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67 貿易都市バラット

 ウィーヴェンを出発してから三日目の昼。

 私達はついに、交易都市バラットへと到着した。


 始めて見る海に興奮して、目を輝かせてルイちゃんははしゃぐ。生憎の悪天候のせいで、本来エメラルドグリーンだっただろう海はオリーブグリーンに見えるが、きっと晴れていれば、それは美しい光景だっただろう。


「わぁ……! 私、海を見るの始めて! 本当に空の向こうまでずーっと続いているんだね!」

「今は雪が降ってるからちょっと濁って見えるかも知れないけど、夏だったらもっと透き通って綺麗なエメラルドグリーンに見えるんじゃないかな。夏だったら海水浴にピッタリなロケーションじゃん」

「海水浴? 海に入るの?」

「うちの地元じゃ夏の風物詩だったよ。こっちだと、プライベートビーチを所有しているお貴族様しか出来ない行楽だから、一般的では無いと思うけど」


 一応、夏イベとして水着イベントもあったが、世界観的に女性が下半身を晒すのは破廉恥極まりないとされているので、女性キャラはパレオを巻いているのがデフォルトで露出が低く、女性キャラより男性キャラの方が露出度が高いという珍しいことになっていた。何なら日焼け防止の上着だって着ていた。

 それで結構炎上したんだよなぁ……悲しい記憶だ。最初に実装された女性水着キャラがセクシー路線で売ってたキャラクターだっただけに、エロい衣装を期待していた人が多かったのだ。

 公式が「キャラクターの魅力を引き出すために、過度な露出より全体的なシルエットや優美さを前面に出し、且つゲームの世界観を壊さないようにデザインした」と明言してくれたのは、世界観が好きでプレイしているオタクとしては嬉しかったけれど、売り方としてはどうだったんだろう。インディーズからのし上がった会社だからなぁ……。

 それの影響か、ゲーム内で「最近は足を見せるのが流行りつつある」といった発言を出して、徐々に女性キャラの露出を増やしていっているような気はする。

 でもプロスタには作品の世界観に自信を持って欲しい。誰かの意見に左右されてねじ曲げたものじゃなくて、プロスタ制作チーム自身の性癖を詰め込んだものをお出ししてほしい。私はプロスタの作る作品が好きだからやってるんだ……。


 それはそれとして、早く夏イベ告知で描かれてた麦わら帽子に白ワンピース姿な避暑地のお嬢さんスタイルのルイちゃんを実装してくれ。頼む。


「まあ海水浴は流石に時季外れだけど、この時期にしか見られないものがあるかもだし、暇が出来たら海岸に行ってみようか」

「何が見られるんだ……?」

「波の花。つっても、本当の花じゃなくて、ただの泡だけどね。でも、たまには風流を感じるのも悪かないっしょ」


 そう話している内に、検問所での手続きは終わり、馬車は都市の中へと入っていく。


 入ってすぐの所に、早速いくつもの露店が出ている。王道な料理を売っている店から、冒険者向けにポーションや武器を販売してる店、中にはアーティファクトらしき物品を取り扱っている店もあるようだ。


 冬だというのに、まるで正月の初売りのように人々が行き交い、馬車の中に居るというのに人々の声が届いてくる。

 賑やかな人の往来に、何となく、日本のスクランブル交差点を思い出した。


「雪降ってるのに、結構活気があるねぇ」

「あっ、見て見て! あそこの商店、見たことの無いデザインの服が沢山あるよ!」

「おお、ロシアンな感じ! 近くで見てみたいなぁ……時間できたら行ってみようか」

「な、なあ、アレ凄いぞ! 金ピカなのがいっぱいだ!」

「あっちはエジプシャンな感じの金細工店かな? ラガル好きそ~。おっ、アンクとかスカラベモチーフのもあるし、本格的じゃん」

「ねえちゃん、トカゲが歩いちょる」

「すっげー! 下手すりゃ魔物と間違われるレベルのケモ度バリ高爬虫種じゃん! ARK TALEだとケモいのは大体犬猫鳥だからレアだよレア! しかも筋骨隆々ガチムチボディ! グヘヘ、たっまんねえなぁオイ!」

「……なあ、コイツって、ああいう見るからに怖い奴が好きなのか?」

「トワさん、自分の恋愛沙汰には興味無いって言ってたけど、もしかしたら血の濃い人がタイプなのかも。意外ー……ダニエル様の執事さんみたいな人が好みだと思ってた」


 そうこう話に花を咲かせている内に、賑わう街中から少し離れた閑静な高級住宅街を抜け、都市を一望出来る見晴らしの良い場所に建っている屋敷に到着した。

 馬車から降り、自分達の荷物を持ってジュリアの元に集まる。


「ネッカーマ伯爵は大らかで人が好い方だが、失礼の無いようにな」


 ジュリアの言葉に私達は小さく返事をして、荷物を運ぶ使用人さん達の後に続いて、屋敷の中に入った。


 出迎えてくれたのは、ケモみが強いふくよかな獣人だった。質が良さそうで、やや派手ながらも上品な服装からして、多分この人がネッカーマ伯爵なのだろう。

 グレーと白の体毛に、ふわふわの尻尾から察するに、犬か狼系の獣人なのだろうが……ぽっちゃり体型のせいでこう、実にケモナー受けが良さそうだな、という感想が真っ先に出てしまう。

 というかガチのケモホモ描きがデザインしてそうな外見で大変性癖の琴線に響く。

 これはいけない。あーいけませんえっちです! 性的な目でしか見られない! この見た目で人懐っこそうな性格してて既婚者子持ちとか犯罪レベルです! サイバーなイグアナの案件になっちゃう!


「これはこれは、遠い所を訪ねて下さってありがとうございます、ローズブレイド公!」

「久しいな、ネッカーマ伯。貴様とは夏の夜会以来か」

「ええ、そうですな。我が娘の話を覚えていて下さったとは、嬉しい限りですぞ! 部屋はもう暖めておりますから、まずはゆっくりと長旅の疲れを癒やして下され!」

「そうさせてもらおう。……いや、こちらが世話になるのだ。先に夫人に挨拶をしておこう。案内しろ」

「おお! ローズブレイド公の方から出向いていただけるとは、家内も喜ぶでしょう! 君、ローズブレイド公をご案内しなさい」


 ネッカーマ伯爵はサモエドのようなニコニコ笑顔で尻尾をブンブンと振りながらダニエル女公爵に応対し、近くのメイドへ案内を申し付ける。ナチュラルに下の者を使う姿に、「可愛いおデブイッヌにしか見えないけど、そういやこの人貴族だったな」と認識を改める。気が緩んでうっかり失礼なことをするかもしれない所だった。


「ルージュリアン嬢は初冬の商談以来でしたか。いやはや、騎士姿もまた映えますなぁ! 茨の騎士の名は伊達ではありませんな!」

「まだまだ未熟者ではありますが、そう言っていただけると嬉しいです」

「ご謙遜なされるな! 王都中の若い娘の注目の的なのですから、もっと堂々と胸を張ってくだされ! うちの家内と娘なんて口を開けばルージュリアン嬢の話ばかりですし、特に娘はここ最近、あなたをモデルとした絵ばかり描いている程で!」

「ははは、少々気恥ずかしいですね」


 どうやら、ネッカーマ伯爵のご家族はジュリアのファンらしい。ジュリアは慣れているのかさらりと受け流しているが、やはりゲーム内でも描写があったように、女性人気があるらしい。

 流石夢女が選ぶキャラランキングの一桁台に入ったキャラだ、格が違う。


 ふと、使用人らしかぬ格好の私達に気が付いたのか、これまたニパァッと可愛らしいわんこスマイルをして、ネッカーマ伯爵は私達に声をかけてくる。

 は? かわイッヌかよ。モフらせろ。


「おお、君がローズブレイド公の言っていた薬師かね?」

「それはこちらの店長、ルイの事ですね。私はただの補佐でございます」

「薬師のルイです、よろしくお願いします」

「なんと! うちの娘より若そうなこの子が!? てっきりローズブレイド公の若さの秘訣は、飛花に伝わる秘伝の薬の効果だとばかり思っていたよ! この年で彼女に気に入られるなんて、相当腕が立つんだろう?」

「いえ、そんな……私はただ、自分に出来る範囲で、誰かのためになれたらなって思って色々とやっているだけで……」

「その年で謙虚さも備えているとは、あの気難しいローズブレイド公が気に入るのも納得だ! ……っと、今のはローズブレイド公には内緒で頼むぞ? あの人だけは敵に回したくないんだ」


 結構声の大きい犬……もとい人だが、急に声を絞って囁くようにそう言うと、ばちっとウインクをしてみせる。


 おちゃめ可愛いか?

 いやもうこの人やる事なす事言う事全部可愛いじゃん。好き。そのお口のたぷたぷの皮をたぷらせろ。


「ルージュリアン様!」


 ネッカーマ伯爵との会話に花を咲かせていたのだが、不意に、玄関ホールにアニメ声な女性の声が響く。


 声の主は、品の良い普段着タイプのドレスを着た女の子だった。ピンと立った耳と、くるりと巻いた尻尾が生えているので、彼女も獣人なのだろう。耳と尻尾が無ければ人間と変わり無いタイプの外見だ。多分、彼女がネッカーマ伯爵の娘であり、ジュリア曰く「特徴的な絵を描く」という画家だろう。

 シベリアンハスキーを彷彿とさせる色の髪で、ぱっちりとした瞳は薄い水色に近い青。歳は十八くらいに見える。

 ぱっと見だと無邪気な性格をしていそうだと思ったが、何というか、私の本能が「違う、そうじゃな

い」と否定している。妙にドヤ顔が似合いそうな雰囲気があるから、ポンコツ系なのかもしれない。


 彼女は二階に繋がる階段から早足で降りて来て、ブンブンと尻尾を振って目を輝かせてジュリアに話しかける。


 いやしかしおっぱいデッカ……。発育の暴力じゃん。日本基準だとFかGくらいあるんじゃないか? 動く度に揺れてるよあのデカパイ。デッカ……。


「ユリスト嬢、お久しぶりです」

「お久しぶりです、ルージュリアン様! こうしてまたお目にかかれるなんて、感激です!」

「大袈裟ですよ。ですが、私もユリスト嬢と一度ゆっくり話をしてみたいと思っていましたから、こうしてその機会を得られたのは嬉しい限りです」

「はわ、はわわ……!」


 すごい、推しにファンサされた時のオタクの顔してる。

 メスの顔とはちょっと違うんだ。オタクである私にはその違いが分かる。


「彼女達が以前話した、私の友人です」

「私、ユリストと申します! どうか仲良くしてくださいね! えへへっ」


 身分差をあまり気にしないタイプなのか、それともジュリアの友人だから特別なのかはわからないが、ユリスト嬢は何故か父親にそっくりだと感じるわんこスマイルでそう言う。

 友好的でよかった。これで平民だからと蔑むタイプだったらどうしようかと思っていた。


 安心したのも束の間。私は一つ、ある事に気付いた。


 ユリスト嬢さぁ……なんか、すっごいルイちゃんのこと見てない?

 嫌な感じはしない。むしろ好意的というか、ドルオタがオフの推しを見つけてしまって、声をかけるのは失礼だろうから話しかけないけど目が離せない状態になっているような感じがする。

 ジュリアから話を聞いてたみたいだし、推してたのかな。同志よ、歓迎するぞ。

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