スバロキアの戦い・援軍
突如、ブレスレット端末から聞こえてきた女性の声。
その声の主が誰なのか、ジュリアスは瞬時に理解した。
「く、クリスか!? な、何で?」
ジュリアスが使用しているブレスレット端末は、長距離通信にも対応している軍用規格。
しかし、それでも星々を飛び越えての通信ともなると、いつでもどこでも通話可能とはいかない。
まして周辺宙域には強力な妨害電波が出されており、近距離の通信でもややノイズが走るほどだった。
そんな状況にある中、なぜクリスティーナの声がブレスレット端末の通信機能を介して届いたのか。それがジュリアスには不可解でならなかった。
しかし、その答えはクリスティーナの返事を待つまでもなく、自ずとジュリアスの前に現れた。
「こ、これは! 3時方向に艦影を多数確認! 妨害電波の影響で精確な数は不明ですが、少なくとも50隻以上はいるかと!」
索敵オペレーターが声を上げて報告する。
妨害電波のおかげで識別信号の確認すらできず、艦橋内ではそれが敵なのか味方なのかの判別すら時間を要した。
艦橋内に緊張が走る中、確認が取れたところで索敵オペレーターが再度報告をした。
「帝国軍です! 帝国軍艦隊です! さらに先頭には共和国軍第5艦隊も確認! 増援艦隊の到着です!」
その報告を聞き、艦橋のメインモニターに映し出された増援艦隊の姿をその目で確認した艦橋一同は歓喜の声を上げた。
ネオヘル軍の数倍の艦艇数を誇る帝国軍艦隊からは、続々とセグメンタタ部隊が出撃してネオヘル軍のフォートレス部隊に襲い掛かる。
セグメンタタは、5年前より帝国軍の主力戦機兵として活躍した機体だった。
ラプターシリーズの登場以降は活躍の機会を奪われるようになり、今では共和国軍からもネオヘル軍からも旧式機と見られるようになっている。
そんなセグメンタタの大部隊に対して、フォートレスは精確な射撃で応戦するが、圧倒的な数の前に迎撃が間に合わず次々と撃墜されていく。
帝国軍艦隊を構成するアリシューザ級宇宙巡洋艦も旧型艦には違いなく、元々戦艦よりも火力が劣る巡洋艦クラス。
単艦での戦闘能力を追求したネオヘル軍のビスマルク級との実力の差は誰の目にも明らかだった。
それでも数隻が1隻に集中砲火を浴びせる事で戦艦並の火力を叩き出した。
帝国軍艦隊の集中砲火を一身に浴びたネオヘル軍艦隊の戦艦クロウバーグは、強力なシールドで何発もの艦砲射撃の直撃に耐え、大艦巨砲主義を体現したようなその主砲で何隻もの巡洋艦を相手に勇猛果敢な戦いぶりを見せる。
しかし、その勇戦も虚しく、多数の砲門を向けられ、その砲火に晒されたクロウバーグのシールド生成器は限界を迎えてシールドが消滅。
クロウバーグは丸裸状態で多数のエネルギービームの直撃を受けて撃沈してしまう。
クロウバーグが轟沈したとの報がネオヘル軍艦隊旗艦グローリアスにもたらされる。
「クロウバーグ、轟沈! サンドウェル艦隊の戦線が崩れます!」
「帝国軍艦隊が砲台方面に展開!フォートレスの防空部隊だけでは応戦し切れません!」
「第7戦機兵大隊が突破されました! 砲台に敵セグメンタタ部隊が接近中!」
突如現れた帝国軍艦隊、そして次々と打ち破られていく味方部隊の報を前に、デーニッツは呆然としていた。
「どういう事だ? 帝国軍の主力艦隊はキャメロットと共に消滅したはずだ。どこからこんな艦隊が湧いて出た?」
現在の帝国軍の主要戦力と言える艦隊は全て帝都キャメロットに配置されており、そこから帝国領全体に睨みを利かせるという形を取っていた。
かつてのように各星系に艦隊を配するほどの国力も軍備もない帝国としてはそうするしかなかった。
だがその結果、その主力艦隊はキャメロットと運命を共にして消滅。帝国はネオヘル軍に対抗し得る戦力を失ったはずだった。
デーニッツの疑問に、老齢の幕僚が答える。
「見たところパトロール艦隊や治安部隊などの混成艦隊のようです。おそらく帝国領各地の部隊を招集・再編成したのでしょう」
「急ごしらえの寄せ集めか。そんな悪足掻き如きにやられてなるものか! 全艦隊、陣形を立て直せ!」
デーニッツは各地で食い破られつつある戦線を立て直して、押し寄せてくる帝国軍を蹴散らそうと試みる。
ネオヘル軍の注意が帝国軍に向いた事で、共和国軍への攻勢はやや鈍くなった。
この隙にジュリアスは劣勢に立たされていた共和国軍の陣形を立て直そうと奔走している。
その中、艦橋のメインモニターにて通信回線が開く。
ネオヘル軍の妨害電波の影響もあって若干ノイズが走っているが、メインモニターの画面上にはクリスティーナの姿が映し出された。
「どうやら間に合ったようで何よりです。まったく!無茶をしないようにとトムからも言われているでしょう!」
「お、お説教は後で良いだろ、クリス。それはそうと助かったよ。それにしても、一体どうやってこれだけの艦隊を揃えたんだ?」
ジュリアスの問いにクリスティーナは、ニッコリと笑いながら隣に立つ人物を画面の中へと引っ張り出す。
「久しぶりだね、ジュリアス君」
「ヴァ、ヴァレンティア伯爵?」
それはクリスティーナの実父であるクリストファー・ヴァレンティア伯爵。
彼はクリスティーナの父でありながらこの5年間、共和国へは渡らずに帝国に残り、両国の橋渡しをする役目を担っていた。
旧帝国貴族の中でも名門の家系であるヴァレンティア伯爵家の人脈は今も健在であり、帝国の政権を担っていたゲーリングからも一目置かれていた人物だった。
クリスティーナが推し進めていた共和国軍と帝国軍の統合計画の交渉にも携わっており、多忙を極めていた彼はキャメロットを離れる事も多く、それが功を奏してキャメロット消滅の難を逃れたのだ。
そしてこの事態に対応するため、自ら百人評議会臨時政府の首班となり、以前より協議していた軍の統合を決定。
彼と同じく運良く生き残った百人評議会のメンバー達も消えてなくなったキャメロットの惨状を耳にしては生き残るためにもヴァレンティア伯爵に従うしかなかった。
各地の艦隊を集められるだけ集めて、娘と共に駆け付けたというわけだ。
「ですが、これはあくまで寄せ集めの烏合の衆。長期戦になるとこちらが不利です」
「分かった。こっちもすぐに反撃に出る。一気に方を付けよう」
ジュリアスは艦隊の陣形を整えて反撃に打って出た。
これに合わせて自らライトニング・カスタムに乗り込み、待機中のライトニング部隊と共に出撃。
持てる力の全てを出し切り、このままネオヘル軍艦隊を打ち破ろうと試みる。
多方面から攻め立てられたネオヘル軍は防戦一方に追い込まれた。
しかし、その防衛線は短時間の戦闘で突き破られ、共和国軍のライトニング部隊が至近距離から巨大砲台に、ビームランチャーによる高エネルギービームを食らわせた。
それを境に他の戦機兵部隊やその後ろにいる艦隊も次々と砲台に攻撃を加え、シールドを失った砲台は崩壊。
各所で爆発が発生し、周囲に展開していた防衛部隊の一部を巻き込みながら4つに引き裂かれた。
その光景を旗艦グローリアスから眺めていたデーニッツは、床を蹴って収まらない怒りを少しでも発散する。
「くそ! よくも砲台をッ!」
「閣下、我が艦隊は戦線が崩壊しつつあります。ご指示を」
「……要塞を浮上させろ!要塞の火力を使って奴等を叩きのめすのだ!」
「で、ですが、それでは要塞も敵の砲火に晒されてしまいます!」
「惑星から離れれば、要塞もシールドを張れる。そうなればちょっとやそっとの艦砲射撃など何の問題にもならんさ」
デーニッツは要塞表面に設置されている無数の対空砲で敵部隊を蹂躙してやろうと考えた。
また惑星上にいる限り、アルヴヘイム要塞はシールドが起動できずに無防備になってしまう。
であれば、いっそ上昇させて惑星から離し、シールドを展開しつつ戦線に加えてしまった方が要塞も安全だという理由もある。
帝国軍艦隊の登場で一時は劣勢に立たされたが、帝国軍の装備は共和国軍やネオヘル軍の物に比べると旧式な上に脆弱。
しかも急ごしらえで用意した寄せ集め部隊ともなれば、まだ戦い様はいくらでもある。




