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88 Let's Cooking

「というわけで献立! 高野豆腐と牛肉の煮物、マニラ貝の味噌汁、翡翠茄子、ええと……なんかお腹に発光器官があってカウンターイルミネーション使ってそうな魚」

ヒカリアジ(プリートスーリ)ですね」

「そうそれ、プリートスーリの塩焼き! お好みで白米に梅干しやら納豆やらを合わせて食う! 以上!」


 若干塩分が気になるものの、栄養バランスなんかも考えられた結構良い献立じゃないだろうか。自分一人で食べるだけなら絶対にこんな考えない。適当にあら汁と、納豆をネギと魚の水煮のほぐし身と共に混ぜて塩か醤油で味付けしたやつで納豆ご飯にして、それで終わるだろう。

 人に料理作るって健康に気を遣うなぁ。嫌じゃないけど。


 洗って乾かした瓶に玄米を入れ、一番細い麺棒を用意し、それをラガルに渡す。

 立っているなら親でも使うし、それが若人なら尚更だ。


「というわけで。ほれ、ラガル」

「は? な、何だよ、これ……」

「精米頼んだ。ひたすらその棒で突いてくれりゃそれでオッケーだから。出来るところまででいいから頼んだよ」

「私もお手伝いしますよぅ!」

「ちなみに包丁持った経験は」

「ご令嬢が料理なんてするわけ無いじゃないですか! お止め下さいお嬢様!」

「クゥーン……」


 ユリストさんはシワシワ顔でしょぼくれてしまったが、正直料理長さんが止めてくれたのはありがたかった。

 アレンジャーと聞いた後だとね、手伝いでもちょっと不安になるからね……。


「干しキノコは本当なら丸一日かけて水で戻した方が良いんだけど、すぐ使いたい時はお湯に浸けて三十分くらい待てば大丈夫っしょ。高野豆腐は……三十分もあれば戻るか」


 味が染みこむ程美味しくなる煮物は最初に作りたいが、残念ながら干しキノコも高野豆腐も戻さないと使えない。干しキノコは熱湯に、高野豆腐は五十度くらいのお湯に浸けて待つしか無い。


 というわけで、同じく漬ける時間が欲しい翡翠茄子を最初に作ることにした。


「料理長さん、出汁に使える魚とか、海藻ってあります?」

「海藻の出汁は聞いた事がありませんが、ブイヨンやフォンに使うアラや干物ならありますよ」


 料理長さんの答えに、そういえば、と思い出す。


「ああそっか、割と西洋風な料理ばっかだし、そもそも海藻を食べる文化が無いのか……」

「ちょっとだけなら大丈夫だけど、あまり食べすぎると腸閉塞になっちゃうからね」

「そういや、外国人は海藻消化出来ないって聞いた事あるなぁ」


 ルイちゃんがさらりと腸閉塞とか怖いことを言ってきたが、日本人としては普通に消化出来るので炒らぬ心配だ。とはいえ、この場に居る私以外は食べられないと言っても過言ではないのかもしれない。

 ユリストさんにわかめと豆腐の味噌汁飲ませたかったけど、やめておいた方がいいだろう。海苔もアウトなら海苔を巻いたおにぎりもアウトか?

 ちょっとだけなら大丈夫らしいので、多分おにぎり一個に使う分くらいの量なら問題無いんだろうけども、どちらにせよ今回は使わないのでこの問題は置いておこう。


「ワカメなんかは健康に良いし、美味いんだけどねぇ。昆布出汁は特に日ほ……飛花の魂とも言える味だし」

「そのものを食べるんじゃなくて、お出汁を取るくらいなら大丈夫なはずだよ」

「つっても現物無いから、今回は魚介出汁オンリーかな。昆布と煮干しの合わせ出汁で漬けるのが美味いんだけどしゃーないか」


 とはいえ、魚介出汁オンリーでも美味いことには変わり無いので問題無い。単に私の好みというだけだ。何なら、現代なら市販の粉末出汁や顆粒出汁でも良いわけだし。

 私はルイちゃんに魚の骨と干物から出汁を引いてもらうことにして、自分は揚げるための油を準備する。


 和食を取り入れて新しいレシピを開発するべく、料理長さんを初めとしたシェフさん方数人がギャラリーとして観戦している。若干気になるが、意識しないように目を逸らす。

 いや気になるわ。緊張するわこの視線の数は。


 油を温めている間に、ナスのガクを取り、皮に縦に切れ目を三つ四つ程入れる。

 そしてそれをそのまま丸ごと、二センチ程度の深さの油で揚げる。流石に温度を測ることは出来ないので、ウィーヴェンに居る時にアルヴィンさんから作ってもらっていた菜箸を使い、菜箸を入れると大きめの泡が出るくらいに調整した。

 全体に火が入るように転がしながら揚げ、箸でつまむとふにゃふにゃするようになったら油から上げ、氷水へドボン。


 お貴族様のキッチンって素晴らしい。氷がある!

 いやルイちゃん宅にもあるけど、それはジュリアという貴族のコネがあったからで、一般家庭には存在しないからなぁ。普通、ファンタジー作品の基準だと魔法を使わないと氷が使えないみたいな事多いし、私は恵まれた環境に居る……。


 氷水に入れたナスの皮を剥くと、明るい黄緑色の果肉が現れる。どこか透明感のあるそれは今の季節にそぐわないものの、涼やかな夏虫色のような、薄緑系の翡翠色の中間くらいの美しい色合いをしていた。これが漬け地をたっぷり吸うと、もっと輝いて見えるのだ。

 皮を剥いたナスの水気を拭き取り四等分にしたものを、引いてもらった魚介出汁400ccに対し、醤油大さじ一、塩小さじ半分、砂糖小さじ一、みりんの代用として酸味の少ない白ワインに砂糖を3:1の割合で混ぜたものを大さじ二の配分で混ぜて一煮立ちさせた後に冷ました漬け地に漬け、冷蔵庫で寝かせておく。

 後は盛り付ける時に取り出せば完成である。一時間も漬けておけば芯までお出汁の旨味が隅々まで染み渡っていることだろう。

 盛り付ける時にはいつもミョウガや大葉、生姜なんかを添えていたが、今回は摺り下した生姜オンリーになりそうだ。


 干しキノコと高野豆腐を確認してみたが、もうちょっと時間がかかりそうだったので、先に味噌汁を作っておく。

 先程作ってもらった魚介出汁をそのまま流用し、洗ったマニラ貝を入れて火にかける。弱火と中火の中間くらいの火加減だ。

 アクが出るので丁寧に取っていくが、正直ここが一番重要まである。アク取りは料理の中で一番大事。雑にするとその分味も雑になる。

 暇そうにしていたモズにアク取りをさせている間に、私は白ネギを刻んでおく。今回はネギの香りが欲しいので、輪切りにする。

 全ての貝の口が開いたら一度火を止め、味見をしつつ味噌を溶き入れる。というのも、貝から塩分が出るので、普通の味噌汁と同じ量の味噌を入れるとしょっぱくなってしまうのだ。

 味見をした時に、味噌の味わいと、魚と貝の旨味がたっぷりと出た汁の美味さと懐かしさに、ちょっとだけ泣いた。

 後はネギを入れて、沸騰しない程度に加熱して完成である。


 何となく気になったので精米具合を確認すると、瓶には取れた糠が粉状になって米にまとわりついているのが見える。まだ若干茶色がかっているものの、ぱっと見ではほぼほぼ白米といって良いくらいにはなっていた。七分づきくらいだろうか。

 本来なら精米はとても時間のかかる工程だ。それこそ、こんな瓶と棒だけでやったら、丸一晩かかっても終わらないかもしれないくらいに。少なくとも、現代日本に存在する米はそうだ。十分ちょっとでこんなに精米が進んだのは、恐らく現代人にとっては都合の良い設定なファンダジー米だからだろう。


 これだけ白けりゃまあええやろ、とそこで精米は終了させた。

 ラガルが丹精込めて精米してくれた米をボウルにあけ、研いでいく。ネット小説で使われがちなタイトル並に長い曲名のお米タルを口ずさみながら研いでいたら、ユリストさん含めた私以外の全員から「えっ……何その変な歌……」とでも言いたげな視線を向けられたが気にしないことにする。

 米を讃美する音ゲーメタル曲やぞ。米を讃えよ。

 私は大雑把なので、その米賛歌の歌詞通りとはいかないが研ぎ終わったら、鍋に入れて水を注ぐ。

 七分づきである事を加味して水はちょっぴり多めに。中指の第一関節くらい分の水分量、なんてキャンプ動画やサイトで見た事あるが、これだと個人差があり、私の場合はちょっと固めになるのは実体験済みなので第一関節+三分の一、更に今回はもうちょっと多めにするので第一関節+三分の二にする。諸々の料理が終わる頃には良い感じに水を吸ってくれている事だろう。

 もし炊き上がりが多少固かろうが柔らかかろうが食えりゃええねん。おじやにでも変換すりゃ食える食える。


 干しキノコと高野豆腐が戻ったので、いよいよ煮物だ。

 牛肉を炒めてもらっている間にニンジンの皮を剥いてちょっと厚めのいちょう切り、白ネギを斜めに切り、戻した干しキノコは軸を取って傘に十字の切れ込みを入れて半分にする。牛肉に火が通ったら、それらを投下して炒める。

 火が通ったら醤油、砂糖、調理酒代用の白ワインを大さじで一:一:一の割合×人数分と水120cc×人数を入れ、一煮立ちさせてアクを取り、よく絞って一口大に切った高野豆腐をin。

 落とし蓋をして十分程弱火で煮込んだら、これだけで完成である。本当ならインゲン豆と薬味ネギがあれば緑が入って色合い的に良くなるのだが、残念ながら無かったので今回は諦める。薬味ネギは代用として、白ネギの緑色の部分を刻んで散らせば良いだろう。


 焼き魚は塩振って焼くだけなので後回し。翡翠茄子も煮物も時間を置いても問題無い、というかある程度なら時間が経つほど味が染みこむのでむしろ時間を置きたい。味噌汁も温め直した所で味は変わらないので問題無し。


 というわけで、ようやくお米様の登場だ。

 最低限ではあるが水を吸ってくれたようなので、鍋に蓋をして中火にかける。鍋から泡が漏れてきたらそこから二分、少し火を弱めて更に三分、更に火を弱めて五分から七分。この目が離せない感じが炊飯器では味わえない、心の栄養になる手間暇を感じる。

 一度蓋を取って確認して、水が残っていないようなら蓋を戻してほんの十数秒程度加熱して鍋の中を温めて、蒸らす。折角だしおこげを作りたいので、再加熱時間はちょっと長めに。

 そうして十分も蒸らせば、お米様はふっくらと炊き上がる。この蒸らしているうちに魚を焼いてしまえば、トワさん特性異世界和風定食が完成だ。

ご清覧いただきありがとうございました!

先週はまるまる一週間更新が出来なくて申し訳ありませんでした。

遠方の親族の葬式だったので、流石にね……。執筆データは全部PCに入っているので執筆が出来ませんでした。


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