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73 地に足をつけて

 翌日。私達は馬車に揺られて、都市の外れの方にある教会へと向かっていた。

 馬車内には先日の旅路の時と同じ、私とモズ、ルイちゃん、ラガルティハの四人。ジュリアとユリストさんは別の馬車に乗っている。


 暇つぶしのおしゃべりで私がヘレンについて知っている事を、ゲーム内情報を含めつつ話している途中で、ルイちゃんはラガルティハの異変に気が付いた。


「ラガルさん、どうしたの? 具合悪くなっちゃった? 顔色が良くないよ」

「う……その……」

「酔い止め持ってきてるけど、飲む?」

「いや……」


 前髪は目が隠れそうなくらい長い上にいつも俯きがちで、更にアルビノ特有の生白い肌に加えて元々の血色の悪さから、ラガルティハの顔要るが良くないなんて私には一切気づけなかった。

 むしろお出かけ直後は日焼け止めを塗り忘れていて、その結果ルイちゃんに塗ってもらうというイベントを経たおかげで、大変恥ずかしがりながらも滅茶苦茶喜んでいた印象しかなくて、旅路の道中でも車酔いは一切していなかったので、具合が悪くなるなんて一切予想していなかった。


 隣に座っていて、身長差的に顔を覗き込むのが容易とはいえ、そんなラガルティハの異変に気付くなんて流石というか何というか。

 細かいところに気が付いて気配り出来るといいう、恋人にしたい人の性格ナンバーワンのそれをナチュラルに出来るとかやっぱすげえよ。

 そりゃどんなカップリングでも合うわ。この世界に来る前から知ってたけど。


 ちなみにラガルティハは基本顔くらいしか肌の露出が無いので、顔を余すこと無くルイちゃんから素手で撫で回される事になっていた。

 耳まで赤くなっていたが一切抵抗すること無くされるがままで、塗り終わった、つまり撫で撫でよしよしタイムが終わった後は、物足りなさそうにルイちゃんをしばらく見つめていたのを私は見逃さなかった。モズから「ねえちゃん、顔」とツッコまれるくらいにはガン見してた。


 ごちそうさまでしたもっとくれ。ラガルイもっと。くれ。酸素くらい摂取させてくれ。


 それはともかく。

 ラガルティハは具合が悪いというよりは、どこか落ち着きが無くソワソワとしている様子から、緊張しているようだと私は思った。


「そう緊張せんでも大丈夫だよ。今言ったみたいに、シスター・ヘレンは優しい人だから」

「……そうじゃ、なくて……」

「もしかして、シスターさんに会いたくない理由があるの?」


 ルイちゃんの問いに、ラガルティハは沈黙する。

 否定の言葉は出ない。ラガルティハの面倒臭い性格をある程度は理解しているという自負がある私には、その沈黙が肯定であるように聞こえた。


 そういえば、ラガルティハは折角翼が元通りになる可能性があるというのに、最初から何故か乗り気では無かった。

 この際だから聞き出そうと口を開きかけたが、先にルイちゃんが発言する。


「もし翼が治ったとしても、それで何が変わるって訳じゃないから大丈夫だよ」


 そう言ったルイちゃんに、ラガルティハはわずかに目を輝かせて顔を上げる。


「……本当、か?」

「うん。間違っても、家から追い出したりなんてしないよ」


 帰ってきた言葉に、ラガルティハは心の底から安堵したように小さくため息をついた。


 えっ。もしかして、翼が治ったら「元気になったんだし一人で生きていけるよね! それじゃあお別れだね! バイバイ!」とか言われるのかと思っていたのか?

 こ、この男面倒臭え~~~~~! 被害妄想乙!


 確かに悲観主義者で超絶ネガティブなラガルティハ的にはそう考えてもおかしくは無い。

 おかしか無いけど! ルイちゃんはそんなこと言わんじゃろがい解釈違いです! そこまでネガティブ思考突き抜けてると逆に清々しいな!


 安心したと思ったが、ラガルティハは再び少し目を伏せて、ぽつりぽつりと呟くように話し始める。


「……羽の……。羽が、元に戻ったとして……。飛べもしない、見た目が気持ち悪いだけの羽が増えたとして……それでも、か?」

「それでもだよ」


 少し言い淀みながらも問いかけた言葉に、ルイちゃんは即答する。


 ラガルティハの言葉を聞いて、ああそうか、と彼の思考をある程度推測できた。

 多分、五体満足健康体になったから放逐されるという被害妄想だけでなく、翼が戻ったとしても奇形の翼だったらどうしよう、と不安を感じ、もしその外見で嫌われてしまったら、と更にネガティブ思考を加速させたのだ。


 ルイちゃんに嫌われるくらいなら翼なんて元に戻さなくて良いし、現状維持のままでいたい、と保守的になっていたのだろう。

 だから最初から翼を治す事に乗り気では無かったのだ。それが、文字通り羽無し(ラガルティハ)になるとしても。


「羽無しのトカゲが、飛べない竜になるだけだぞ……?」

「羽があっても無くても、飛べても飛べなくても、ラガルさんはラガルさんでしょ? 何も変わらないよ」


 アッもしかして最初の「もし翼が治ったとしても、それで何が変わるって訳じゃないから大丈夫だよ」って、そういう意味!?

 単に今の関係性から変わることないよって言っているんじゃなくて、翼が有ろうが無かろうが、その翼が奇形だろうがそうで無かろうが、ラガルティハはラガルティハのままだっていうニュアンスだったんか! もしくはその両方にかけてるんじゃね!? 


 どちらにしたってラガルティハの欲する言葉であることには変わり無いけど、どちらにもかかってる言葉を最初に言えるってすげえよ。メンタリストルイちゃん……。


 いや、ルイちゃんはそこまで深く考えて発言したんじゃないと思う。無意識に相手の気持ちを汲み取って無自覚に核心を突いてるだけだ。

 いや無自覚でそんなことが出来る方がすげえわ。こーの人誑しめ! 好き!


「それに飛べなくったって、生きていく方法は沢山あるし……私も一緒に、そういう生き方を探すから」


 ねえそれプロポーズしてます?


 このさぁ、翼があって自由に飛べる子がさぁ、自らの意志で飛べない子に「一緒に大地で暮らそう」って言うのさぁ、自己犠牲をも厭わない献身と慈愛を感じられてめっちゃエモくない? 語彙も溶けるわ。

 こんなんもうプロポーズの言葉と一緒じゃん。結婚する? 今から教会行くんだし挙式挙げる? 一生一緒に居てやってくれや。


 そりゃラガルティハも嬉し泣きするわ……ってマジで嬉し泣きしてる!? 最初は鳩が豆鉄砲を食ったようなぽかん顔だったのに、一粒の涙がぽろりと零れてからはもう涙が溢れて止まらないやつ!

 ルイちゃんもハンカチで顔拭いてあげながら「ご、ごめんね!? 嫌な事言っちゃった!?」ってめっちゃ慌ててるよ。

 しゃくり上げながらも辛うじて「違、ちがう……嫌じゃ、ない……」って言えてなかったら完全に酷いこと言ってしまったって勘違いしちゃってたやつだよこれ。


 モズが肘で小突いて「ねえちゃん、顔」と囁いてくれなかったら歯茎スマイルをモロ出しするところだった。危なかった。


 一頻り泣いて落ち着いた後、腫れぼったくなった目元と充血してしまった目にヒールポーションを使い、涙と鼻水で落ちてしまっただろう日焼け止めを塗ってあげて、鼻声以外は出かける前に戻った。


「私のお父さんもね、鳥人種だったけど飛べなかったの」

「……そうなのか?」

「うん。そのせいで周りから笑われていたって言ってた。でも腕っ節が強かったから、若い頃はそれを活かせる冒険者をやってたんだって」

「冒険者……? でもあの店、父親から受け継いだって……」

「怪我で足を悪くしちゃったから引退することになって、それで薬屋を始めたの。冒険者時代も簡単なポーションくらいなら自分で作る程度には知識があったから、引退したら薬屋をするって決めてたって言ってたよ」


 ルイちゃんの父親は自身への偏見や嘲笑の経験から、ルイちゃんに人を見た目や能力だけで判断してはいけないと教えていた。一人でも自分のような思いをする人が減るように、一人でも自分のような人を労れる人が増えるように。

 それが巡り巡って今、ルイちゃんがラガルティハに寄り添っている光景に繋がっている。


 尊いなぁ。たまらんなぁ。


 そういえば、とある事に気付く。

 ルイちゃんの父親については時折話を聞く機会があったが、母親については一切聞いた事が無い。


 言うて私もこの世界に来てから、まだ半年も経ってない。たまたまそういう機会が無かっただけだろう。

 良い機会だと思い、私は聞いてみることにした。


「ねえねえ、そういやルイちゃんのお母さんについては聞いた事無かったけど、どんな人だったの?」


 父親はゲーム内描写や実際に聞いた話的に結構厳ついタイプの見た目らしいし、ルイちゃんの外見は母親似だろう事は予想出来る。

 ルイちゃんに似て童顔だったのだろうか、それとも案外隔世遺伝で似ていないのだろうか。性格面に関しては、ルイちゃんがお人好しで大変庇護欲を煽る手弱女に育ったんだから、少なくともその人格形成に影響を与えるような一面はあっただろう。


 そんな風に期待に胸を膨らませていた私だったが、ルイちゃんの表情が固まっている事に気付き、何やら不穏な雰囲気を感じ取って私も表情が固まった。

 それはラガルティハも同じようで、ようやく緊張が解けたはずだったのに、少し不安げに眉尻を下げてキョドキョドと視線を泳がせる。

 二、三度口を開きかけて、やめてを繰り返した後、ルイちゃんは答える。


「……ごめんね。あんまり、あの人のことは話したくないの」


 そうぎこちなく曖昧に笑って言葉を濁しつつも、はっきりと感じる拒絶を感じる返答に、私は悟った。


 これは、地雷だ。それも特大の。


 ゲーム・現実通して初めて見せる反応に盛大に動揺してしまい、「お、おう」と明らかに動揺を隠せてない反応を返してしまった。


 いやだって、確かにルイちゃんも人の子だから、他人に対して「怖い」とか「苦手」と感じる事もあるけれど、話題を出したくないほど「嫌い」なんて悪感情を抱く相手が居るなんて、しかもそれがよりにもよって実の母親が相手だなんて思いもしなかったんだ。

 人に対して空のように広い心を持つルイちゃんが嫌うだなんて、一体何をしたんだ、ルイちゃんの母親は。口に出したくない程嫌われるなんて、余程の事をしでかさない限りそうそうそんなことにはならないぞ。


 逆に気になってしまう。藪蛇な事は確定的に明らかなので聞かないが。


 人格形成に云々なんて色々考えていたが、これは、アレだ。反面教師ってパターンだ。私はそういうのに詳しいんだ。


 ……それにしても、父親に愛されて母親が地雷のルイちゃんと、母親に愛されて父親に拒絶されたラガルティハか。

 なんとも対照的でありながらも非常に似通ってて大変よろしい。恋愛感情を抜いたとしても、そんな二人が並び手を繋いで歩くような関係性、実に健康に良い。


 やっぱりラガルイって最高だな!

ご清覧いただきありがとうございました!

ラガルイ回は飯テロの次に書いてて楽しいです。

ウォルイも早く書きてえ~~~~~!


ちょっと面白そうじゃん? と思った方はブックマークをよろしくお願いします!

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