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4-7.壁画の大聖女とこども(2)

絵は昔書いたものの再利用です

挿絵(By みてみん)

たぶん、この案内係のモニックは大聖女様肯定派だろう。


リタの知る限り、教会では旧暦時代は悪しき時代とされている。

だから歴が切り替わったわけで、教会にこういう説明をする人は多くないと思う。

……学術的な点から見れば、事実を述べただけでしかないのかもしれないが。


こういったものは、故意に解釈を捻じ曲げられていることが多い。

学問としては、なるべく解釈の捻じ曲げを行わない事実を求める。

客観的な事実を述べることを、学術的観点と呼ぶことがある。


貴族間ではよく火種になる。

学術的観点というのが、そもそも捻じ曲がったものになるのが貴族間の争いであったりする。

自分に有利な説を唱える学者の支援を行ったり。

※このあたりの事情は、マスコミのお抱え学者とかと同じです。


モニックの話は現在の本や主流の考え方とは異なることを言っている。

リタには教会が言うことよりも客観的に思える。

実際に壁画には大聖女と子供が描かれているのに、現在の本で触れられていないのは不自然だからだ。

壁画だから残っているだけで、壁画でなければ倉庫にでも隠されそうだ。


大聖女様の絵には丸が描かれている。

「この丸はいったい何を現しているのでしょう?」


「火炎輪ですね。大聖女様だけが使える神の御業です。

 炎の壁を作って敵の援軍を阻止したと言われています

 大聖女様は他にも傷を治すような奇跡の御業も使えたと伝えられております」


大火炎輪はリタも実物を見たことがある。

魔女様が月のモノで苦しんでいる間燃え盛る、”怒りの炎”という感じのものだったが、

自身の意思で起こすことができる。


そして、魔女様は傷の治療ができる。

つまり、大聖女と同じことができる。


当時幼かった魔女様がこの力を持つことに大聖女様が気付いていたとしたら?


……………………


「この壁画が描かれたのはいつごろかわかりますか?

 何のために描かれたのでしょう?」


「120年ほど前だと言われています。

 大聖女派閥が長く繫栄することを願って描かれたものではないかと言われています」


確かにそうかもしれない。

実際に子供が居たわけでは無く、次世代の存在を連想させるための絵である可能性もありそうだ。


「実際にこの子供は存在したのでしょうか?」


「それについては正確にはわかりませんが、子供を連れていたという話は存在します。

 この壁画からは追えませんが、マリアンヌ様の生涯を追った資料には、

 子供を連れていたという記載が散見されます」


「実際に子供を連れていたかもしれないのですね。

 どんな子供か何か情報はありますか?」


モニックは、このあたりでどうやらリタがその子供について調べに来たのだと気付く。


「普通の子どもを連れていたのに未来の大聖女と思われたのか、

 実際に才能のある子を連れていたのかはわかりません」


子どもの特徴まで書かれているなら、存在した可能性が高いと考えられるだろうから、

恐らくそんな情報は無いのだろう。

「そうですか」


モニックは、子供についてあまり触れられていない理由を説明する。


「マリアンヌ様の晩年は既に大聖女派が負けて弾圧されていた時期ですから。

 初代大聖女マリアンヌ様の最期は実は明らかになっていません」


初代大聖女マリアンヌ様の最期すらわからないくらいなので、記録はほとんど無いという意味だ。

子どもの存在が記録に残っていなくても、存在しない理由にはならない。

そのくらいの意味合いだった。


リタは、モニックの説明を聞いて、”まあそんなところだろう”と納得した。


きれいに話が終わったところで魔女様がひとこと余計なことを言った。

「婆様は普通に病気で死んだ」


”初代大聖女マリアンヌ様の最期は実は明らかになっていません”

と聞いたが、魔女様は知っていたので口にしただけだった。


「え?」

モニックが、凄く驚いた顔で見ている。


リタはテキトーにごまかす。

「ああ、なんでも無いんです。

 魔女様、その話はもう良いですから」


それでも魔女様は話し続ける。

「婆様が死んだ後もマルセルはしばらく世話してくれたが、

 知らぬ間に居なくなっておった」


「マルセル様をご存じなのですか?」

リタはマルセルなんて名前は知らないが、テキトーにごまかす。

「何でも無いので」


だが、モニックはしつこかった。

「なぜマルセル様の名を?」


そして、魔女様も何故か話を続ける。


「マルセルは婆様と一緒に居った。

 婆様が死んでしばらくして海に行った。

 何故かは知らぬ。

 マルセルはある日戻ってこなかった」


「え? え?」


魔女様は捨てられたのだ。

「魔女様……」


「あのときは腹が減って死ぬかと思ったぞ。

 海はときどき浜に魚が打ち上るのじゃ。

 マルセルはそれを拾いに行って居った。

 あの日は波が高かったからのう、いろんなものが打ち上る」


「え? 魔女様?」


おそらく波が強いときに、いろいろなものが打ち上る。

だから、マルセルは何か有用なものが打ち上っていないか見に行った。


マルセルが帰ってこなかった理由はなんとなくわかった。

たぶん、魔女様を見捨てたわけでは無かったのだと思う。


「魔女様はそのあとは?」


「わしはその後も、浜で魚を拾って居った。

 水に入らずとも体中が全部塩だらけになる」


これが前に言っていた塩だらけの話だろう。

海の近くで暮らしていた時期があるのだ。


「食うと死ぬ魚があって、わしは知ってる魚しか食えなんだった。

 近くに住んでいる者に食える魚を教えてもらって、食える魚の種類が増えたのじゃ」


「食べると死ぬのですか?」

リタは毒のある魚が存在すると思わなかったと言ったつもりでは無かったのだが、

カリーヌが答える。

「毒を持つ魚が居ると聞いたことがあります」


「毒のある魚が居るのですね」

リタは毒のある魚の存在は知っているが、

勝手に浜に打ち上るほどたくさん居るとは思っていなかったのだ。


「毒の魚が良く打ち上るのじゃ。長細いのはだいたい食えるのじゃが」

「そんなのいるのね」

※リタさんは”毒のある魚が頻繁に打ち上るなんてことがあるのね”くらいの話をしています。


「しばらくして船を拾った。

 船。知っておるか? 木でできておって、水に浮く乗り物じゃ。

 あれは良いな。網があれば魚が獲れる」


※この時使っていたのが、海の底を見る魔法です。

 網と言ってますが罠の一種です。

 魔法で魚が入っているか見えるので入ったら急いで上げる。


……………………


案内役のモニックは困惑したような表情で尋ねる。

「ところで、その……魔女様というのは?」


「あー、あの、事情がありまして……」


「もしかして、森の魔女様ではありませんか?

 大聖女様の火炎輪に似た魔法を使うという?」


モニックは魔女様の噂を知っていた。


「婆様の火炎輪とわしの火炎輪は変わらぬように思うが」

「ちょっと、魔女様!」


モニックは、この絵の子供が魔女様ではないかと思う。

そして、それはリタにも伝わる。


リタもこの絵の子供が魔女様ではないかと思っている。

壁画があって、マルセルさんも実在したとなると、この絵の子供が魔女様かもしれない。


でも、隠しておきたい。


「いえ、そんな、そもそも120年前の絵ですよ?

 120年前の人間が生きてるわけ無いですよね」


「でも、なんでマルセルさんの名前まで」


リタはごまかそうと頑張る。

「魔女様は、お婆様に聞いたのですよね?」


「わしは婆様が死んだあとはマルセルと暮らしておった」

魔女様は、ぜんぜん話を合わせてくれなかった。


「あなた様がもしや……」


「すみません、私たちはこれで……」


たぶん、あの壁画の子供は魔女様だ。

でも、それを知られるのは良くない。


……………………

……………………


教会からだいぶ離れたところまで来てようやく話をする。

「さっきの壁画、お婆様と魔女様だと思うのだけど」

「婆様はそのように言って居ったな」


「ところで、どうしてあの絵だと知ってたんですか?」


「昔、本にあれと同じ絵が描かれたものを見たことがあったのじゃ。

 色は無かったと思うが、あの壁の絵と同じだったと思う」

「こう言ってますけど、カリーヌはどう思いますか?」

「話を聞く限り、おそらくあの壁画の子供が魔女様なのではないかと」


リタもそう思う。


「本当に、あの壁画の子供は魔女様なのでは?

 魔女様。魔女様は大聖女なのではありませんか?

 火炎輪も治療も使えますよね」


「そうかもしれぬ。じゃが、婆様の言いつけは守れんかった。

 わしは良い魔女になれと言われておったのに悪い魔女になってしまった」


「そんなこと無いですよ。良い魔女ですよ。少なくとも私にとっては」


「わしが良い魔女じゃと?

 その言葉、本当であろうな!」


「はい、本当です」


「わしは良い魔女になれたのか!」

「はい。なれましたよ」


「わしは……そのようなことを言われると泣いてしまう」

「魔女様は良い魔女です」


「わしは良い魔女に……」


リタは、何か閃いた。


「魔女様、お漏らしする魔女は良い魔女ではありませんよ?」


「おお、およ?」

(およ?)


「大丈夫じゃ。わしは良い魔女じゃから、股に凄く力を入れて我慢しておる」

「魔女様、お漏らしを我慢するときは、それを口にしてはいけません」

「火炙り?」

「いえ、下品だからです。良い魔女様は下品なことは言いません」


「そうか、わしは足を閉じて力を入れておるだけじゃ。わしは良い魔女じゃからの」

「魔女様……」

リタは、これに関しては諦めることにした(遠い目)


ただ、リタの頭の中では疑惑が確認に変わった。

壁画の子供は魔女様だ。


マルセルは恐らく、大聖女様の死後も魔女様を守ろうとしていた。

おそらく、ずっと守るつもりだっただろうが、事故が起きたのだと思う。


マルセルが生きていれば何年後かに、大聖女の存在が明かされたのかもしれない。


……………………

……………………


一方、リタたちを案内したモニックにとっても人生を一変させるほどの大事件だった。

モニックの祖母が初代大聖女様をよく知っていた。

※熱狂的信者だったのです。


その祖母の話に、大聖女マリアンヌ様は子供を連れて出て行ったというものがあった。

実際にそう書かれた本もある。

祖母の話では、その時連れて行ったお供にマルセルという人物が居た。

大聖女マリアンヌ様は晩年の行動が不明とされている。


その大聖女様の晩年の頃の従者の名など記録には残っていない。

マルセルの名は、モニックの祖母の話にしか出てこなかった。

祖母が亡くなった後、その名を聞くことは無かったが、今日遂にその名を聞いた。


モニックは、祖母の話に大きな影響を受けて育った。

おそらくそれが理由でその壁画がある教会で解説の仕事をしているのだと思う。

モニックにとってはこれが祖母が生きた証だったから。


そして、マルセルの名を知る者が居ることがわかった。


その者は大火炎輪を操る森の魔女だった。

大聖女様も使ったとされる大火炎輪。


120年前の子供が、何故か若い女の姿で現れたが、とても他人とは思えない。


そして、その頃から壁画の子供が森の魔女ではないかという噂が立ち始める。

教会の腐敗が酷くなると大聖女様が現れる。


そうなると教会が動かないわけにはいかない。

ところが、動けば大変なことになるかもしれない。

それ以前の時代には無敵だった救世軍が、たった一人の力で敗北することになった。

その力の持ち主が大聖女と呼ばれるようになった。

今はまさにあのときと同じ状況にある。

※大聖女時代は、教会の内部紛争で発生したものなのです。


----


※モニックさんは自分のおばあさんの話を信じていて、

 教会が、何かを隠していることを知っています。

 余計なことで騒ぐと寿命を縮める結果になるので、

 客観的事実と思われる情報を話していましたが、

 ついに、

 ”子供を連れて出たのは事実で、

 その子供は何故か120年経った今も生きている可能性が高い”

 という結論に辿り着きました。

 散々悩んで、何人かに秘密の相談をするのですが、

 それがどんどん広まっていきます。


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