75 善意も過ぎれば毒になる
※お知らせ※
というわけで総合評価が100pt突破してたので、記念にイラスト描きました。
これまで評価、及びブクマをしてくださった方々、本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
また、今まで評価をしていなかった・ブックマークをしていなかった方々。
今からでも遅くないので是非よろしくお願いします!!
評価ptやブクマなんてなんぼあったって良いですからね。私は幸せになってモチベが上がりその情熱が作品に反映されるし、読者の皆様は善行を行ったと満足感を得られる上に徳が積まれ、もしかしたら更に面白い小説が読めるかもしれない可能性が出てくる。
良い事ずくめなので評価ブクマしましょう!
私達は一連の出来事に、全員が何を言って良いか分からないようで顔を見合わせて、しんと静まり返ってしまう。
そんな静寂を破ったのは、やはりというか、ベアード神父だった。
「……私が言った言葉の意味を、理解しましたか?」
ヘレンに向かって言った言葉は、詰問するでもなく、呆れているでもなく、純粋に問いかけるような声色だった。
しかしヘレンは弁明するように、本編でも滅多に見ないような動揺っぷりで声を荒らげる。
「ですが消極的だった方も、治療を施せば皆喜んで下さってました! 彼もきっと私の治療を受ければ――」
「シスター・ヘレン」
静かに、しかし有無を言わさない声色で名を呼ばれ、ヘレンは途中で言葉を飲み込まざるを得なかったらしい。
口を噤んだ彼女に、諭すようにベアード神父は続ける。
「これ以上は、お客様の前ですから控えて下さい。あなたとは後で、もう一度深く話し合う時間を取りましょう」
「でもっ……いえ、かしこまり、ました……失礼いたします……」
ヘレンは何か言いたげな様子だったが、無理矢理了承の言葉を絞り出し、逃げ出すように部屋から出て行ってしまった。
部屋から出て行ってしまうのは誤算だったのだろう。ベアード神父は一瞬引き留めようとしたのか、手を伸ばしかけて小さく声を漏らしたが、すぐにやめて、小さくため息を漏らしてから、困ったような笑みを浮かべて私達に向き直った。
「この度は、我が教会のシスターが失礼をしました」
「エッ、いえそんなこと! こちらこそ、うちの連れが申し訳ありませんでした」
「ははっ。確かに真正面から『嫌いだ』と発言するのは、少々よろしくありませんでしたね。ですが、彼女には良い薬になったでしょう」
そういえば、ついさっきも「言葉の意味を理解したか」と聞いていた。私たちが来る前に、個人面談的なことでもしていたのだろうか。ベアード神父も最初に「視察に来た」と言っていたし、抜き打ち調査として訪問してたのかもしれない。
だとしても、ちょっと今回のはヘレンの評価を下げてしまう出来事だった。彼女には申し訳ないことをしてしまった。
ヘレンは性格が悪い訳では無い。むしろ世間一般的には「良い人」のお手本のような人だ。
金銭なんぞ二の次三の次。無償の奉仕を進んで行い、人助けのためにその優れた力を振るうのだ。一般人なら「こんなボランティアやってられっか」と匙を投げるような事だって二つ返事で了承し喜んで行動する。ちょっと傲慢で、親切を押し付けがちな所はあるけれど、相手のことを思ってやっているのだから悪意は一切ない。
ただちょっと、ラガルティハがそういうタイプの人を逆に疑ってしまうような天邪鬼で、善意をわかりやすく前面に押し出してグイグイ来られると警戒しちゃう性質なだけなんだ。
まさか拒絶するにしても、あんな風に噴火するとは思っていなかっ……いやちょっと予想はできていたけども。キレる時はギャンギャン喚くタイプだとは思っていたけども。あんな電気ケトル並の湯沸かし性能だとは思わなかったんだ。
あっ、アレか。煽り耐性ゼロだからかな……。
「ところで、今回彼をこちらに連れて来たのは、どなたでしょうか」
「発端と言えば、私ですかね」
「それは、彼が自ら『翼を治したい』と言ったから?」
「いえ。元々翼が奇形だったこともあってコンプレックス持ちではありましたけど、翼を切除した事にかなりのショックがあったみたいですし、治してもらったら精神的にも安定するんじゃないかと思いまして」
「そんなに不安定な時期があったのですか」
「……言われてみれば、最初はショックを受けてましたけど、今は……思ったより、落ち着いて、いますね」
思ったより、と言ったのは、本編のラガルティハと比べてそう感じたからだ。
本編のラガルティハはもっと鬱屈としていて、神経質で、例え人と交流を持ったとしても、一度でも嫌な思いをしたら以降一切関わらないようにするような奴だった。
それが、今はどうだ。
仕事で何回も失敗をやらかしても逃げようとはしないし、苦手意識を持っているジュリアとはまだマトモに喋れていないものの、彼女を避けようとする様子は見られない。
推しカプフィルターというバイアスがかかっていたせいで気付いていなかったが、今のラガルティハは、本編よりかなり丸くなっているのだ。
「てっきりルイちゃんセラピーのおかげだとばかり……」
「いえ、彼女が安定剤になっていたのは間違い無いと思いますよ。彼女のことをかなり信用しているようでしたから」
そりゃああんなブチギレながらクソデカ感情叫んでいたらそう思うわな。多分母親を除くと一番信用していると言っても過言では無いと思う。
ベアード神父は手を組み、少し前屈みになるような体勢になって、私に優しいまなざしを向ける。
「人はそんなに弱い生き物ではありません。今は少々頼りなく見えるかもしれませんが、もう少し、彼を信じてみては如何でしょうか」
何この神父様のお手本のような人。神父様だったわ。
いやそうじゃなくて。
確かに言われてみれば、本人の意志をあまり確認せずに敢行していた自覚はある。原作に少しでも近づけなければという意識から動いたが、だからといって、ラガルティハの苦手とする善意の押しつけをしていなかった訳では無い。純粋に、彼の翼を治してやりたいという気持ちの方が大きかったのだから。
言ってしまえば、推しだからこそ大事にしたい、という気持ちが強かった。
ラガルティハのバックボーンも知っているし、どういう性格なのかある程度の理解もあるし、何より、純粋に好意を持っている相手だ。画面越しなら単に「可愛い」で済んでも、実際に交流すると、庇護欲というか、そういった感情も湧いてくる。ルイちゃんに対して後方保護者面をしていたせいか、ラガルティハもまとめて保護対象と認識していた所もある。
今まで自分の行動をそこまで気にしてはいなかったが、もしかしなくても、過干渉じゃなかっただろうか。友人を作るのは下手だけど、オタクの性として一度惚れ込んだ推しには恋人以上に入れ込むからな、私……。
私自身はコミュ障という訳では無いが、元々人間関係は浅く狭くなタイプだったし、ここまでガッツリ人に関わる事なんて無かったから、どこまでが正解でどこまでがアウトなのかがイマイチ分からない。私は雰囲気で人間関係を構築している。
その対人スキルを鍛えてこなかったツケが、こんな大事な相手の時に回ってきたという事か。
「正直『自分が何とかしてやらんと』って変な責任感を持ってましたね……うわー……私のやってたこと、完全に過干渉タイプの毒親じゃん。マジかー……自分だけは絶対そういうタイプになりたくないって思ってたのに……」
「秘密主義が災いしたな。トワ、君はもう少し人に相談するという事をだな」
「ま、まあまあ、ジュリア様落ち着いて! ラガルくんのことを思っての行動だったんですから! ね?」
「お嬢さんの仰る通りですよ、そう気を落とさないで下さい。それに、彼もここまで来たということは、どうしても翼を治したくない、という事では無かったのだと思います」
ベアード神父の言葉に、馬車の中で言っていたラガルティハの言葉を思い出した。
彼は翼が治ったことでルイちゃんとの関係性が変わるのが嫌で消極的になっていただけで、別に治したくないとは言っていなかった。一頻りベショベショに泣いた後はかなり落ち着いた様子で、嫌がるような素振りは見せていなかったし。
……そうだと良いなぁ。嫌われてたらどうしようね、本当……。
冷静に受け止めているつもりだが滅茶苦茶落ち込んでしまうわ。
「彼は良き友を得られたようですね。彼ならばきっと、シスター・ヘレンの治療を受けずとも大丈夫ですよ」
「良き友で居られてますかね、私……」
「勿論です。彼のことを思いやれて、失礼なことをしたと思ったら反省することが出来るのですから」
優しみを感じる……。
初対面の相手なのにめっちゃ慰めてくれるやんこの熊おじ……好き……。
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