表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/49

4-4.不純物が多そうな塩

食事の時間が近くなると、魔女様は台所をうろうろしはじめる。


「カリーヌ、今日は何を作るのじゃ?」

「シチューです」


「これをたっぷり入れるのじゃ」

「魔女様が皮むきを手伝ってくだされば、かまいませんよ」

「では、わしが皮むきしてやろう」


魔女様は、自分の好物を多く入れようと小細工をしてくる。

カリーヌは、手伝ってくれるのであれば、ある程度譲歩しても良いと思っていた。


「魔女様は皮むき上手ですね」

「今までわしが食って居った野菜はこんなに皮むきが楽なものでは無かった。

 凄く手間をかけて剝いておったのじゃ」


それはカリーヌも知っている。

魔女様の食材は、町民でも非常時でもない限り手を出さないのではないかと思うようなものが多かった。

畑で作っている作物でも、そんなレベルで加工の手間の割に可食部が少ない。

皮が硬くて食べにくいので皮むきが必須な割に、可食部がとても少ないのだ。

元から小さいのに、皮をむくとさらに小さくなる。


それと比べれば、市場に流通している食材は、可食部が非常に大きい。

それでも手間ではあるので、手伝ってもらえるとありがたい。


「手伝っていただき助かります」


……………………


「肉は、わしが用意したものを使うが良い」


これは正直助かっている。肉は扱いが難しい。

カリーヌは解体後の肉の処理はできるが、解体は相当苦手で苦戦する。


「はい。私は動物の解体はやったことがなく……」

※全くやったことが無いわけではありませんが、自分が相当苦手としていることを

 実感したことがあるというくらいの経験はあります。

 カリーヌさんは元々侍女で入っていますから、仕事で解体する機会はありませんでした。


「わしが得意じゃから、お主がやる必要など無い」


まあ、魔女様は昔からそうやって獲物を捌いてきたわけで、得意なことは知っている。


ただ、いつもちょっと量が多い。

3人ですぐに食べきるには多すぎ、保存用に加工するほどは多くないという微妙な量を持ってくる。


「ありがたいのですが、この量だと、燻製を作るほどの量ではなく、

 一度に使うには多すぎるように思います」

「全部使うが良い」


「多すぎませんか?」

「全部入れてしまうのじゃ!」

※魔女様は肉が好物です


カリーヌが仕えていたラスカリス家のような町貴族の屋敷であれば、炊事に当たる使用人が1人などということは無く、何品も作ることができるが、カリーヌ一人では、そう何品も作れない。


調理せずに生肉を放置するのは危ない。

安全に美味しく食べられる期間を数日延ばせるだけで良いので、塩漬けにでもしようと思うが、ここにはなぜか普通の塩が無い。


「塩漬けにするには、塩の備蓄が少ないですね。

 それに、これはただの塩では無いようなので、塩漬けにするなら普通の塩で十分です」


ところが魔女様の反応はこうだった。

「普通の塩とはなんじゃ?」


「町で流通している普通の塩です」


「普通の塩?」


魔女様には”普通の塩”では通じなかった。


……………………

……………………


後日。町にやってきた。


「肉の塩漬け用に、塩を買っておこうと思います」


「なんじゃと! 塩が買えるのか!」


「? 塩は生活に必要ですから、町で売ってないということはありません」


リタは少々不思議に思う。塩は町中でよく見かける。


「塩漬けに使うので多めに買っていきます」

カリーヌが塩を買おうとすると、魔女様が妙な反応をした。

「これが塩なのか?」


「ああ、魔女様、これが塩だって気付いてなかったんですね。

 塩は、色のついたものもありますが、ふつうは白いものなのですよ」


「そうか、確かに白いのう。海の塩も白かったわ。

 わしは陸の塩は茶色なのかと思って居った。

 カリーヌが言って居った塩漬けというのをやってみたいのう。

 この石何個で買えるかのう?」


※この地域で流通している塩は、海塩ではありません。

 主に岩塩で、凄く、陸の塩です。白いものが多いです。

 (白くない物も存在します)


「塩は、宝石1個で一生分……普通の人間の一生分くらい買えます。

 まあ、魔女様は何年生きるのかわかりませんが、普通の人間なら一生分くらい」


カリーヌは魔女様の言う塩の色に興味を持つ。

「白い塩? 多少色が付いたものはありますが、塩はだいたい白いと思いますが」

カリーヌの疑問にリタが答える。

「魔女様の塩は茶色なの。

 味は悪くないんだけど、凄く手間かけて作っているみたいで」


理解できた。納得した。


「あれはただの塩だったのですか?」

カリーヌは何か理由があってあの塩を使っているのだと思っていた。


----


「婆様がそうやって作っておった」


塩を含んだ土から塩を分離する。

塩の結晶ができるのを待てば白くなるが、魔女様は、器をたくさん持っていないので、結晶ができるのを待てなかった。

一方で、火炎輪が使える。煮詰めると土が残りやすく茶色になる。

土っぽいところは捨てて、白っぽいところを集めて使っているが、それでも茶色になる。

※製法は同じですがお婆様の塩はもっと白に近かったです。


----


「魔女様の話を聞く限り、どうも人里から遠く離れて暮らしていたみたいで。

 塩も自給自足だったんじゃないかしら?」


「はい。そのようですね」


「魔女様お金を知らなかったし」


「お金を知らない?」


カリーヌが知る範囲でも、魔女様は物の価値を知らない。

相場を全く知らない。あまり買い物に慣れているとは思わないが、お金の存在は知っているはずだ。


「そうなの。お金で物が買えることを知らなかったの」


つまり買い物をしたことが無い。

お金で物を買えることを知らなかったとしたら、お金が何のために存在していると思っていたのかとカリーヌは疑問に思う。

「魔女様は、お金を使わずにどのように暮らしていたのですか?」


「どのようにと言われても、人間と会うことは滅多に無かったゆえ


「だから、本当に誰とも会ってなかったんだと思う。

 お母様が会ったときも、財宝と服を交換してくれた」


リタのお母様が魔女様に服を献上した際も、服に払うにしては大きすぎる財宝を得た。


「財宝、そうじゃ、財宝なら持っておる」


魔女様は財宝を持っている。

お婆様が残してくれた遺産……にしては多いように思える。

それに遺産にしては、妙に偏りのある宝石類。


この石の産地で入手したものと考えるのが良さそうな偏りがある。


「それにしても、なんで、その石何個も持ってるんですか?」

すると、魔女様はこう答えた。

「海に沈んだ宝を引き上げたのじゃ」

これはリタも初耳だった。


「どうやったんですか?」


「海の底を見る魔法があるのじゃ」


※海の底を見る魔法は、基本的には魚を獲るために使っていました。

 海上からでも水面反射を受けず、海の底まで見える魔法という感じです。


「海の底ですか」


「そんなに深くまでは見えぬが。

 同じ魔法で霧の先を見通すこともできるぞ」

※海面反射を除去するだけなので、水が透明でないとそんなに深くまでは見えません。

 また、霧に対しては若干の効果があるという程度なのですが、

 魔女様本人は、そこそこ効果があると感じているようですね。


「宝を見つける魔法があるわけじゃないのですね」


「そんな魔法は聞いたこと無いのう」


ちょっと安心した。


でも、魔女様は海に行ったことがあるのだ。

リタは海を見たことが無い。


「魔女様海に行ったことがあるのですね」


「うむ。森を離れることがあったら、今度は海にするかのう。

 ただ、海は髪も服も塩だらけになる」


「塩だらけ?」

「海の水は塩辛く、近くに行くだけで塩だらけになるのじゃ」


リタも海の水が塩辛いというのは知識としては知っている。

だが、近付くだけで塩だらけというのははじめて聞いた。


それが本当だとしたら、海の近くで立っていれば塩が採れるのではないかと思った。


※仮に採れても、不純物が凄く多い塩になりそうですね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ