表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/144

64 竜玉

 絶命したラプトレックスが本当に死んでいるのか改めて確認してから、突き刺さったままの銃を引っこ抜く。

 銃身は歪んでいなかったが、銃剣の方が少し曲がってしまっていた。とはいえ使えないことはないし、【記録】領域には使う前の状態だったもののデータがあるので、次からはそちらを使えば良いだけのことだ。

 チートって便利!


 べっとりと銃についた血を拭いながら、何となく死骸を見つめる。茶色がかってくすんだ緑色の鱗はマットな艶があり、質感としては蛇皮に近い。

 よく狩りゲーではドラゴンの素材で「竜鱗」なんてものがあるが、この世界のドラゴンは魚の鱗タイプと半々くらいだ。ラプトレックスは蛇皮タイプなのだ。


「よく見てみたら、良い感じの皮じゃん。財布とかバッグに使われてそうな感じ。体色からして、メイファの方に住んでいた個体かな? 茶色っぽいし」

「分かるのか?」

「ごく一部の地域ではありますけど、メイファにも生息しているらしいですよ。特徴として、体色は一般的な深緑じゃなくて、茶色混じりの緑色だって図鑑には書いてました。メイファくらいだったら、季節が冬って事を除けばギリ集団移動してきてもおかしかないですしね。さーて、竜玉の方はどうなってるかなっと」


 私は薬草採取等で使っているナイフを【記録】領域から取り出し、腹の柔らかい部分に刃を入れ――ようとして、刃が入りそうにもなかったので砥石を取り出して軽く研ぐ。


 竜玉というのは、ドラゴンだけが持っている器官の一つだ。と言っても、内臓のような肉の塊ではなく、他の動物で例えるなら、あこや貝の真珠のようなもので、魔石の一種である。獲物から取り込んだ魔力や自分の魔力が結晶化したものらしい。

 特に大型のドラゴンが持つ竜玉は見た目も質も良く、高値で取引される。一方小型ドラゴンの竜玉は魔石としての価値はあまり高くなく、どちらかと言えば宝石や、ポーションの材料として使われる事が多いと聞いた事がある。


 研ぎ終わってからもう一度チャレンジしてみたものの、中々刃が通らなかったので、諦めて肛門から刃を突き刺して開腹していくことにした。 


「……君は生きている時は躊躇するのに、解体する時は躊躇しないんだな」

「死んだらただの肉ですからねー。あわよくば、どう調理すれば美味しくなるかなって考えてますよ」

「飛花人は皆そうなのか?」

「部分的にそう」


 頑丈な皮を何とか切り開き、腹を開く。まだ暖かな体温が失われていない内臓をかき分けて心臓を見つけ出し、その裏側に、五百円玉サイズの固いものがあるのを確認する。その部分だけナイフで切り取って、張り付いた肉を削ぎ落とし、周囲の雪で付着している血を拭うと、ラプトレックスの竜玉が姿を現した。


 血汚れのせいで赤く見えていただけだと思っていたそれは、元々赤かったらしい。不透明なそれは時間の経った血を煮固めたような色合いで、オーラのような粘ついた光を淡く発していた。


 魔石が光を纏う事は珍しくない。むしろ、魔力が豊富に含まれている上に高密度である証拠と言え、高値で取引される基準にもなる。

 しかし、こう粘度のある光を持つ魔石は始めて見る。左右に動かして残留する光を観察していると、それを見ていたジュリアが、怪訝そうな声でぽつりと漏らした。


「こんな竜玉、見た事が無い。竜玉と言ったら透明度が高いのが普通だし、火属性の魔石だとしても、こんな暗い赤は存在しないはずなのだが……」

「それじゃ。それからモヤモヤ出った」

「見たことの無い暗い赤で不透明でモヤモヤしたの出てるとか、絶対何か異常があったやつじゃないですかーやだー。見た感じだけだと、これはこれで宝石っぽいけどさぁ……あ、一応魔眼の刻印で確認しときます?」

「頼む」


 魔眼の刻印を自分に貼り付ける。その瞬間、視界は黒く染まり、魔力を持っているものだけが、シルエットのような形で見えるようになる。

 周囲の木々はぼんやりとした薄い若草色、積もった雪はほんのり見える程度の薄青。周囲の騎士さん達はそれぞれの魔力属性の色をした人型の影。時折吹き抜ける風のせいか、たまに視界が、白い発光レイヤーを濃度5%程度でクリッピングしたように見えた。

 ジュリアとモズは最早人の形が見えない。炎のような塊で、ジュリアは中心から銀、オレンジ、赤とグラデーションがかかっている。モズの方は中心に小さく黄色が見えて、魔力全体が紫と紺が都度入れ替わって見える。


 相変わらずこの視界は目が疲れるなぁ、なんて思いながら、改めて竜玉を観察する。

 竜玉が纏っていたオーラ以上に大きな、煙のようなものがまとわりついている。きっとこれがモズの言っていた「モヤモヤ」だろう。

 何というか、ヘドロのように濁った汚い色に浸食されたオレンジ色をしているが、ヘドロ色のせいでオレンジというより茶色に見えて、そのせいで禍々しい雰囲気を醸し出していた。オレンジ色と言うことは、元々は土属性の魔力を有する魔石だったのだろう。

 そして竜玉の中心は、竜玉自体と同じ血栓のような色。そこに暗い灰色で、幾何学的な模様がまだらに浮かんでいるのが見えた。


「なーんか明らかにヤバげな感じの煙が出てんですけどこれ……」

「そうなのか? 悪い感じはしないのだが」

「それとこう、幾何学模様って言うんですかね? こういう模様が見えるんですけど、見覚えとかあります?」


 手探りで地面を探して、指で魔石に浮かんでいる模様を雪に書き写していく。

 ちゃんと書けているか確認しようと刻印を剥がした瞬間、雪景色の白さに目を潰されて、思わず「うおっ眩しっ」と呟いてしまった。

 薄目で確認してみたが、何とかちゃんと書き写せていたようだった。しかし雪の白さが眩しい。


「いや……残念だが分からないな。だが、呪いの類いならもっと曲線的なはずだ」

「じゃあ呪いの線は薄そうか」

「モヤモヤ、見覚えあると思っちょったけんど、青薔薇のと似ちょる」

「女公爵様って言いなさい。……って、女公爵のと似てるって?」


 ダニエル女公爵はつい先日、廃棄魔素の影響で体調を崩してウィーヴェンに休養に来たのだが、診察の結果、体内の魔力(オド)が汚染されていることが分かっている。

 このヘドロ色の煙のことを言っているのだとしたら、この竜玉、もといラプトレックス達は、廃棄魔素を摂取していた可能性が出てくる。

 私自身は汚染された状態を見ていないので分からない。実際に見た人に見比べてもらう方が確実だろう。


 ようやく世界の白さに慣れてきた視界には、ルイちゃんが映っている。一度廃棄魔素を見ている彼女に見てもらえば確実だろう。


「ちょっとルイちゃん、こっち来て! これ魔眼の刻印で見て欲しいんだけど……」


 騎士さんの手当をしていたルイちゃんに声をかけ、申し訳無いが作業を一時中断して確認してもらう。

 魔眼の刻印を貼り付けて、魔石を見せる。その瞬間、ルイちゃんがはっと息を飲んだのがわかった。


「……これ、廃棄魔素で汚染された魔力に似ている」

「アレだよね。煙っぽいやつの、ヘドロみたいな部分のことだよね?」

「うん。ダニエル様の体を汚染していた廃棄魔素と、凄く似ているよ」

「似ているってことは、別物の可能性があるって事かな」

「それは分からない。ドラゴンだからこう見えるのか、別物なのか、それは判別つかないかな……」

「……そうか。ありがとう、ルイ。治療の方に戻ってくれ」


 ルイちゃんは眉を八の字にして私達を見上げてくる。まさか竜玉から廃棄魔素が出ているなんて考えもしなかっただろうし、何か変なことが起こっているのではないかと不安がっているのだと思う。

 後ろ髪を引かれる思いはあっただろうが、ややあって、ルイちゃんは騎士さんの元に戻って行った。


「女公爵様を汚染していたのと同じなのか、それともただ似ているだけの別物なのか、モズ的にはどっちだと思う?」

「大体おんなじ」

「大体同じか~」


 一応モズにもう一度聞いてみるが、絶妙に的を得ない返答で、どう判断するべきかイマイチ分からない。

 ジュリアも同じだったようで、私が視線を合わせると、小さく首を横に振った。


「廃棄魔素と同一のものか、専門家に調べてもらうべきだろうな」

「諸々の方面に報告するためにも、証拠品として何個か取っといた方が良いですよね」

「ああ。頼めるか?」

「うぃーっす」

ご清覧いただきありがとうございました!

ちょっと面白そうじゃん? と思った方はブックマークをよろしくお願いします!

いいねや評価、レビュー、感想等も歓迎しております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ