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55 真実を見抜く瞳

「オドの状態も確認しますね。トワさん、お願い」


 ルイちゃんに協力を要請されたので、「失礼します」と一言言って、私も診察に加わる。

 とはいっても、魔力の流れや質を見ることが出来るようになる、魔眼の刻印を貼り付けるだけだが。


 本来マナやオドといった魔力は可視化出来ない。特殊な道具を使うか、あるいはそういうものを見ることが出来る能力を持っていないと、見ることが出来ないらしい。

 魔眼の刻印は前者の道具に使われる刻印で、本来は人には使わない。魔眼の刻印なんかを刻んでしまったら、少なくとも墨の魔力が消えない限り通常の視界は失われてしまうからだ。

 そもそも私の刻印の使い方が例外なだけで、世間的には肉体に刻む刻印なんて、刺青と一緒だ。筋力等の使い勝手が良くて普段から欲しい刻印でもなければ体に刻まない。


「貴様はオドを見れるのか?」

「刻印を使えば、誰にでも可能です」

「刻印を刻むのか? この場で?」

「私のスペルを使えば、自由に切り貼り出来ますので」

「なるほど。便利なスペルだな」


 鞄からノートを取り出し、今回使う魔眼の刻印が載っているページを開く。

 このノートは魔石インクで様々な刻印を描いてまとめたものだ。一応脳内フォルダに刻印データはあるが、流石に無から有を生み出すように見えてしまうので、ノートを開く余裕が無い時以外はこうして原本があるように見せるために使っているのだ。


「対象物指定、【複製】+【分離】(Ctrl+C)。では店長、ちょっと失礼……指定先確定、【固定】(Ctrl+V)


 スペルということにしているので、あえてそれっぽい詠唱のような言葉を口に出し、魔眼の刻印をルイちゃんのこめかみに貼り付ける。

 人前で詠唱の真似するとか、流石にちょっと恥ずかしい。私もいい大人だからね……。創作作品内だと格好良く見えるのに、いざ現実でやろうとすると何でこうも恥ずかしくなるのだろうか。


「聞いた事の無い詠唱だな。それに、言葉が飛花らしくない。向こうの詠唱は詩形式か、五七五、もしくは五七五七七が基本だろう?」

「秘術の類いですので、申し訳ありませんが言及は控えていただけると……」

「ふぅん……」


 じとりと値踏みするような視線を向けられて、内心肝が冷える。


 そうだった。完全に頭から抜けていたが、飛花で使われているスペルはよくある詩のようなタイプか、俳句・短歌が一般的だ。Ctrl+(コントロール)なんちゃらなんて間違っても使わない。


 何だか怪しまれている気がするが、気のせいだと思いたい。

 確実に気のせいじゃないが、そう思うことにする。


 魔眼の刻印でダニエル女公爵の魔力を見るルイちゃんは、珍しく眉間に皺を寄せる。そんな反応を見る限り、あまり良い状態ではない事が窺える。

 ぱっと見だとピンピンしてるんだけどなぁ……。

 診察が終わったようなので、忘れずに「対象物指定、【消去】(Ctrl+D)」と呟いてから、貼り付けた刻印を消した。


「かなり淀んでいますね。向こうでは相当無理をされていたんじゃないですか?」

「ああそうだ! 仕事の出来んでくの坊ばかりだから私がやるしかないし、そんなクソ忙しい中クソトカゲ共は聖女の手柄でマウントを取ってくるし、その聖女はウサギ並のイカレ頭! 愚痴でも垂れ流さなきゃやってられん!」

「あはは……精神的にも、かなりしんどかったみたいですね……」


 ルイちゃんは苦笑いしながら鞄を探り、小瓶を一つ取り出す。


「ダニエル様、新しく開発した新薬を試したいのですが、よろしいですか?」

「ほう? とりあえず見せてみろ」


 取り出した小瓶をダニエル女公爵に渡す。

 中身はゼリオン剤だ。どのような診断結果であれ、これを試してもらうことは、屋敷に来る前に打ち合わせをしておいた。


 今回はただ治療のためだけに来たわけではない。

 このゼリオン剤を使って、ルイちゃんが正式にローズブレイド公爵家の後ろ盾を得る為の足がかりを作るためでもあるのだ。


「トワさん、説明をお願い」

「では失礼して……このポーションはイドに作用することで、副作用無しに、数秒程度で肉体の損傷を癒やす効果があります。我々はこれを『ゼリオン剤』と呼称しております」

「イドに作用する? それが嘘でなければ、伝説のエリクサーのようではないか」

「残念ながら欠損された部位を復元することは出来ないので、エリクサー程の治癒力はありません。ですが、少なくとも死に瀕した者の命を救える程度の効果はあります」

「ネズミで試したのか?」

「いえ、たまたま死にかけて行き倒れていた人――先程ご紹介しましたラガルに使用しました。それで効果は立証されています」


 打ち合わせはしておいたものの、急に出番が回ってきて動揺したらしいラガルティハは、きょどきょどと視線を彷徨わせる。

 堂々としてくれ。頼むから。なんか説得力無くなるから。


「……貴様、よく見たら白トカゲじゃないか。しかも羽無しときた。珍しい、どこで拾ってきた」


 一応紹介していたが、どうやら記憶に残すまでもないと思われていたらしい。

 多分本名である「ラガルティハ」で紹介したら、ダニエル女公爵の記憶には間違いなく残るだろうが、ラガルティハの心が折れるレベルにおちょくりまくるのは目に見えていた。そりゃあ安牌の方を取るよね。


 それに今回、ラガルティハを覚えてもらう事は重要ではない。聞かれたら答える、くらいで丁度良いのだ。


 しかし今更だが、「見たら貴族と思え」と言われる竜人族を見てトカゲ呼ばわりとは。そんな風に言って許されるのはダニエル女公爵くらいだぞ。

 いや実際は許されていないけど。だからローズブレイド家ってだけでドラッヘン公爵家を始めとした竜人族の貴族から敵愾心を持たれているんだろうけど。


「トワさんが雪中花の採取に行った時に倒れているのを発見して、うちまで連れて来たんです」

「何だと? ルイが拾ってきたんじゃないのか」

「私を何だと思っているんですか。確かに、私が見つけていたとしても、同じ事をしていましたけど……」

「弱った獣に飽き足らず、人まで拾った愚か者だろう? 前科持ちだ、疑われても仕方あるまい」


 一瞬、ルイちゃんが前科持ちと言われているのを横で聞いていて何のことかと思ったのだが、これアレだ。私のことだ。

 まあそりゃあジュリアが関わってたことだし、ダニエル女公爵に伝わっていてもおかしかないけども。

 というかルイちゃん、前にも弱った獣を保護した事があるのか? 解釈が合う……わかる……ルイちゃんは怪我した動物を見かけたら放っておけない性格だもん……小さい頃にも野良犬とか野良猫を拾ってきて母親から「元いたところに返してきなさい!」って言われたことあるに違いないよ、確実に。


「……それで? 白トカゲ、この話は本当か?」

「あ……え、と……」

「答えられないのか?」

「あの、ダニエル様。ラガルさんは少し口下手な人なんです。あんまり急かすのは……」

「多少の無礼は見逃してやろう。だが、私はそこまで気が長い方では無い。簡潔に話せ」

「ラガルさん、ゆっくりで大丈夫だから」


 ラガルティハが必死に少ない語彙で質問に答えている最中、さりげなく私の隣に立ったジュリアが声を潜めて耳打ちする。


「あまり知られていないが、私達妖精種は、人が抱いている感情をある程度『見る』ことが出来る。叔母上はその力が特に強くてな、読心術と言っても良い」

「つまり、嘘か誠か判別するために尋問しているって事ですか」

「そうなるな」


 妖精種は感情を見ることが出来るって、初耳の情報だ。ジュリア本人が言うように、一般的な知識ではないようだから仕方ないのかもしれない。

 試しにチート由来知識に頼って脳内検索をかけてみると、それらしい情報が脳内に浮かんできた。


 感情を見ることが出来ると言っても、その能力には個人差があり、基本的には嘘をついているか否かが分かる程度らしい。

 だから多種族からしてみれば、やけに他人の感情の機微を察しやすい、隠し事に気付きやすい個性程度にしか思われていないようだ。


 そういえば、とこの世界に来たばかりの時のことを思い出す。

 確かジュリアも、私が色々と隠し事をしていると看破していた。この能力由来の発言だったのか、と今になってようやく気付いた。


 ラガルティハに対する質問攻めはそう長くなく、二、三質問したら終わった。


「エリクサーの下位互換というのは信じられんが、ルイはリオに似て、馬鹿正直で薬の腕だけは王室勤めに劣らない。白トカゲはそもそも嘘をつける性格では無さそうだし、信用しても良いだろう。そこの飛花人が入れ知恵でもしていない限りはな」

「叔母上。トワは秘密主義ではありますが、他人を害するような性格はしていません」

「だろうな。奴隷と仲良しごっこをするような奴が貴族に、それも公爵家相手に詐欺を働こうとするなんて思えん。そこまでの度胸があるようにも見えんしな」


 褒めているのか貶しているのかわからないが、とりあえず社会人スマイルを返しておいた。


「どうやって作った」

「こちらがレシピです」


 ルイちゃんがレシピブックのゼリオン剤のページを開いて差し出すと、ダニエル女公爵はジト目のままそれを黙読する。

 そして、とある記述を見つけると、つまらなさそうだった顔に愉悦のような表情を浮かべた。


「竜人の血だと? ハッ、あの権力しか能の無いトカゲ共も、使いようによっては民の役に立つものなのだな。奴等が常々口にしている『尊き血』とやらしか役に立っていないがな!」


 ケラケラと笑いながらレシピブックを閉じ、ルイちゃんに返す。

 急に機嫌が良くなったダニエル女公爵にうろたえながらも、ルイちゃんはレシピブックを受け取って、大事に鞄にしまった。

 ダニエル女公爵持っていたままだったゼリオン剤の小瓶の蓋を開け、白銀色のそれを日の光に透かすように持ち上げる。


「あのトカゲ共の血を口にするのは不快だが、背に腹は代えられん。体を腐らせるよりはマシか」


 そう呟いて、ゼリオン剤を一気に呷り、白い喉をごくりと動かして飲み干した。

ご清覧いただきありがとうございました!

ちょっと面白そうじゃん? と思った方はブックマークをよろしくお願いします!

いいねや評価、レビュー、感想等も歓迎しております!


【追記】2024/03/24

完全に風邪を引いてしまい執筆が出来ておりません。

ちょっと治るまで更新停止になります。多分早くて来週の水曜、遅いと来週の土曜くらいには更新再開出来ると思います。

申し訳ございません。

とてもつらい……。

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