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66 とんでもスキルが無くても作れる異世界メシ

 夜も更けて、酒盛りをしていた冒険者達がぼちぼち酔い潰れて宿泊部屋に帰る時間帯。

 貴族が泊まっているからか、今日は早めに閉めた宿屋の食堂のキッチンに、私とモズは居た。

 理由はもちろん。


「腹減ったからお夜食作んぞ!」

「つくんぞ」


 自覚は無かったが、長距離移動が思ったより堪えたらしく、夕食はあまり食べられなくて軽く済ませたのだが、ちょっと休んだら元気になって、その分腹の虫も元気になってしまったのだ。

 ちなみにちゃんと女将さんに許可はもらっている。洗い物とゴミ処理だけちゃんとしてくれれば使って良いとのお達しで、何か食材を使った場合は明日追加で請求するとのことだった。


 キッチンの設備を確認している最中、くあ、とモズが珍しく欠伸をする。


「眠かったら部屋戻って寝てて良いからね?」

「ねむくない」

「まあせやろな、私モズが寝てる所なんて見たこと無いしな……」


 そう。共同生活をするようになってもう三ヶ月以上経つというのに、一緒の部屋で、何なら一緒のベッドで寝ているというのに、私はモズの寝顔を見た事が無いのだ。


 夜は誰よりも遅く寝て、誰よりも早く起きる。私の夜更かしにも付き合った後でも私が寝入った後に眠っているようだし、朝起きると、大抵既に起きてて私の寝顔をガン見している。

 入眠障害のきらいがあるかもしれないので、ルイちゃんに寝付きを良くするアロマやらサプリメントを作ってもらって試しているが、イマイチ効果が出ている気がしない。むしろアロマは私にバッチリ効きまくっていて、私自身は快眠そのものである。

 子供なんだから寝ろ。睡眠時間ちゃんと取って健康的に育て。


 一応、最近はちょっと睡眠時間が延びたと自己申告はしているが、その睡眠中の状態を確認できていないから心配だ。ただのショートスリーパーなら良いんだけど……。


 寝る前にお夜食を食べるのは、睡眠的にも健康的にも悪いのは分かっている。

 けどそれはそれ、これはこれ。お腹空いたまま寝るのってひもじくて辛いからね、仕方ないね。


 【記憶】領域から昼に解体したラプトレックスの足を取り出し、皮を剥いでモモ肉部分を斬り落とし、血抜きをするためにボウルに水と一緒に投入し、ひたすら揉む。水が汚れたら交換し、繰り返す。

 良い感じに血が抜けたら水気を切って、とりあえず味見用に二口分だけスライスし、獣脂を引いて温めたフライパンで火を通す。味見用なので味付けは無しだが、肉の焼ける良い匂いがキッチンに広がった。


 匂いにつられたのだろうか、宿泊部屋に居たはずのラガルティハが食堂に降りてきていた。灯りが無いのが不安らしかったが、明るいキッチンに私達の姿を見つけて安心したらしく、逃げ込むようにキッチン内に入ってきた。


 ちなみに男女混合だが、我々薬屋組は全員相部屋である。

 要するに、先程までルイちゃんとラガルティハを密室に二人っきりという状況にしていた訳だが、ラガルティハのヘタレ具合は筋金入りなので、邪なことを考えたとしても絶対に実行には移さないだろうという点においては信頼が置けるため特に気にしていない。

 まあ寝顔を間近で見つめてたり、ちょっとちゅん吸いキメるくらいはしてるかもしれないけど。前にルイちゃんが寝落ちしてた時にこっそりちゅん吸いしてたの見た事あるし。


「ルイちゃんは?」

「寝てる……」

「疲れたんだろうし寝かせとけ寝かせとけ。どう、ラガルも食う?」

「そ、その肉って、まさか……」

「うん、ラプトレックスのやつ」


 私が堪えると、ラガルティハは眉間に皺を寄せて小さく、しかし何度も首を横に振った。


 焼き上がった肉を小皿に取り、モズと私で一切れずつ、味見をする。


「お? おお? 予想通りパサつくけど、思ってたより固さも臭みもマシだ。これなら調理法によっては焼きでも全然いけるわ。ちょっとジビエ臭のするちょい固鶏胸肉感ある。味的には牛豚鶏で3:2:5ってところかな」

「本当に食ったよこいつ……」

「ちょっと前にローストドラゴンをモリモリ食ってたくせに良く言うよ」

「普通に食いる」

「だよなー、案外イケるよなー?」

「うえぇ……」


 ドン引きして顔を歪めるラガルティハをよそに、これなら何の料理に使うのが良いのか、どんな味付けが合うのかを


「よっし決めた。ハッシュドチキンならぬ、ハッシュドドラゴン作んぞ!」

「つくんぞ」

「はっしゅど……何だって?」

「まー見てろって」


 まずはラプトレックスのモモ肉をミンチにしやすいよう適当に細かく切ってから、包丁で叩いて、粒が粗みじん程度の大きさになる程度にチタタプする。

 それをボウルに入れたら、塩と砂糖を大さじ半分、バター大さじ一、すりおろしニンニク、自家製ブイヨンキューブ小さじ一、そして贅沢に粗挽き胡椒を、適量と言う名の目分量で好きなだけ入れて揉み込む。

 全体に味が馴染んだら片栗粉を表面にまぶす程度に入れて、軽く混ぜ、好きな大きさに整える。今回はナゲットのようにつまんで食べられるよう、一口よりちょっと大きいくらいの大きさにした。

 獣脂を多めに引いたフライパンにそれを投入し、揚げ焼きにしたら完成だ。


 これらの作業をしている間、モズとラガルティハにはマヨネーズ作りをお願いした。これはまあ混ぜるだけなので簡単だし、立ってる者なら子供でも使うのが私の主義だ。何かしらの情操教育的な感じにもなってくれたらいいなぁ。


 ケチャップも欲しかったので、キッチンにあったものを少しだけ拝借させてもらい、その事を置き手紙に残しておく。朝になったら女将さんに改めて伝えておこう。


 皿に盛り付ける頃には、あれだけ嫌そうな顔をしていたラガルティハは漂うハッシュドドラゴンの食欲を刺激する香りに目を輝かせて、小さくだが腹を鳴らしていた。


「ほい完成っと。……腹減ったんなら食べてもいいからね。味なら保証するから」

「うぐっ……!」


 私の料理の腕をある程度信頼しているからこそ、あれだけゲテモノだと思って敬遠していたラプトレックス肉でも目をキラキラさせているのだろうが、やはりまだ抵抗があるのか手を伸ばそうとはしない。

 素直になっちまえよ……食欲によぉ……!


 ラガルティハが躊躇している間に、私とモズは一足先に、出来たて熱々のハッシュドドラゴンにフォークを刺す。表面は良い感じに香ばしくカリッカリに仕上がっていて、刃を突き立てた瞬間、サクッと良い音が鳴った。

 キッチンで立ち食いスタイルなのは行儀が悪いが、食堂の灯りをどうやって付けるのかわからないし、お夜食なので大目に見て欲しい。


 まずは何も付けずに、一口。


「んっ……美味い!」


 パサついていた肉は肉汁が閉じ込められて思いの外しっとりジューシーに仕上がり、元々少し固めだった肉質のおかげで弾力もあり、肉を食っている感が強くて良い。そして揚げ焼きにしたが、肉自体が脂身が少なくアッサリしているので、くどくなりすぎずいくらでも食べられる。この年になってくるとね……あんまり揚げ物が入らなくなってくるからね……。

 味付けもニンニクが独特の臭みを消し、且つ肉の旨味を引き出していて、塩味にしたおかげでその旨味を存分に楽しめる。粗挽き黒胡椒のピリリとした辛みと爽やかな香辛料の香りもまたたまらない。


 ちょっとこれは我慢出来ない。粗挽き黒胡椒を多めに入れたのがいけなかった。

 酒だ、酒が欲しい。


「へっへっへ、どうせ運転とかもしないし、エール飲んじゃお!」

「おいも飲む」

「これは酒だから子供は飲んじゃ駄目。ミルクで我慢しなさい」


 書き置きに追記してから、エールをジョッキ一杯分注ぎ、ぐいっと呷る。温いが、麦の香りと、苦みの中に感じるフルーティーな味わい、そして炭酸の喉越しが合わない訳がなかった。


「ッカァ~美味い! キンッキンに冷えていたらもっと美味かったけど、これはこれで海外感あってヨシッ!」


 何も付けなくてもシンプルな味わいを楽しめるし、ケチャップを付ければポマトの酸味と旨味で更に美味しく、マヨネーズはもう安定して美味い。贅沢に両方つければもう最高だ。


 私が美味そうに食べているのを見て我慢出来なくなったのか、ついにラガルティハはフォークを伸ばす。口に入れるまでやや時間がかかったが、ついにハッシュドドラゴンを、勢い良く一口で頬張った。

 ギュッと目を固く瞑ったまま、カリッ、もぐ……とゆっくり咀嚼して――咀嚼六回目くらいにそっと目を開き、その後は一噛み毎に目を輝かせた。


 美味いだろう、そうだろう。

 多分、今の私はよそから見たら、紛うこと無きドヤ顔をしているだろう。まあ、食わず嫌いをしていた奴がこう美味そうに食べてくれたんだから、ドヤ顔をしても許されるだろう。


 ラガルティハとモズにミルクを注いでやってから、もう一つつまむ。

 ラプトレックスの肉はまだ残っているから、今度はルイちゃんの分も作ろう。ブラックペッパー控えめにして、大きさもハンバーガーのパテくらいにして、野菜と一緒にパンに挟んでサンドイッチみたいにしても良いだろう。


 だが、そのためには一つ、材料が足りない。何個か食べていると、その足りないものの正体がハッキリと浮かび上がった。


「ハァ~美味い……けど……醤油が! 足らん! 一つ目は美味しかったけど、食い続けてると物足りん!」

「そうなのか……?」

「いつもはここに大さじ半分くらいの醤油を入れてたんだよ。今回は代わりに塩入れたけど……味の深みが……旨味が……足りん……ッ!」

「悪くないと思うけど……」

「ねえちゃんのごはんは何でも美味か」

「食えるけど! 確かにこれはこれで美味しいけど! 食べ慣れた味が恋しい……!」


 早くバラットに行って醤油を探したい。

 到着まであと二日はあるというのに、その時間が長く感じた夜だった。

ご清覧いただきありがとうございました!

過去一筆が乗りました。飯テロ文章は書くのが楽しい……!

ちなみにこのハッシュドドラゴン、バターではなくマヨネーズを使っても美味しいと思います。マヨネーズ好きな方はこっちの方が良いかも。


それと作中に出てきた手作りブイヨンキューブ、創作ではなく、実は普通に現実でも作れます。詳しくは「コンソメ 手作り」等で検索検索ゥ!

ちなみに私は面倒なので作りません。市販の顆粒コンソメ使います。


ちょっと面白そうじゃん? と思った方はブックマークをよろしくお願いします!

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