供が大聖女の力を持っているとは書かれていない。


この日記には、魔女様が大聖女ではないように見えるよう書いてあるが、ところどころ、マリアンヌ様が困惑した様子が書かれる中に、その子供が魔法を使えることが見えてしまうように書かれている。


ただ、子供を守ろうとしていたのは間違いない事実だと思う。


「魔女様が火炙りにならないように守っていたみたい」


魔女様が、魔女狩りと火炙りを過剰に恐れていた理由も、おそらくそこにあるのだろう。


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