表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/175

ヘルの新要塞ニヴルヘイム

 時はほんの少し遡り、帝国軍のセグメンタタ部隊と連合軍のシュヴァリエ部隊が衝突して激戦を繰り広げる中。

 ジュリアス率いるラプター部隊は休息と補給のためにヴァレンティア艦隊に帰還し、ジュリアス自身も旗艦ヴィクトリーの艦橋へと足を運んだ。


「クリス、トム、戦況はどうだ?」

 艦橋に入るなりジュリアスは休む間もなく戦機兵ファイター師団長から副司令官の職務に精励する。


「ジュリー、戻ったばかりなんだから、ここは僕等に任せて少し休んできたら?」


「そうはいかないよ。まだ戦闘は続いてるんだからな」


 そう答えるジュリアスに指揮官席に座るクリスは小さく笑みを浮かべながら、彼の問いに答えた。

「戦況は五分五分という感じです。ですが、味方の戦機兵ファイターは今だ敵陣を突破できずに敵艦隊に近付けずにいます」


「……いっそ第2陣のラプター部隊も最前線に進めたらどうだ?」


「いえ。ラプター部隊は艦隊殲滅の要。格闘戦ドッグファイトで損失の出すのは極力避けるべきです」


「それもそうか」


 クリスティーナの意見に同意したジュリアスは「俺ももう1度出て活路を開いてやるか」と言おうとしたその時、通信オペレーターが声を上げた。

「ろ、ローエングリン総統閣下より通信です!これより新兵器を以って敵要塞を消滅させる。全艦隊は直ちに現宙域より退避せよ。これは総統命令である。以上です!」


「よ、要塞を消滅させるだって?」

 何の冗談だと言いたげにトーマスが声を上げる。


 しかし戦闘の最中にこんな冗談めいた通信をあのローエングリン公が送るはずがないと誰もが思い、クリスティーナはすぐに戦機兵ファイター部隊の撤収及び艦隊に退避を命じる。



─────────────



 帝国軍艦隊が戦場からの急な後退を始める中、その命令を発したローエングリンは、宇宙機動要塞“ニヴルヘイム”でバーミンガム星系に来ていた。

 ニヴルヘイムの中央指令室にてローエングリンは、先日少佐に昇進した副官のアルベルト・ボルマンより味方が射線上より退避したとの報告を受ける。


「よし。光学迷彩を解除しろ。ギガンテス・ドーラの太陽反応炉アポロンリアクターは3基のみを稼働させる」


「了解致しました」


 ボルマンは一旦ローエングリンの下を離れて、主君の指示をオペレーターに伝えに行く。


 その少し後、ニヴルヘイムを覆っていた光学迷彩が解除され、その姿が戦場で戦う帝国軍及び連合軍の双方に視認された。

 直径200㎞の球体上の形をしたニヴルヘイムは、連合軍のアンダストラをも遥かに上回る巨大さであり、おそらく人類史上最大規模の建造物だろう。

 突如姿を見せたその人工天体に帝国軍及び連合軍が圧倒される中、このニヴルヘイムの主砲“ギガンテス・ドーラ”の発射準備が進められた。


太陽反応炉アポロンリアクター3基、同調良し」


「エネルギー充填完了!」


「目標、敵要塞。ロックオン完了!いつでも撃てます!」


 各オペレーターからの報告を受け、ローエングリンは短く「撃て」と告げた。

 命令が発せられたのと同時に、鋼鉄の装甲で覆われたニヴルヘイムの表面に変化が生じる。

 12本の光が要塞表面に円を描き、それが一本の白い柱となって漆黒の闇に包まれた宇宙空間を横断した。巨大な高熱とエネルギーの塊は一瞬にして貴族連合軍の宇宙機動要塞アンダストラを呑み込み、その破壊力を以って宇宙の塵へと変えてしまった。


 その衝撃的な光景に戦場で戦う貴族連合軍艦隊は勿論だが、帝国軍艦隊もあまりの衝撃に消滅したアンダストラの残骸を見ながら、双方共に呆然としてしまい、戦場は一時奇妙な静けさが覆う事になる。

 やがてアンダストラからヴァンガードに司令部を移していたウェルキンは全軍に撤退を指示した。ウェルキンがほぼ個人的な好みから司令部機能が充実したアンダストラから乗り慣れたヴァンガードに司令部を移転させていた事がこの際幸いし、連合軍は要塞諸共艦隊戦力も全滅させられるという最悪の事態だけは回避できた。

 一方、帝国軍艦隊はこれを追撃しようと試みるも、連合軍の殿しんがりを務めるヴァンガード級2隻の重厚な守りの前に大した成果は上げられなかった。



─────────────



 帝国軍艦隊を振り切ったウェルキンは、残存戦力の確認をする中で、副官の訃報を耳にする事になった。

「提督、アンダストラに残って要塞の指揮を執っておられたクリトニー大佐が戻られておりません。……おそらくあの攻撃に巻き込まれたものと」


「……そうだろうな。あれで生還者がいるとしたら、そいつはもう人間ではないだろう」

 長きに渡って自分の右腕を務めてくれていたクリトニーの死に、ウェルキンは肩を落とした。


「……あ、あの、提督、」


「あぁ、すまんな。まだここは敵地だったな。部下の死を嘆くのは帰還した後にするとしよう。あんな攻撃をもう1度受けたら、我が艦隊など一溜りもないのだからな。のんびりもしていられん」


 エディンバラ貴族連合の命運を掛けたこの出兵は、たった1度の攻撃で瓦解してしまった。



─────────────



 連合軍を撃退して勝利を収めた帝国軍艦隊は、新要塞ニヴルヘイムと合流。ガウェインやジュリアスなどの提督達は、ローエングリンの命令で中央指令室へと召集された。

「貴公等の勇戦ぶりは実に見事であった」

 ローエングリンが集まった提督達を労う。


 しかし、提督達はこの巨大過ぎる要塞の事が気になって仕方が無いという様子の者がほとんどだった。それを察したローエングリンはボルマン少佐にニヴルヘイムの概要を説明するように命じる。


 ボルマンの説明によると、ニヴルヘイムは元々30年前より皇帝騎士団ナイツ・オブ・エンペラーが極秘裏に建造を進めてきた要塞だという。貴族連合を一掃し、銀河系の秩序を取り戻すというのが目的だったが、あまりに巨大な建造物だった事と要塞主砲ギガンテス・ドーラの開発に難航した事から30年という長い時間を要したのだという。


 直径200㎞という天体規模の大きさで、ドレッドノート級宇宙戦艦を100隻収容できる軍港を持ち、最大収容人員は800万人。

 要塞内には、最大1000万人規模の食料を生産できる食料プラント、光子剣フォトンサーベルから宇宙戦艦まで修理・生産できる兵器工廠などが設けられており、物資の最低限な供給さえできれば永遠に自給自足が可能な戦略拠点となっている。

 大量破壊兵器とも言えるギガンテス・ドーラを搭載したこの要塞は、戦略兵器であり、前線基地であり、後方基地としても機能できる。


 この要塞最大の目玉であるギガンテス・ドーラの完成の目途が着いたのは、帝国軍の技術陣の努力の末とは言い難かった。その点についてはボルマンからではなく、シャーロットから説明がなされた。

「前に連合軍の大型戦艦を鹵獲したでしょう。あの艦に搭載されていた戦艦を一撃で粉砕できる主砲の構造を、徹底的に調べ上げて応用したのよ。ギガンテス・ドーラを最大出力で発射したら、計算上は惑星くらいなら一撃で消し飛ぶ威力が出るはずよ。尤も、今の状態で最大出力なんて出したら、この要塞まで巻き込まれて吹き飛びかねないから、まだまだ改良中なんだけどね」


 さらりと言ってのける拘束衣の少女の発言に、提督達は唖然とする。


「わ、惑星を破壊できるだって?」

 辛うじてジュリアスが声を漏らした。


「そうよ。星の中枢をエネルギービームで貫いて破壊して、木っ端微塵に吹き飛ばせるわ。平均的な可住惑星ならね。……ふふ。このギガンテス・ドーラが完全に出来上がれば、私の生涯最高の作品になるわッ!」

 楽しそうに、そして誇らしげに語るシャーロット。


 ジュリアスはしばらく言葉が出なかったものの、やがてローエングリンに不信感を秘めた視線を送る。


「……総統閣下、1つお聞きしても宜しいでしょうか?」


「構わん。言ってみろ」


 ローエングリンがそう返す傍ら、彼の横にいるボルマンが軽々しく総統閣下に、と不満そうな顔をする。


「このような兵器があったなら、どうして事前に小官達にもお話頂けなかったのですか?もし教えて下されば戦い方も大きく違いました。積極的に攻勢を掛ける必要は無く、守りを固めた戦術を取っていれば味方の犠牲はもっと少なく済んだはずです」


 味方を囮にして大量破壊兵器で敵部隊を叩く。それはかつてジュリアスが惑星ロドスで、自分達を捨て駒にして帝国軍の主力部隊を壊滅させたモンモランシー提督の取った戦術と同じだと思えてならなかった。味方に退避命令を出したあたり、モンモランシー提督よりはずっと良心的だろうという思いがジュリアスの中で辛うじてブレーキになっていたものの、自分達を囮に、しかもその事を伝えられていなかった事にジュリアスは大きく不満を感じたのだ。


「先ほど説明があった通り、ギガンテス・ドーラはまだ改良の途上にあり、性能についても不明瞭な点が多い。そんなものを初めから当てにして作戦を立てるわけにもいかんだろう。それにこの要塞は推進装置とワープエンジンを取り付けて自立移動を可能としているが、その航行速度は民間商船にも劣るほど遅い。

 敵を確実に仕留めるためには帝国軍の総力を挙げて防衛線を張って足止めをする必要もあった。貴官等の戦闘はこの要塞の有無に関わらず必要なものだったのだ。加えて言うなら、敵の進撃目標が判明しない以上、帝国領深くに陣取って待ち構えるというわけにもいかない。もし的外れなポイントに要塞を移動させたら、もう追いつくのは不可能だろうからな」


「……」

 ジュリアスは何も言い返せなかった。ローエングリンの言う事が正しいと彼自身認めざるを得なかったからだ。ただ、理屈では呑み込めても、心のどこかで納得できずにいるジュリアスは、沈黙を守ったままもどかしそうな表情を浮かべた。


 そんなジュリアスの顔を見て、彼の心中を察したものの、ローエングリンは特にそれ以上口を出そうとはしなかった。

「さて。ではそろそろこの要塞の中を案内するとしよう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ