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80 幾何学模様

 冒険者ギルドに入った私達は、受付でジュリアが手続きを済ませた後、中年の生真面目そうな職員さんに連れられて個室へと案内された。

 ウィーヴェンの冒険者ギルドより少し広めの応接室で、所々に異国情緒溢れる品々が、喧嘩しない程度に飾られている。貿易都市の名に恥じない雰囲気だ。


 挨拶も早々に、職員さんは持って来た小箱を置いて、書類を確認しながら報告を始めた。


「例の件についてですが、討伐したラプトレックスは、シュライン子爵が運営していた違法闘技場で飼育、及び繁殖していた個体のようです」

「ああ、シュライン子爵か……彼は確か、聖女派の貴族だったな。しかし違法闘技場とは……」

「人同士や人対魔物だけでなく、人魔混合バトルロワイヤルなんかもしていたらしいですよ」

「ビッグスケール蠱毒かよ」

「さぞかし迫力があっただろうな」

「でしょうね。相当稼いでいたようですし」


 そうぼやく職員さんの発言から察するに、闘技場と言っているが、実態は競馬みたいなものなのだろう。


「まあ闘技場に関しては我々の管轄ではないので、こちらの件は既に騎士に預けてます。問題は、竜玉の方ですよ」


 書類をめくりつつ、職員さんは続ける。


「解剖調査をした所、ゴーレム核を飲み込んでいたことが分かりました」

「ゴーレム核だと?」

「動かなくなったゴーレムの廃棄先はいくつかありますが、そのうちの一つがシュライン領にあるんです。脱走したラプトレックスが誤飲したか、生態的に、石の代わりに飲み込んだのではないかと思われます。まあ、このおかげで出現経路がわかったわけですね」


 一息置いて、続ける。


「で、ここからが問題でして……調査の結果、竜玉にゴーレム核に刻まれている回路が複写されている、ということです」


 回路が複写、という言葉に、一つ思い当たる点がある。

 魔眼の刻印を使って竜玉を見た時に、幾何学模様が見えた事だ。


「これが胃から摘出したゴーレム核で、こちらが同個体から摘出した竜玉です」


 職員さんは持ってきていた小箱をテーブルに置くと、蓋を開けて中身を見せる。


 右側にはピンポン球サイズで、暗い金色で見覚えのある幾何学模様が浮かんでいる透明な魔石が鎮座している。どことなく曇っているように見えるのは、魔力が枯渇した状態だからだろうか。

 左側には、見覚えのある赤黒いく濁った竜玉が鎮座していた。


「魔力を流すと分かりますが、竜玉に複写された回路は未だに機能しています。恐らくこれが原因で凶暴化や異常行動が見られたのではと考えられています」


 両方を手に取って私達に見せるように掌に乗せると、魔力を流し始めたのか、ゴーレム核の幾何学模様が明るい金色に光り、竜玉の方は銀色の幾何学模様がまだらに浮かんだ。見比べてみると、それがほぼ同じ模様だということが分かった。

 竜玉の方はそのままだと幾何学模様が見えず、魔眼の刻印を使わないとその存在を認識出来ないが、こうして魔力を流す事によって判別が可能になるようだ。


「具体的には?」

「禁忌とされている精神支配系の呪文(スペル)に近い影響が出るようですね。本来の思考が回路によって指示される行動に不完全な状態で上書きされたため、精神が錯乱し暴走したのではないかと、調査に携わったゴールドランクの術師は報告しています」

「ゴールドランク……なら信憑性は高いか」

「プラチナ冒険者にも見解を聞きたいところですね」

「そんな最悪なミラクル、起こるもんなんですか?」

「回路の技術は詳しくありませんが、あれは魔力自体に特定の性質を与える、刻印に近い技術です。刻印がオドにも影響するものですから、回路が生物にも影響してもおかしくはありません。……こうなるまで、誰も考えつきませんでしたが」

「誰かしら思いつきそうなもんですけど……」

「そもそもゴーレム技術自体、ここ十数年で開発された新しい技術なんです。分からない事の方が多いんですよ」


 そんな不明瞭な技術、使ってて大丈夫なんか!? いや大丈夫じゃないからこんな事起こっているんだけどさ。

 いや、現代でも仕組みが分からないけど使っていたり、危険性があるけど使っているものなんて沢山あるけども。麻酔然り、原子力発電然り。


 職員さんに許可を取り、私もゴーレム核と竜玉を手に取って確認してみる。

 私自身は魔力操作の技術がからっきしなので、代わりにモズに頼んで魔力を流してもらい、幾何学模様が光る様子を観察する。


「はぇー、回路が起動してる時はそういうオモチャみたいに光るんだ。……ん? もしかしてここの部分はクロック回路で、ここからNOT回路……かな? よく見るとちゃんと回路してるんだな、これ」

「ゴーレム技術に明るいんですか?」

「いや詳しい訳じゃ無いですけど、似たようなのをいじってたことがありまして」


 回路二関しては、世界一有名なクラフトサンドボックスゲームに工業化MODを入れて遊んだ時に、少しだけ知識を仕入れた程度にしか知らない。

 自分で回路を作るとかは無理。作っている最中で訳分からなくなるんだ、アレ。自分が作った回路が動かないと、どこかどう悪いのかとか一切分からん。


「これをゴーレム本体に装着すれば起動するんですか?」

「うんにゃ。切れちょる(・・・・・)から無理じゃ」


 職員さんに問いかけたのだが、彼が答える前に、今まで静かにしていたモズが口を開いた。


 回路である金色の幾何学模様をよくよく観察してみるが、模様は途切れなく美しい紋様を描いている。

 モズが言うことを信じるならば、恐らくこれ自体はケーブルのような構造になっていて、中身が断線しているような状態なのだろう。


「そういえば、モズには廃棄魔素が見えるんだっけか。回路が壊れてるか否かまで分かるなんてなぁ……」

「この子にはそんな力があるのですか? それが事実だとしたら、原因の究明が進むかもしれません。是非協力をお願いします」

「構いませんよ。モズ、職員さんの質問に答えてやって」

「おん」

「協力してくれてありがとう。聞きたいんだけど、ボクにはこれが、どんな風に見えているのかな? おじさんに教えて欲しいなぁ」


 モズに話しかける際に職員さんは生真面目そうな顔をニコニコ笑顔で崩し、いかにも子供好きのおじさんといった声色に変わった。別人かと思うくらいの変わりように、私もジュリアも一瞬驚いた。

 真面目なイメージは崩れ去り、家庭を持っているのなら普段から親馬鹿してそうな印象に塗り替えられる。絶対子供を溺愛してるでしょこの人。娘が恋人を連れて来たら「お前に娘はやらん!」って言うし、息子が恋人を連れて来たら情報収集に長けた冒険者を雇って身辺調査をするし、孫が出来たら孫馬鹿になるタイプだ。


「モヤモヤしちょる」

「えっと……他には?」

「かいろ? があっちこっち切れちょる」

「もうちょっと詳しく説明出来るかな?」

「くわしく」

「そうだった、モズは語彙が年相応だった……」


 モズは奴隷契約する前の環境と年齢のせいか、語彙が少ない。更には口数も少ないので、本人に自覚は無いが、こういった説明という行為は不得手だ。


 あまり口が回る方では無いと察したらしい職員さんは、生真面目フェイスに戻り、保護者である私に問いかけてくる。


「絵を描かせて図説は出来ませんか?」

「この子、画伯なんで……」

「なら問題無いのでは?」

「ああいや、逆の意味です」

「ああ……まあ、子供ですからね」


 そう。モズにはもう一つ、致命的なレベルに不得手とするものがある。

 お絵描きだ。普段、私の真似をして絵を描いたりするが、子供が描いた絵と言い張るのも難しいレベルでぐっちゃぐっちゃの何かしか描かない。

 本人的にはそっくりに描けているのか、心なしかドヤ顔をするのだが、どれも使っている色が体色の化け物に見える。恐怖すら感じる程だ。


 何か良い案がないかと少し考えて、ある方法を思いつく。


「そうだ、『千里眼』の刻印使えば視界ジャック出来る! そうすればモズの見てるものを私が説明出来る! それにほら、私だったら図説も出来る程度の画力はありますし!」

「名案だと思うが、人に千里眼の刻印を刻むなんて聞いた事が無いぞ。出来るのか?」

「スライムとヘーゼルで動物実験して成功してますんで、大丈夫かと!」


 私は書き写した刻印を、必ず性能の検証を行うようにしている。

 文章で効果を把握することは簡単だが、実際に使ってみない事には使用感が分からないし、刻印共鳴はどの組み合わせで発動するのかを研究するためにも、実際に使ってみることにしたのだ。

 何より、ぶっつけ本番で使って「思ったより効果が無かった」なんて事になったらまずいし、特に戦闘中は生死に関わる致命的な状況に陥る可能性がある。


 そんなわけで、千里眼の刻印が某サイレンの鳴り響くホラーゲームの視界ジャックのような使い方が出来ると知っているのである。


「刻印入れるよー、はい目ぇ開けてー」

「ん」


 普段から持ち歩くようにした手作り刻印図鑑からモズにカメラ側の刻印を【複製】し、モズに【固定】する。

 これだけでは何の効果も無いはずだが、念のため確認をする。


「大丈夫?」

「へんなかんじする」

「マ? おっかしいなぁ、ヘーゼルは何の変化も無いって言ってたのに……モズは色々見えるから、その影響かな。大丈夫?」

「へいき」

「何か違和感があったらすぐに言うんだよ?」

「おん」


 一抹の不安を覚えるも、人体に害を成すような刻印でもないし、とモニター側の刻印を【複製】する。

 そしてそれを、自分に【固定】し――。


 その瞬間、私は意識を失った。

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