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エディンバラ大公国

 スバロキアの戦いから半月ほどが経過した頃。


「銀河系の勢力図が大きく動こうとしている。これに乗じて、これまで日和見を決め込んでいた中小勢力を一気に味方に引き込むべきだと思うんだ」


 共和国三人委員会の席上にてトーマスがそう提案した。


 この銀河系には共和国にもネオヘルにも味方せず、というより立場的にどちらにも味方できずに結果中立のような立ち位置でこの戦乱をやり過ごそうとしている勢力が少なからず存在する。

 その多くは旧貴族連合の残党が立ち上げた軍閥政権だった。


 彼等はエディンバラ貴族連合が滅亡した後も陰に潜み、ずっと再起を図っていた。

 そしてローエングリン総統が死去し、共和国とネオヘルの抗争が長期化の構えを見せると各地で兵を挙げて独自の勢力を形成したのだ。


「彼等だってこっちが歩み寄れば、きっとこれを好機だと捉えると思うんだ」


 トーマスの提案にクリスティーナは好意的な姿勢を見せる。

「確かにそうですね。帝国が完全にこちら側に付き、ネオヘルはアルヴヘイム要塞を失いました。この情勢を見れば、どちらに付いた方が無難かは誰の目にも明らかでしょう」


 その一方、ジュリアスはそこまで乗り気ではなかった。

「それは分かるがよ。そう簡単に行くかな?向こうにだって意地がある。こっちの誘いにホイホイ乗るのは限らないぜ」


「とはいえ、双方の国力差を埋めるようとネオヘルが中立勢力を取り込もうと動き出す可能性もあります。今の内にこちらも動いておくべきかもしれませんよ」


 こうした中立勢力は個々で見ると共和国にとって大した脅威とはならない。

 しかし、仮にその中立勢力が全てネオヘルの側に付いた場合、話は自ずと変わってくる。

 クリスティーナは実現できるできないに関わらず、共和国が彼等を受け入れる用意がある。少なくとも友好関係を築く意思があるという事を強く示す必要性を考えた。


「……だったら、まず手を付けなきゃならんのはエディンバラ大公国、だな」


 ジュリアスが口にした“エディンバラ大公国”とは、かつて貴族連合の根拠地が置かれていた惑星エディンバラを中心に勢力を張る独立国家。

 連合が滅亡した後、惑星エディンバラと周辺星系の統治を任されたエディンバラ領総督ジュール・ベルナドット伯爵が立ち上げた国であり、その支配領域もこの当時の管轄領域と重なっている。


 元々貴族連合で内務官を務めていたベルナドットは、その連合を自らの手で滅ぼして帝国に降伏。貴族連合の歴史に幕を下ろした。

 そしてその後は、皇帝よりエディンバラ領と名付けられた領域を統治していたのだが、ローエングリン総統が死去した後は帝国を離反して独自の勢力を形成している。


「エディンバラは武力こそ共和国やネオヘルに比べると遥かに劣るが、それでも半世紀もの間、銀河系の半分の中心地だったんだ。その経済力と影響力は味方にできれば心強い」


「それじゃあ決まりだね」


「ええ。私は異論はありません」


 こうして三人委員会はエディンバラ大公国との同盟を結ぶ方針で決した。



─────────────



 エディンバラ・シティ。

 かつて貴族連合の首都として銀河系の約半分の中心地として機能していたここは、多数の超高層ビルが立ち並ぶ大都市である。

 貴族連合が崩壊した今となっては以前のような繁栄は失われたものの、それでもエディンバラ大公国の首都、そして周辺星系の経済の中心地、さらに旧連合勢力の総本山としての地位は維持していた。


 そんな都市から少し離れたところに建つエディンバラ宮殿。

 この宮殿の南側には、芝生や花畑、人工池に噴水と自然豊かな庭園が広がっている。

 ここを散策している、ベージュ色の長い髪をした20代半ばくらいの女性がいた。


 赤を基調とした豪華な貴族風の衣装に身を包み、その姿は旧帝国貴族を彷彿とさせる。

 首には高価なネックレス、指には大きな宝石の嵌められた指輪と、外見からもその浪費家ぶりを充分に伺う事ができた。

 ウェーブの掛かった艶のある髪の上には、薔薇の花が幾重にも添えられた独特の帽子が乗っている。


 そんな彼女の下に黒いスーツ姿の若い執事が、綿菓子のようなふわふわとした印象の黄緑色の髪を揺らしながら、慌てた様子で駆け寄る。

「夫人! 大公夫人! 大変であります!」


「どうしたの、フィリップ? そんなに慌てて」


「は、はい。それが銀河共和国より使者が参っております。我が国との首脳会談を求めているとの事です」

 まだ幼さを残した童顔の執事は、真剣そのものという表情を浮かべている。


「ふふふ。やはり来たわね。そろそろ頃合いだとは思っていたけれど」


 大公夫人と呼ばれた女性は、落ち着いた口調で言う。

 彼女の名はマリー・ドトリッシュ・エディンバラ大公夫人。

 元々は旧連合貴族の名家ドトリッシュ伯爵家の女当主だった。


 しかし、ローエングリン総統の死後、混乱する帝国に見切りを付けてベルナドット伯爵がエディンバラ大公国を創設し、その統治者としてエディンバラ大公を僭称せんしょうするようになると、彼女は旧連合貴族の中から同志を募って政権を奪い取り、エディンバラ大公の座を奪い取ったのだ。

 ベルナドット伯爵は貴族連合を見捨てて帝国に寝返り、その見返りにエディンバラ領の総督の地位を得たという事で、他の旧連合貴族からは大きく恨みを買っており、政権奪取はあっという間に実現した。


 こうしてエディンバラ大公国が真の意味で、旧連合の後継勢力としての立場を固める事となるのだが、その過程でもやはり旧連合貴族達による新国家の主導権争いの影がチラつき続けていた。


 それに対抗するためにエディンバラ大公夫人は“国家憲兵隊”という大公直属の警察組織を立ち上げて自身の武力を強化した。

 さらにその一方で旧連合貴族を巧みに操る事で争わせ、双方を弱体化させるといった策略も巡らせており、この5年の間にエディンバラ大公国は彼女の独裁体制が確立したと言って良かった。


 そんなエディンバラ大公夫人は当然、国外の情勢にも目を光らせており、共和国やネオヘルの戦争にも注目していた。


「共和国は帝国を完全に取り込み、この銀河全てを手に入れようという勢い。私達のような未だにどっち付かずの立場にいる勢力を傘下に引き込むのに、これほど絶好のタイミングもそうそう無いでしょうね。・・・使者には会談を受諾したと伝えなさい」


「承知致しました。ではそのように」

 そう言って執事は一礼してその場を離れようとする。


「あぁ、待ちなさい。もう2つ伝えておいてちょうだい。会談の場所はこの星。そして日取りは来月の1日に、と」


「来月の1日、ですか? ……あ、お、お待ち下さい。その日はネオヘルのレナトゥス書記長の来訪を受ける予定になっております!」


 銀河共和国がエディンバラ大公国に接触を図ってきたように、ネオヘルもまた巻き返しを図るためにエディンバラへの接触を試みていたのだ。


「構わないわ。共和国とネオヘル。この2つが天秤に乗っている事を双方に分からせてやれば、交渉も有利に運べるでしょう」

 エディンバラ大公夫人はまるで悪女のような笑みを浮かべる。


「しかし大丈夫でしょうか?大公国の領土内で戦闘が始まったりしないでしょうか?」


 敵対している勢力同士の首脳を同時に呼び付ける。しかも、それは双方に伏せた上でだ。

 最悪の事態が脳裏を過っても仕方がない事だろう。


「そうなったらなったで、先に引き金を引いた方が私達の敵となる。それだけの事。後先考えもせずに動くような輩とは手は組めないしね」


「は、はぁ」


「奴等だって我が国の軍備を知らないわけじゃないはずよ。下手に戦闘なんて始めたらどうなるかくらいの判断はできるでしょう」


 エディンバラ大公国軍は、旧貴族連合軍の流れを汲む軍事組織だった。

 銀河帝国に降伏したベルナドット伯爵に従った軍の一部が、そのまま銀河帝国エディンバラ領駐屯軍となり、エディンバラ大公国建国後はエディンバラ大公国軍と名称を改めて今日に至る。

 その軍事力は、共和国軍やネオヘル軍にはおろか帝国軍にすら劣るほど貧弱なものではあったが、それでもエディンバラ大公夫人は軍備拡張に余念が無かった。


 各地に散り散りになった旧連合軍の残党を呼び集めたり、帝国によって閉鎖された旧連合軍の工廠を再稼働させるなどして、兵士と兵器を増やしている。


 帝国が崩壊した今となっては、この銀河系において3番目の軍事力を有していると言っても過言ではないかもしれない。

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