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42 初めてのお使い(保護者同伴)

 そんなこんなで、ラガルティハを言いくるめて外出させる意志を持たせることに成功した私は、次いで彼を風呂に誘導した。

 モズの時のように手本を見せてと言われるような事は無く、口頭説明で分かってくれて本当に良かった。流石に相手が成人済み名誉概念ショタことラガルティハとはいえ、現実の異性の裸体を見るのは喪女にはキツくてね……。モズの時は相手が子供だったから平気だったけれども。

 紙媒体やモニター越しなら細部まで、何なら修正がかけられて然るべき部位だって食い入るように見られるんだけどなぁ。なんでだろうね。


 風呂に入らせる前に「ルイちゃんに見られても恥ずかしくないと思えるくらいに綺麗にしておいで」と言ったのだが、そうしたら一時間かけて全身ピッカピカになって帰ってきた。

 そして彼の使った石鹸が普段ルイちゃんが使っているものだったようで、風呂上がりのラガルティハがルイちゃんの香りを纏っていて私の心がしめやかに爆発四散した。


 我が家ではルイちゃんは花の香りがするものを、私とモズは無香料とは言いつつも蜂蜜を材料に使っているからほんのり蜂蜜の香りのする石鹸をそれぞれ使っている。

 ラガルティハに説明した時に「好きな方を使って良いよ」とは言ったのだが、こういう所でルイちゃんと同じ物を使うとかさぁ! もうさぁ! その時の心境を細部まで聞き出したくて仕方が無いんだが!?

 アレか!? 匂いを確認した時に「あいつの匂いがする」とか思ったのか!? それが決め手たったんか!? どうなんだい!?


 それはそれとして、そこまで顔の良くないヒョロガリのっぽからフローラルな香りがしてくるのが面白すぎて、後で思い出し笑いが止まらなくなった。

 ラガルティハのイメージ香水が出るとしたら、良い匂いのする湿った土みたいな香りになると思ってたからさぁ……。


 更に、だ。そうして綺麗になって、用意していた服を着せてルイちゃんに見せてみたところ、要約すると「お洒落するともっと素敵な人になると思ってたけど、やっぱりそうだった! とっても良く似合ってるよ」とのお言葉が。

 ラガルティハは真っ赤になって、私は推しカプオーバードーズでこの先の記憶が飛んだ。

 もっと詳細に褒めていた事だけは覚えているけど内容は覚えてない。どうして。


 あのさぁ!! ルイちゃんそういうとこやぞ!!

 確かに我々はボロ服装備と寝間着姿しか見たこと無いから、ちゃんとした服装をしていればそりゃあ嫌でも見栄えするけどさぁ! 開口一番が「似合っている」じゃなくて「素敵な人」ってさぁ! しかも「やっぱり」って何!? 外見コンプレックス持ち相手に王道の「可愛い」も「格好いい」も「綺麗」も使わずにその外見を以前から認めていた事を告白した上で褒めるそのボキャブラリーとコミュ力is何!?


 大丈夫? 褒められ慣れていないラガルティハがこんなこと言われたら、麻薬と同じ効果発揮しない?

 私はキマりすぎてトんだよ。

 ラガルイは目と耳でキメるクスリ。はっきりわかんだね。


 蛇足だが、ラガルティハの服装は、よくあるザ・村人なゆったりとしたシャツと裾の長いベスト、それにズボンとブーツ。取り急ぎ街で入手したもので、今のところ一張羅である。外に出るので、そこにコートが追加される。


 この前ジュリアが来たのは、彼の紹介もそうだが、ちゃんとした服を買うべく、縫製職人さんを紹介してもらう為だ。

 まあその話をする前にめっちゃ怒られたのだが。いくら病人とはいえ、どこの馬の骨とも知らない異性を家に上げるとは如何なものかと、今まで見たことの無い圧を放ちながら懇々と説教を受けたのだ。

 だってラガルティハだから大丈夫だと思って……とは言えず、今はピンピンしているけど当時の怪我は生死を彷徨う程だったこと、回復した後の彼の人柄的に問題無いと判断したこと、そして何より、ルイちゃん一人だったらともかく、自分やモズが付いているから大丈夫だと思ったと弁解したのは良い思い出だ。転回裁判の如く、腹の底から大声で「異議あり!」と叫び人を指さすなんて経験、人生で初めてだったよ。


 正直言うと、ちょっとだけ嫉妬しているのかなとも思った。

 だってジュリルイも好きだからさ……間男というか、|僕が先に好きだったのに《BSS》というか、そういうアレがあったら……いいなって……。

 まあ普通に姉妹愛的な意味で、身内が家に知らん男を連れ込んでたら心配するよな。ジュリアは貴族だから貞操観念的にも思うところがあっただろうし。


 ともあれ、職人さんを連れてきてくれた暁には、本編のデフォルト衣装を再現して着させるのだと決意している。楽しみだなぁ。


 楽しみと言えば、このお出かけもそうである。目の前でお買い物デートするラガルイをこの目に焼き付けるのだ!

 とはいえ四六時中ずっと見ている訳にはいかず、私の個人的な用事のために途中離脱しなければいけないのだが。そのために寝こけていたヘーゼルだって連れてきたんだから。

 ヘーゼルを連れ回すために私は抱っこ紐をつけていて、彼はそこに入っている。その上からコートを着ているので中はぬくぬくホカホカ。ちょっとかさばるカイロだと思えばそこまで気にならなかった。

 冬に入ってからめっきり外に出なくなったヘーゼルも久々の外出を楽しんでいるのか、時々服をよじ登ってコートの襟ぐりから顔を出して、久々の外の空気を楽しんでいるようだ。


 この寒い時期だから、人の往来は少ない。だが、それでも昼間だから、ある程度の人数は居る。

 ルイちゃんお手製の大きめニット帽のおかげで角は隠せているし、翼は既に無いので、竜人らしい身体的特徴と言えば尻尾だけだ。その尻尾だけだと爬虫種に見えるのでこの人々の中に居ても気にならないし、冬ということもあって周囲が雪景色なおかげか、アルビノ的特徴も思ったより目立たない。爬虫種の人族にアルビノ系の外見の人が多いのも、目立たない理由の一つかもしれない。


 これなら大丈夫か、と思ったが、時折すれ違う人がチラ見してくるのに気付く。

 多分、見慣れない人だから気になった、という程度だろう。

 ルイちゃんが街の案内としてアレコレ喋っているので、それで何となく気になって目で追ってしまっている、という状態だ。地元民が観光客を数秒だけ見て「ああ、あの人観光客なんだなぁ」と思うようなものである。


 しかし、そのたった数秒程度の視線でも、ラガルティハはストレスを感じているようだった。

 あっという間に顔色は悪くなって、助けを求めるようにルイちゃんにちらちらと視線を送っていた。


 いや私に一切助け求めないやん。信頼しているのはルイちゃんだけかよ。良いぞもっと依存しろ。


 当然ルイちゃんはすぐに気付く。彼の隣に並ぶと、さりげなく、且つ自然にその手を握った。


「今見て来た人達は、ラガルさんを見かけたことが無い人だって気付いたから、何となく目で追っただけだと思うの。だから気にしなくてもいいよ」


 は~~~~~~~???????

 年下の女の子の方から????? 手を繋いで????? リードしていくスタイル?????

 情けねえとは思わんのかラガルティハ。だがそれが良いから一生リードされていろラガルティハ。


 というかラガルイで手を繋ぐ時はルイちゃんからっていうのがもう完全に解釈一致すぎて最高すぎるんだが?

 私最近本当にこの世界が現実なのか疑い始めてるからね? こんなに公式のラガルイ摂取していいんか? 私の前世どんな徳を積んでたの?


「もしラガルさんの事を悪く言う人が居たとしても、私が言い返して追い返しちゃうから大丈夫!」


 は~~~~~~~???????

 身体強化を使わないと私より非力なルイちゃんが????? 自分より背も高くてヒョロガリとはいえ種族的にも性差的にも身体能力に優れたラガルティハに????? そういうこと言っちゃう?????

 情けねえとは思わんのかラガルティハ。だがそれが良いから一生情けないままであってくれラガルティハ。

 さっきも似たような反応した気がする。仕方ないよね、こんな反応せざるを得ない展開だもの。


 そしてルイちゃんは、まるで迷子の子供を案内所に連れて行く優しいお姉さんのように微笑んで、「行きましょ?」と先を促す。

 促すが、強制はしない。手を握りはしたが、手を引いて歩くことはない。彼の意思を尊重しているのだ。きっと、ラガルティハが無理だと言ったら「じゃあ、今日は帰ろっか」と言うんだろう。

 だが、ラガルティハはややあって頷いた。それをしっかり見届けてから、ルイちゃんはすこしゆっくり目な歩調で歩き出した。


 保母さんじゃん。園児に「将来先生と結婚する」って言われるタイプのお姉さんじゃんこんなんよぉ!

 これこそラガルイの醍醐味よ。いや本当にこんなにラガルイを大量摂取していいんか? 逆に不安になる。


 そこから少し歩いて、分かれ道に到着する。

 もっとラガルイがイチャついてる光景を見ていたかったが、私は私で個人的な用事があるので、仕方なく二人に声をかけることにした。


「ここからは分かれて行動しようか。私、前に冒険者ギルドに行った時にちょっと忘れ物しちゃったから、それを取りに行きたいんだよね。大した物じゃないけど、出かけたついでだからさ」

「うん、私はそれで良いよ。ラガルさんはどう?」


 ラガルティハは声に出して返事こそしないものの、こくりと頷く。


「決まりだね。あっち方面だとー……肉とー……後、何か足りない調味料とかあったっけ?」

「お塩が少なくなってきてたから、買ってきてくれると嬉しいな。それと唐辛子も」

「オッケーオッケー、任された。……って、ルイちゃん辛いの苦手じゃなかったっけ?」

「ほら、トワさん辛いの好きだって言ってたでしょ? それに、あんまり使わないとしても、家にあった方がお料理のレシピも増えるじゃない。私だって、ピリ辛くらいなら食べられるし。……多分」

「人の嗜好を覚えててくれて助かる~! お礼に今度、辛さ控えめペペロンチーノ作ってあげるね。じゃあ、そういうことで、各々やること終わったらここに集合で。解散!」


 私とモズは冒険者ギルドのある方へ、ルイちゃんとラガルティハは商店街の方へと歩を進める。

 分かれてすぐに、モズが不思議そうに首を傾げつつ見上げてくる。


「ねえちゃん、忘れ物しとったん?」

「ああそれね、嘘だよ」


 まだ左程離れていないルイちゃん達に聞こえないよう、声のボリュームを控えめにそう答える。


「じゃあ何しに行くん?」

「ちょいと気になることがあるから、情報収集をね」

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