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統合艦隊司令長官の新艦隊

 統合艦隊司令長官は、帝国軍の実戦部隊の最高指揮官という要職ではあったが、三元帥マーシャル・ロードの中では最下位の地位だった。

 というのも軍事大臣は帝国軍の軍政を司る立場から、帝国軍の全てを統括する存在と言って良く皇帝騎士団ナイツ・オブ・エンペラーではナンバー2の立ち位置だった。

 そして、その軍事大臣が指し示した方針に従って作戦指揮を執り行う軍令部総長。その軍令部総長が立てた戦略を実戦レベルで実行に移す。という図式から、必然的に統合艦隊司令長官の地位は三元帥マーシャル・ロードの中では下がっていった。


 しかし、実戦部隊の最高指揮官という立場は帝国軍の間では最も高い知名度と人気を誇り、軍事大臣や軍令部総長よりも統合艦隊司令長官になりたいと考える帝国軍人はとても多い。

 過去には、クロイス・グランベリー伯爵という貴族が統合艦隊司令長官に一旦任命されるものの、高齢と言う事もあって身体的には楽な後方勤務にしてやろうという時の皇帝の配慮により、軍令部総長に任じられて残念がったというエピソードまで存在する。

 結局、皇帝の威光には逆らえずこの配慮を素直に受けるわけだが、彼は病死する最期の瞬間まで「司令長官になりたかった」と不平を漏らしたと言われる。


 現在、その統合艦隊司令長官の地位にあるのは、歴代最年少記録を更新したジュリアス・シザーランド元帥である。

 そのジュリアスは帝国軍の実戦部隊の再編成に着手していた。

「今の帝国軍艦隊は旧貴族勢力が一掃されて穴ぼこだらけだからな。これを立て直して、より効率的に運用できるようにする事ができれば、帝国軍艦隊の戦闘能力は少なく見積もっても今の倍以上になると思うんだ」

 統合艦隊司令本部庁舎内にある司令長官室にてジュリアスは持論を、統合艦隊参謀長ハミルトン准将に展開した。


「仰る通りかとは思います。しかし、具体的にはどうなさるおつもりですか?」


 ジュリアスは統合艦隊司令長官になると、司令長官の人事権を行使してハミルトンを大佐から准将に昇進させて統合艦隊参謀長に抜擢していた。帝国軍の歴史上、統合艦隊参謀長の地位を平民出身で得た者は1人も存在しておらず、ハミルトンもまた帝国軍の人事記録を更新した。


「まず帝国軍の決戦戦力である総力艦隊は、帝国の各地に展開させて貴族連合の各方面に睨みを利かせるようにした方が良いと思ってる。平時は帝都に待機して、有事になってから現地に急行しているようじゃ遅いからな」


「ですがそれでは、各地に配した戦力だけで対処し切れない事態に陥った場合、待機している艦隊がいない分、対応が遅くなる恐れがあると思いますが、その点はどうお考えですか?」


「そこでだ。司令長官直轄の艦隊を新たに編成しようと思う」


「司令長官直轄の艦隊、でありますか?」


「そうだ。司令長官は前線の最高指揮官。それが後方で偉そうに指示を出してるだけってわけにもいかないだろう」


「なるほど」

 他人に命令を出すよりも自分で動きたがる傾向のあるジュリアスらしい発想だとはハミルトンは思った。


「直轄艦隊にはクリスから預かった旧ヴァレンティア艦隊を使うつもりだ。その方が俺も気楽だからな」

 そう言ってジュリアスはニコッと笑った。


「それが宜しいかと。しかし、旧ヴァレンティア艦隊だけでは少々戦力が少な過ぎないでしょうか?」


「え?そうかな。でも、あまり数が多いと臨機応変に動けなくなっちまうんじゃないか?」


「それでしたら、必要に応じて戦力を調整できるように、直轄艦隊を複数編成しておくというのはどうでしょうか?」


「なるほど! 流石はハミルトン准将だな!」


「ではすぐに、艦隊の編成と指揮官の人選を進めておきましょう」


「おう!頼んだぞ!」



─────────────



 後日。ハミルトン准将は早速、部隊編成案とそれを率いる指揮官の人選案をジュリアスに提出した。

 新艦隊は、第1艦隊、第2艦隊、第3艦隊の3個艦隊で編成される。

 その第1艦隊には旧ヴァレンティア艦隊を当て、艦隊司令官はジュリアス本人が兼任する形を取り、名実ともに司令長官直轄艦隊とし、残る2個艦隊は司令長官の指揮の下で必要に応じて戦線参加する形式が取られる。


 そしてその第2艦隊の司令官には、ネルソン子爵家のように軍人家系の貴族グランベリー伯爵家の女性当主ヴィクトリア・グランベリー中将。

 年齢は19歳と若いながらも、軍に入隊してから常に前線に身を投じて戦い続けてきた歴戦の勇士である。

 大胆不敵な戦術を好む有能な指揮官で、明るく公明正大な人柄から部下達の人気も高かったが、遠慮無しに思った事をすぐに口する性格が災いして上層部から嫌われて危険の多い前線に配属され続けた不遇の指揮官だった。


「この人は知ってるぞ。昔、何度か最前線で一緒に戦った事がある。マイペースでお気楽な人だったけど信頼できる指揮官だと思うよ」


 続いて第3艦隊の司令官には、ジュリアスと同じ騎士ナイト階級の準貴族出身のアレックス・バレット少将。

 年齢は32歳で、戦機兵ファイターのエースパイロットとして武勲を立てて出世を重ねた人物。

 ジュリアスが電撃戦構想を提唱した際に上げた、空母を主軸にした艦隊運用を実現するために必要な人材を集める中で発掘した指揮官の1人であり、ジュリアス直属の艦隊を作る上では欠かせない人材だろうと考えてハミルトンは彼を第3艦隊司令官に推挙していた。


「バレット少将には俺も期待していた。確かに新艦隊を作るからにはこういう人材も積極的に入れていかないとな」


「第3艦隊は空母を主軸にした空母艦隊にして、バレット少将に指揮を執らせるのが良いかと小官は考えております。ただ、反骨精神が旺盛で部下としては扱いにくい人物という事で、その点が少々心配ではありますが、如何致しましょうか?」


「ま。会って話せば、どうにかなるだろう!とりあえず2人に会っておきたい」


 ジュリアスの一見無責任にも聞こえる発言を聞くとハミルトンは満更でも無さそうな笑みを浮かべて「すぐに手配致します」と返す。



─────────────



 さらに数日後。ハミルトンの手配によって、統合艦隊司令本部にヴィクトリア・グランベリー中将とアレックス・バレット少将の両名がやって来た。


「ヴィクトリア・グランベリー中将です! この度は、新設される艦隊の司令官職をお任せ頂けるとの事で、司令長官閣下のご期待に添えるよう、全力を尽くして努めさせて頂きます!」

 グランベリーはジュリアスの前に立つと、姿勢を正して敬礼をしながらそう挨拶した。彼女は、真っ赤な長い髪を後ろで一本に纏めてポニーテールにした、可憐な美少女だった。髪の色とよく似たルビーの色をした瞳には、子供の無邪気さが感じられるが、軍服に身を包んだその姿はとても凛々しく、歴戦の勇士としての風格を醸し出している。


「止めて下さいよ、グランベリー中将。何だか落ち着かないので、昔のように接してもらえませんか?」

 やや恥ずかしそうに笑いながらジュリアスが言う。


「え? そ、そう? じゃあ、久しぶりねえ、ジュリー君。元気そうで何よりだわ。色々あったから、ずっと心配してたのよ」


 グランベリーは悲し気な表情を浮かべる。それを見たジュリアスの脳裏には、ネルソン提督の顔がチラついた。グランベリーとネルソンは共に軍人家系の貴族出身という事もあって交流があり、仲もそれなりに良かったのだ。


「そのマントもネルソン提督を意識したのかしら?」


「ええ。そうですよ。提督の意志は今も受け継がれていると示すために!」


「ふふ。良い部下を持てて彼女も幸せ者ね。あなたの役に立てるよう頑張るから宜しく頼むわね!」


「はい! こちらこそ宜しくお願いします!」


 グランベリーとの話を終えたジュリアスは、彼女の隣に立つ大柄の男性に目をやる。


「アレックス・バレット少将! このような大役を任せて頂き光栄であります!」

 バレットは敬礼をしながら、そう短く挨拶をする。

 グランベリーとは対照的な青色をした彼の髪は、やや波を打った癖っ毛をしている。その髪の下にある容姿は、一兵卒からの叩き上げらしく剛毅そのものという印象だった。太い眉毛に力強い紫色の瞳を持ち、大柄の体格と合わせて軍人というより戦士の風貌を醸し出している。


「貴官には以前から目を付けていたんだ。同じ戦機兵ファイター乗りとして宜しく頼む!」

 そう言ってジュリアスは右手を前に出す。

 ジュリアスの帝国元帥とは思えない気さくな言動にバレットは一瞬戸惑うも、すぐに自らの右手を差し出して両者は握手を交わす。


「さ。まずは掛けてくれ」


 ジュリアスの勧めに応じて、グランベリーとバレットは遠慮なくそれに従いソファに座る。すると部屋の隅に控えていたネーナが3人の前に紅茶の入ったティーカップを慣れた手付きで置いていく。

 ジュリアスはその紅茶を一口飲んで喉を軽く潤した後、早速本題へと入る。

「これから新設される艦隊は、これまで艦隊決戦の中核を担ってきた総力艦隊に近いものと考えて貰って良い。だが、厳密に言えば、総力艦隊よりももっとスマートで柔軟性に富んだ部隊にするつもりだ」


 銀河帝国軍の総力艦隊というのは、複数の艦隊を率いる中核としての意味合いが強く、大艦隊を編成して行軍する事から、迅速さと柔軟さに欠けていた。

 また、大兵力を動かして費用と労力を消耗するのを渋って、必要な時に動員できなかったという本末転倒な事態まで起こしていた。


「俺はこの総力艦隊の欠点を補うために、この新艦隊には単独での行動を基本とするつもりでいる。勿論、必要に応じて他の艦隊を指揮下に加える事はあるけどな」


 ジュリアスの説明を受けたバレットは「なるほど」と呟きながら笑みを浮かべる。

「司令長官閣下の電撃戦構想に関する資料は読ませて頂きましたが、この新艦隊も閣下の思想の表れが感じられますな。閣下は大艦隊を率いて行軍するよりも少数精鋭を好むようですな」


 バレットの言葉を聞き、ジュリアスはやや恥ずかしそうに右手で後頭部をポリポリ掻いた。

「いや~。仰々しいのは苦手でな。できる限り身軽でいたいんだ」


「それはそれは。帝国軍史上、こんな統合艦隊司令長官は類が無いのではありませんか」


「かもな。だが、別に前例が無いから良くないなんて事はないだろ」


「それは勿論です。ただ、周囲からは異質な存在として見られるでしょうな」


「他人の目なんて気にしても始まらないさ。それに旧体制下ならまだしも、今は新しいものをどんどん開拓していく時代だ。異質だのを気にしているようじゃあこの時代を生き残れないと思うぞッ」


 ジュリアスの言葉を聞いてグランベリーはクスリと笑う。

「やっぱりジュリー君は面白い子ね。ネルソン提督がお気に入りだったのも頷けるわ」


「ふふ。失礼ながら小官も閣下の事を気に入りました。今日よりは小官の忠誠心の全てを閣下に捧げる所存です」


「そんな堅苦しいのは止めてくれ。俺達はこれから共に戦場を駆ける事になるんだからな」


「了解しました。……そういえば、新設される艦隊の名前は決まっているのですか?」


「ん? ああ、決めてあるぞ。突撃機甲艦隊“ストライク・イーグル”だ」


「ストライク・イーグル?」


「ふふ。あなたらしい良い名前じゃない」


 この新艦隊、突撃機甲艦隊ストライク・イーグルは、この後、銀河の歴史に重要な役割を果たす事になるのだが、今の時点でそれを知る者は誰もいない。

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