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45 テンプレすぎると逆に怪しい

「他に情報は残っていますか?」

「これ以上出せる情報は無えぞ」

「そうですか。ではこちらが残りの報酬と……後、これは私からのお詫びです」


 私は鞄から報酬金を渡し、そのついでに、鞄の中から取り出したと見せかけて、以前こっそり【記録】しておいたポーション類を【複製】+【固定】(コピー&ペースト)してテーブルに並べた。

 冒険者という危険な職に就いている人にとっては、ポーションはいくらあっても足りないものだ。詫びの品としては上等だろう。


「おっ、ポーションか? そりゃありがてえ……んぁ? なんだこれ」

「銀色のポーションなんて初めて見るッス」

「ああそれね、ただのポーションじゃないですよ。従来の回復ポーションなんて目じゃない治癒力を持ちながらも、体に負担をかけない代物です。値段を付けるとしたら、貴族くらいにしか手が届かないものになると思います」

「おいおい。効能に自信があるにしても、エリクサーじゃねえんだから」

「そのエリクサーですよ」


 そう答えてから数拍置いて、三人は声を揃えて「はぁ?」と怪訝な声を漏らした。


 実はラガルティハを助けた時にルイちゃんが作っていたエリクサーを、こっそり【複製】で増やして持っていたのだ。ルイちゃんにエリクサーを分けてもらった時にちょちょっとね。

 そのうちの一つを、今、ここで出したというわけだ。


 しかし、エリクサーと聞いても信用はされないだろう。なんせ、伝説上の薬だ。一般人からしてみれば、実在していたかすら怪しい存在である。

 だから最初から信じてもらおうとは思っていない。通販番組のようなわざとらしい説明はせず、至って普通に、風邪薬の効能を説明する時のように淡々と話すことにした。


「ただ、伝説のエリクサーより、効果としては大分劣化しています。欠損部位を生やす程ではありませんが、死に至る傷口を塞ぐ程度であれば可能、といった所ですね。名を付けるなら『低級エリクサー』となるでしょう。うちの店長が調合したんですよ、これ」

「いやいやいや、冗談が過ぎるっての。ンなもん信じろって言われても無理だぜ?」

「実際に使ってから信じてもらうので構いませんよ」


 使う機会が無いに越したことはないが、こればかりは実際の効果を見てもらわないと分からない。

 一応処方する身として、説明義務を果たしたまでだ。


「ただ、低級エリクサーって言うと、『低級』っていうのがイメージ的にちょっとね? ということで、私達はこれを『ゼリオン剤』と呼称しています」


 ゼリオン(xerion)はギリシャ語で「乾いた」を意味する言葉だ。

 一見すると液体であるポーションとは何の関連性が無い、むしろ逆の意味を持つようなイメージのある言葉だが、この言葉こそエリクサーの語源となっている。「エリクサー」という言葉の語源となった「ゼリオン」の名を冠するのは妥当ではないだろうか。


 ちなみに私「達」と言っているが、この名称は今決めたのでちょっとした嘘になる。バレなきゃいいんだよ。


「今はまだ公にしていない秘薬ですが、とりあえず今は、報酬としてお渡ししたポーションのオマケとして考えて下さい。冒険者をやっていれば、いずれ使う機会があるかもしれませんし」

「……まあ、使う機会があれば、な」

「そんな目に合わないのが一番ですからね」


 私は立ち上がり、ぺこりと一礼する。モズもそれを見て、私の真似をした。


「では、今回はありがとうございました。また機会があれば、よろしくお願いします」

「聖女関連以外で頼むぞ」

「そのつもりですよ」


 部屋を出る前にもう一度だけ一礼して、私達はギルドを後にした。


 しばらく道なりに進み、途中で人気の無い路地に入る。そして誰も居ないことを確認してから足を止め、ポンポンとコート越しにヘーゼルを叩いて起こした。


「さて……ヘーゼル、どう思う?」


 ヘーゼルはモゾモゾと動いて抱っこ紐から出てくると、服に爪を引っかけてよじ登り、襟ぐりから顔を出して答える。


「九割九分、クロじゃないかな」

「ですよねー」

「こんな所で僕達の目的の手がかりを得られるなんて思わなかったな」

「ほんそれ。ヘーゼルには情報の信憑性を確かめてもらうために着いて来てもらったってのに、まさかこんなことになるとは……。ってことは、この仕事の明確な目標は、聖女回りを何とかしていかなきゃならないってことかぁ……気が重いなぁ……」

「いっそ、正面から会ってみればどうだい? 又聞きの情報だと、歪曲されている可能性があるよ」

「……そうだね。実際に聖女サイドに接触してみるっていうのも、アリっちゃあアリ、か?」


 一番手っ取り早い方法と言ったら、これに尽きる。

 だが、それには問題が多いのも確かだ。


 情報通りならば紅燕と通じている、つまり警備や戦力の状態が整っている環境の真っ只中に居るはずだ。真正面から接触するにしても、こっそりステルスして行くにしても、不安要素しかない。虎穴ってレベルじゃない。


「でも、そもそもの話、設定があからさますぎて釣りじゃね? って思うのよ。そのくらい、最強設定夢小説とネット小説のテンプレって言って良い情報ばかりなんだよね、現状」

「と、言うと?」

「全属性のスペルが使える、オマケに回復系スペルも。こりゃーまず最強設定ではよくあるパターンよ。この世界では、本来は最大三種類ってのが通説で、例外は賢者くらいだから。特別な存在という万能感を演出するにはもってこいよね」

「最強っちゅうんは、そういうもんなん?」

「人の判断基準によるから、部分的にそう。最強ではなくて、チートって考えるなら完全に是と言えるかな」

「ちーと?」

「一般人に無い凄い能力を持っているってこと。だけど、誰にでも思いつく安直なアイディアだよ、これは。たまたま目に入った最強夢主設定の夢小説を思い出す限りだと、標準装備だったくらいには」


 ヘーゼルの有している知識と、私が持っているメタ知識を併せて考えると、理論上だけならば全人類が全属性のスペルを使えてもおかしくはない。


 が、それはあくまで理論上の話。

 全属性のスペルを平均以上に使えるようになるためにはそれだけ修練が必要だが、人類にはそうするだけの時間が足りない。実質不可能と言って良い。


 ゲーム的に言えば、スキルポイントが足りないのだ。

 スキルポイントを多く稼いたり、有している才能によって取得ポイントが低く設定されていたとしても、二つの属性を特化する+もう一属性を平均よりちょっと使える程度にしか割り振れない。それが限界だ。


 全属性の術が使えるということは、チートと呼べるかどうかで言えば、確実にYESだ。

 最強設定夢小説の夢主にしろ、ネット小説のチート系異世界転移ものにしろ、王道の中の王道レベルにありふれた設定だ。


 ありふれすぎていて、逆に怪しく感じてしまうのは、逆張りだろうか。


「で、次に『聖女』っていう名称。ネット小説ではジャンルの一つにだってなっている程ありふれている。聖女が悪役パターンもそこそこあるから、紅燕との接触や、ウォルターを仲間に引き入れているっていう現状には違和感がない」

「そういうものなのかい? 悪役なんて、聖女という言葉のイメージとはかけ離れているけれど」

「奇を衒ってあえてそういう設定に、って考える人が多すぎて、むしろ王道の展開になってるまであるよ。主人公か悪役か、ネット小説だとその二つがよくある設定かな。悪役だとビッチ設定がテンプレな感じあるけど、そこんところの情報は無かったもんな~」

「びっち、って何じゃ?」

「子供は知らなくて良い言葉だよ」


 ビッチかどうかは、状況証拠的にやや怪しい感じはあるものの確証までは得られていないので除外するが、敵役の聖女というのは結構なテンプレだ。

 これでビッチ確定だったら完全にテンプレな敵役聖女だった。


「ともあれ、チートって言うにはテンプレだけど薄味だし、薄味だからこそ取って付けた感があって情報操作がされてそうな感じがするじゃない? 一応パフォーマンスとかやってたらしいけど、それも影から別の術者がスペルを使っていれば、それっぽく見せられるわけだし」

「僕にはイマイチよくわからないな。その辺りの概念には疎くてね。だけど、祀り上げられた聖女という点で言えば、そういった偽装工作が行われていてもおかしくはないかな」

「ただこれが事実だったとして、それはそれで怪しいわけよ。取って付けたような感じがするってのがね、何か重大な何かを隠しているように思えてならなくてね……。どちらにせよ、怪しさ満点な所が、謀略を張り巡らせるのが得意な頭の切れる相手っぽくて厄介度が上がる」

「もしそうだったとしたら、他にチートと呼べる特殊能力があってもおかしくない、ということだね。もし敵対することになったとしたら、それが懸念点となるね」

「ねえちゃんより凄い力があるん?」

「可能性の話だけどね。ただ、そういう特殊能力に関する情報が欠片も無いから、本当にただの予測にしか過ぎないけれど」


 現段階で情報が少なすぎる事を加味しても、最強設定にしろ、聖女設定にしろ、捻りが無いというのが私の素直な感想だ。

 捻りが無いからこそリアリティが無く、疑念が浮かんでしまう。その場で適当に考えた設定、という風に捉えることが出来てしまうのだ。


 チート聖女設定自体が偽装ならば、そうしなければならない目的があるということになる。

 実際に存在していて、もらった情報が真実であるならば、他の隠し球を持っていなくては捻りが無い。

 そしてそのどちらにせよ、原作改変には深く関わっていることは間違いない。

 だから怪しい、と感じてしまうのだろうか。ただの逆張りであってほしい。


 不意に、モズが自分の方ではなく、大通りの方を向いている事に気が付いた。


「どうした? ルイちゃん達でも見つけた?」

「付けられちょる」

「……は?」

「あっち」


 そう言って、モズは大通りを指差す。

 ちらほらと雪が降ってきたせいか、来た時にもまして人は少ない。だが、立ち止まってこちらの様子を伺っている人は居ない。

 隠れている。私は瞬時に理解した。


「……うん、まあ、そうだよね。マジか~……」


 どうやら、ルイちゃん達と合流するには、もう少し時間がかかりそうだ。

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