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4-2.流れ弾、リタ(マルグリット)に当たる

そして流れ弾がリタ(マルグリット)に当たる。


「リタ(マルグリット)、お主は、洗濯も料理もできぬが、

 今まで何をやっておった(どうやって生活していた)のじゃ?」

※説明はしたのですが、魔女様は、貴族の暮らしを見たことがないからか

 理解は難しいようです。


ぎぎぎぎぎ、

これは、リタ(マルグリット)には凄く痛かった。


本人が凄く気にしていることだった。

リタ(マルグリット)は、元貴族令嬢。家事とかは全くやったことが無い。

べつに、努力を怠ったわけでもない。

そういうのを自分でやってはいけない身分だったのだ。


だが、貴族令嬢だったことは言い訳にはならない。

それは自分でもわかっているので、突かれると痛い。

すごく痛い!


だが、ダメージが無いように取り繕いつつ、カリーヌが話した風に話す。


「私は貴族の次女として生まれました。

 お姉さま同様、近隣の貴族の家に嫁ぎ、子を産み育てる。

 それが私の役目だと信じておりました。

 ”優良物件(ゆうりょうぶっけん)”であれば、既に相手くらい決まっている歳ですが」


「”優良物件(ゆうりょうぶっけん)”?」


優良物件(ゆうりょうぶっけん)”、そんな言葉は当然魔女様には通じない。

優良物件(ゆうりょうぶっけん)”の言葉の意味ではなく、”優良物件(ゆうりょうぶっけん)”とは言えない理由を続けて話す。


「まあ、いろいろあるわけで。

 実際お母様も暗殺されてしまいました。

 領主の娘とはいえ、安定した身分では無かったのです。


 そんな娘を貰いたい家は簡単には見つかりませんでした。

 まあ母が亡くなった今となっては、そのような人生とは無縁の身となりましたが」


家事ができない理由を説明したつもりが、魔女様は変な方向に興味を持ってしまう。


「嫁げば男を好きになるということか?」


そんなことを言われても、貴族にとっての結婚とは、

家の結びつきを強くするのが目的であって、好き嫌いでするものではない。

好きかどうかに関係無く、子供は両家の血を継ぐ。

両家の血を継ぐ子供が残せれば良い。

とは言え、それでも、できれば夫婦仲は良い方が良い。


「まあ、仮に嫁ぐことになった場合、そうなるよう努力はします。

 が、本当に好きになるかはわかりませんね……」


「好かなくとも良いのか?」


「好きか嫌いかは関係ありません。子を産み育てるのが貴族の義務」


「好かぬ相手でも、男と結婚すれば子供が生まれるということじゃな」


「はい?」


リタ(マルグリット)は何か違和感を持つ。

わざわざ結婚して、嫌いだから協力しませんというのは普通に考えて無い。

跡継ぎとなる子供を作るという共通の目的があるのであれば、協力するのが普通だろう。

相手が好きかどうかとは別の問題だ。

※というのがリタ(マルグリット)さんの常識です。


必ずしも好きな相手と結婚できるとは限らない。

普通に考えて、”結婚したからにはなるべくお互い助け合って生きましょう”という感じになると思う。

それは平民でも同じではないだろうか?


※平民もそんな感じだとは思いますが、魔女様はそう思っていないようです。

 魔女様は”お父さんとお母さんが愛し合って生まれたんですよ”

 くらいの解像感しかないのです。


……………………


魔女様が変な方向に興味を持ってしまったので話が逸れてしまったが、

そもそも、魔女様にリタの今までの暮らしを説明するのは難しいようだ。


リタ(マルグリット)が家事全般できないのは、”今までする必要が無かったから”で間違いないが、

それを魔女様に説明するのは難しいようだ。


そして、仮にうまく説明したところで、リタ(マルグリット)にはできないという事実は変わらない。


実際のところ、もう貴族令嬢でもないリタ(マルグリット)が貴族の義務を語る意味も価値もない。

リタ(マルグリット)は貴族令嬢としての教育しか受けていない。

そして、それを生かせるのは貴族という身分がある場合に限られる。


つい愚痴が溢れる。

「私には、貴族として生きるくらいしか、できることが無いのかしら」


この言葉にカリーヌが飛びつく。

「お嬢様?!!」(歓喜の表情)


カリーヌの表情を見て、その瞬間に理解した。

リタ(マルグリット)はちょっとまずいことを言ってしまったと後悔する。

「ああ、いえ、今のは愚痴です」


「お嬢様!!」(そうじゃなくての表情)


「先ほどの言葉は取り消します」


「お嬢様……」(一気に暗い表情)


「おぬしらが何の話をしておるかは知らぬが、カリーヌをいじめてはいかんぞ」

そう言って、魔女様がリタ(マルグリット)を見る。


「え? これ、私が悪いのですか?」


※踏んだり蹴ったり状態ですね!


……………………

……………………


「お嬢様」(普通の顔)


リタ(マルグリット)はカリーヌの話に先回りで答える。

「私が貴族になるのは難しいでしょう」


「いえ、その話ではなく」


リタ(マルグリット)は、カリーヌは間違いなく、それを望んでいることを知っている。

それ以外の話とは何だろうか?


「お嬢様、少しお耳をお貸しください」


「?」


「魔女様は知らないのではないでしょうか?

 なぜ男性と女性がいないと子供が生まれないのかを」


「どういう……」


「月のモノのこともよくご存じありませんでしたし、

 おそらく知識が無いのではないかと」


「え? ……あ」

リタ(マルグリット)の頭の中でいろいろ繋がった。


なぜ好きかどうかに拘るのか。

好きかどうかにかかわらず、子供はできるものだ。


貴族令嬢にとって最も重要な義務は、強い家に嫁ぎ、子を産み育てること。

だからある程度子供の頃から知っていた。

具体的な方法を知ったのは少し後だったかもしれないが。


貴族にとって血筋というのは極めて大きな問題であり、子供の間でも普通に使われる尺度であった。

それ故に、リタ(マルグリット)にとってはそんなのお子様でも知っていることだと思っていたが、

平民に血筋など関係無い。

リタ(マルグリット)だって、自分の屋敷で働く下女の血筋など気にしたことも無い。


子供の頃から人里離れて隠れ住んできた魔女様が知らない可能性は高い。

さっきの話も、好きにならなければ子供はできないような認識だったとすれば納得できる。


それに、知らないと考えた方が納得しやすい。


お子様のような恋愛観で、女性が女性を好きになるだけで火炙りになると思っていて、

女性が好きなだけで悪だと思っている理由。


魔女様に、貴族に嫁いで、好かない相手でも子を産むなどと言う話をするべきでは無かった。

急に、この話を続けてはいけないような気になる。


「ま、ま、ま、ま、魔女様、

 私が隠し持っていた菓子を献上いたします」


「お、おおお? 菓子か。それは良い。

 また買いに行かねばと思っていたのじゃ」


幸いにも、魔女様はお菓子で釣れた。

隠し持っていて良かったと思う。いざという時のために持っておいたものだ。

リタは少し安心したが、リタの考えはカリーヌには届かなかったようだ。


「お嬢様?」(ちょっと予想外の顔)


「お、お、お茶をーー!!! カリーヌお茶を!」

「お、お、お嬢様、どうしたのですか」

「あとで話しますから」


……………………

……………………


ひと段落した後、リタ(マルグリット)は、カリーヌに説明する。


「魔女様、物心つく前に大聖女様の養子になって、

 魔法や剣を習っていたけど8歳の時に大聖女様が亡くなって、

 そのまま森に籠ったの。たぶん、庶民の暮らしは知らないと思う」


「はい」


「たぶん、どうやって子供ができるのか知らないと思う」

「はい、そのように感じる時があります」


「お金を知らなかったのよ。

 それに、魔女様の好きって、あんまり性的な感情じゃないの。

 そもそも知らないからなんじゃないかって思って」


「はい」


「知ってしまったら、今の天使のような魔女様が失われてしまうような気がして」


「知ってどうなるかは、私にはわかりませんが、

 魔女様が変わってしまったら、私は悲しいです」


「でしょ?」

「はい」


「だから、そういうのはなるべく知られないようにしましょう。

 魔女様、子供欲しがっているわけでも無いですし、特に問題無いはずです」


「はい。かしこまりました」


※こんな感じで18禁な感じの内容は厳重に秘匿されることとなりました。


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